M&Aアドバイザリー(FA業務)の面接対策(9) 〜面接において「会社は誰のものか?」という質問をされたとして〜

M&Aとキャリア
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以前、中途採用の面接で聞かれるかもしれない質問を色々と考えておりました。

(参考情報:前回の記事)

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今回、改めて追加の質問をひとつ思い出したので、そちらについて考えてみたいと思います。

たとえば、中途採用の面接等で、

面接官:「会社は誰のものだと思いますか?」

と問われたとして、

応募者:「会社は株主のものです」

と即答することでしょう。

もし、別の答え(「会社は株主のみならず、取引先や従業員のものでもあります」等)をする人がいるならば、その人はM&Aアドバイザリーの仕事には向かないかもしれないと思われてしまうリスクがあります。

「会社は誰のものか」は経営学のテーマになるようですが

一般的な認識

Googleで調べてみますと、「会社は誰のものか」というテーマについては、色々な回答がありそうだということが分かります。

たとえば、

「会社は株主だけのものではなく、取引先や従業員を含むもっと広い人々のものであり、決して株主だけのものではない」

という”理想論”を主張される方が居るのも事実です。

それが学問であったり個人の価値観の範囲内の話であれば、色々な考え方があっても良いと思います。

M&Aアドバイザリーの仕事をするならば

ただし、それはあくまでも個人的な世間話の範疇でならばという前提つきのことであり、M&Aアドバイザリーの仕事をお金を頂戴するプロとしての業にするならば、会社は誰のものかに対する回答は唯一無二で、

「会社は株主のものです」

となります(会社法を読めば、会社の所有者が誰なのかは一目瞭然です)。

会社は株主のものである、という前提に立ちながらの深掘り

論点1.所有者なら自由に「処分」できるのか

何かを所有しているということは、その対象物に関する処分権を持っていると言えそうです。

(例としては若干好ましくないですが、たとえば、自然人である我々にとって、自分の身体は自分の所有物ですので、どうにでもなれと思えるならいかようにでも「処分」できるということです)

共同所有であるということ

ただし、ここが自然人と異なるところですが、会社を所有しているという株主は一人とは限りません。

すなわち、会社の仕組みとして、持分所有者たる地位を均等に細分化された割合的単位の形である株式というものにしてしまったため、会社を処分しようとしても、株主の総意として一定の要件を満たさない限りは実行ができません(清算や全事業譲渡や消滅合併等の決議要件を参照)。

自由に処分できるのは株主自身が所有している株式だけ

ということで、M&Aアドバイザリーを生業とする者の立場としても

「『会社は株主のもの』であるものの、だからといって株主が自由に処分できるものは会社ではなくて、株式である」

という認識に立たなければなりません。

要は株式を自由にできる権利には、もちろん議決権を行使するという権利も含まれますので、

  • 株式を自由にする権利 → 議決権行使の自由 → 結果として消滅合併等の法律効果の発生

という流れがあるということを理解しておく必要があるという意味です。

M&Aは会社自身や会社の重要な資産の処分を意思決定することとも言えますが、それは株主が自由に決められるわけではなくて、株主の総意としての株主総会が必要であるということです(当たり前ですが)。

なので、面接等で

「会社は株主のものなら、株主は会社を自由にできるってことだよね?」

と聞かれた場合には「はいできます」と即答せずに、株式の処分と議決権行使による会社自身の処分に分けないと論点が明確になりません。

論点2.「会社の資産」も株主のものか

さらに、こんな質問も考えられます。

面接官:「会社は株主のものならば、会社の資産も株主が自由にしても良いってことだよね。たとえばこのオフィスの土地や建物も株主が自由にできるってことかな?」

・・・さて、この質問への答え方はいかがでしょうか。

答えは、

「株主は必ずしも会社の資産を自由にできるとは限らない」

となります。

実は、この答えに至るまでは2つの観点からの検討が必要です。

会社の資産は会社のものです

会社は「法人」であり権利義務の帰属主体になれますので、オフィスの土地や建物等は会社の所有物です(決して株主による直接的な所有物ではない)。

なので、株主は勝手に他者である会社の所有物たる土地や建物を勝手に処分することはできません。したがって、ある土地を売りたい株主がいたとするならば、

  • 株主としてこの土地を売りたい
  •  → 原則として定款上の定めがない限り土地の売却を株主総会決議事項にできない
  •  → 土地を売るという判断を取締役にさせなければならない
  •  → 土地を売るという判断をする取締役を選任する必要がある

という流れを経る必要があろうかと思います。

会社は株主のものである、という意味は、法人としての会社そのものを(一部)所有しているということです。

会社のバランスシートを考えていただければイメージがわきやすいですが、

  • 左側の諸資産は会社の所有物を表しており、土地等もここに含まれ、これを株主が直接自由に処分はできない(所定の手続を経る必要がある)
  • 右側は資金調達源泉(痕跡)を表している
    • 諸負債は返済義務のある調達
    • 株主資本は返済義務のない調達(代わりに会社の所有権を与えている)

となっております。

会社のバランスシート
諸資産  XXX

(会社の所有物)

諸負債 XXX

(会社の返済義務)

純資産(株主資本) XXX

(会社の所有者の痕跡)

会社の資産は銀行のものかもしれない

会社の資産は会社のものであるということは上述のとおりですが、極端な例を挙げると次のような会社の場合はどうでしょうか。

会社のバランスシート(負債過多)
諸資産  10,000

(会社の所有物)

諸負債 9,999

(会社の返済義務)

純資産(株主資本) 1

(会社の所有者の痕跡)

おそらく、このような負債が多い、すなわち借入過多の会社の場合、資産のほとんどを担保に取られてしまっていると思います。

なので、会社の資産は会社のものであると言っても、実は銀行のものなわけです。

そうなると、株主として正当な手続を経たとしてもその資産を自由に処分することはできないということになります。

したがって、このようなバランスシートの会社の場合、

「会社は株主のもの」

であるというのは名目上のことであり、実質的には、

「会社は銀行のものである」

といえるかもしれません。

さいごに

会社は株主のものである、というのはM&Aの仕事をやろうと考えている人にとっては至極当然だと思いますが、それを踏まえてもう少し深掘りしてみると色々と興味深い質問が想定できそうです。

もし、面接でこのように深掘りした質問に出くわしたなら、慎重に回答していただきたいと思います。

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