株式交換入門1 / 株式交換をゼロから学ぶ 〜株式交換比率とは?〜

M&A講座
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株式交換をゼロから学ぼうという趣旨で先輩と後輩の対話形式で記事を書きました。

何回かに分けて連載していきます。

文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です。

1.株式交換をゼロから学ぼう

◎ここ最近、一般の方から「株式交換比率とは何ですか?」と聞かれることが多いのです。

◆◆TOB+現金対価スクイーズアウト程ではないにしても、完全子会社化の手法として株式交換は引き続き幅広く使われているからね。そんな中、君がM&Aアドバイザリーの仕事をしているから質問したくなるのかな。

◎先輩なら株式交換比率をどのように説明しますか?

そもそも株式交換とは・・・株式が対価となる

◆◆そうだね。まず、株式交換比率とは何かを考える前に、そもそも株式交換とは何かを知る必要があるよね。まずは頭の体操だけど、ある会社が他の会社を買収するとき、売手に対価として何を渡すかな?

◎普通は現金ですね。

◆◆そのとおりで、一般的な株式の売買(株式譲渡)であれば現金を対価とするよね。
でも、手許の現金が少ないとか、なるべく現金を使いたくない場合には「他のもの」を対価として渡すしかないよね。

◎ええ。

◆◆その「他のもの」として買手自身の株式を売手に対価として渡すことができるなら便利だと思わない?

◎なるほど。もらえるものが現金でなかったとしても、たとえばそれが上場株式なら株式市場で流通していて換金性が高いですし、場合によってはその後の値上がりも期待できますからね。

◆◆そんな具合に、企業買収の対価として買手自身の株式を売手に渡すことができるのが「株式交換」なんだ。

◎でも、それだけなら普通の株式譲渡の案件であっても、引き渡す対価を「ウチの株式でよろしく」と言えば済む話ですよね?

◆◆おっしゃるとおりで、一般的な株式譲渡の案件でも対価を買手自身の株式にもできるよ。現物出資規制とかへの対応が必要になってきたりして煩雑にはなるけれども、制度的には可能だね。

◎じゃあ、株式交換の意義・特徴は「対価を買手の株式とすることができる」ということのみではないのですね?

売手の株主が何人いても強制的に全員と株式を交換できる

◆◆ところで、君がある会社を買収するとして誰に株式を売ってくれと頼むかな?

◎それは対象会社の株主ですが。

◆◆その株主が1人とか数名であれば、その人たちそれぞれと株式譲渡契約を結んで株式を譲ってもらうことはそんなに大変じゃないよね。

◎ええ。

◆◆でも、もし対象会社の株主が1万人いたらどうする?

◎同じように、1万人と株式譲渡契約を、、、ってそれは現実感が無いですね。

◆◆それでは、1万人の株主がいる上場会社を買収したいと思ったら、現実的には買収方法が無いってことかな?

◎株主と個別に株式譲渡契約を結ぶっていう方法では無理ですね。

◆◆そうだよね。そこで、会社法の規定で株主総会特別決議を要件として、強制的にすべての株主から株式を吸い上げ、代わりに自社の株式を対価として渡すことができるようになっているんだ(会社法767条)。

◎それは便利ですね。株主総会の特別決議ならば議決権の2/3超の賛成が得られれば良いわけですからね。

◆◆こんな具合に、株主が多数存在するような上場企業を機動的に買収し、さらにその対価を買手の株式とできるのが株式交換なんだよね。もちろん、非上場会社を対象とした株式交換も可能だけど、我々FAが出ばる案件は基本的に上場会社の非公開化(完全子会社化)だよね。

◎ようやく株式交換の全体像が見えてきましたね。株式交換の特徴は

  • 対価を買手の株式とできる
  • 強制的にすべての株主から株式を交換(代わりに買手の株式を割当交付)することができる

ということですね。

◆◆基本はそんな感じだね。でも、実は2つめの「強制的に」という特徴の方が重要で、対価は現金であっても良いんだよ。このあたりはまた後ほど詳しく話すけどね。あと、株式交換の買手を「株式交換完全親会社」と言い、対象会社を「株式交換完全子会社」と言うことも覚えておいてね。

2.株式交換比率とは何か?

株式交換比率が意味していること

◆◆株式交換比率とは、対象会社の株主(売手)が保有している対象会社の株式1株に対して、買手(新たに完全親会社になる会社)の株式が何株もらえるかという比率なんだ。

◎たとえば「株式交換比率は1:3」はどう考えれば良いですか? 対象会社の株主の株式1株に、買手の株式が3株割り当てられるということですよね?

◆◆その理解でOKだよ。
より丁寧に言うと、

「買手の1株の価値:売手の1株の価値=1:3」

という意味で、この内項の積は外項の積に等しく

「売手の1株の価値=買手の1株の価値 x 3」

となることからも、売手が持つ1株に対して買手の株式を3株もらえることがわかるよね。

株式交換比率の決め方

◎株式交換比率の意味はわかったのですが、その比率そのものはどのようにして決まるのでしょうか?

◆◆一般的には、完全親会社になる会社と完全子会社になる会社の交渉で決めるんだ。

◎一般株主自身は完全親会社になる会社と直接交渉する知見がないのが普通だから、代わりに子会社自身が交渉するわけですね。

◆◆そうだよ。だから、親会社出身の役員とかが子会社に居る場合はその人は子会社の立場で交渉しないという枠組みにする必要があったりするんだ(公正性担保措置・利益相反回避措置)。

株式交換比率を公表した後の株価推移の傾向

◎なるほど。ところで、素朴な疑問なんですが、たとえば株式交換比率が1:3に決まったとして、その発表日前日の株価が完全親会社100円、完全子会社が200円としますよね。

◆◆うん。

◎この場合、市場株価法で考えてると1:2ですよね。

◆◆そうだね。でも、市場株価法の結果にある程度のプレミアムを載せないと完全子会社の株主としては株式交換に賛成するメリットがないよね。

◎そのプレミアムを付したっていうところが気になるのですが、その発表後に完全子会社の株価が200円から300円に必ず値上がりするんですか? 言い換えると、完全子会社の株価は変わらないで、このモデルケースで言うと完全親会社の株価が66円に落ちて、結果的に1:3の株式交換比率に市場株価も収斂するなんてことはないのでしょうか?

◆◆ごもっともな疑問だね。
株式交換の実際の事例を見てみると、だいたいのケースで完全子会社の株価が大きく反応し、結果的に株式交換比率に近い水準まで株価が上がっているんだよね。

◎それはそのようですね

◆◆株式交換の発表によってどちらの会社の株価が動くのかは、親と子のいずれの時価総額が大きいのかということによって左右されるんだろうね。

◎普通は株式交換であれば完全親会社が圧倒的に大きいはずだから株価が動くのは相対的に時価総額の小さな完全子会社だってことなのですね。

◆◆そういうことだね。ちなみに、先ほどの例で言うと親会社の株価が100円であり続けたとしても子会社の株価は200円からぴったり300円まで上がるかって言うとそれはそうとも言えないんだ。

◎そうなんですか?

◆◆株式交換はTOBと違って絶対値での価格が決められているわけじゃないよね。

◎ええ。

◆◆そうなると、完全親会社の株価に対しての相対値として値動きすることになるんだけど、事例的には、この数値例で言うところの300円未満でウロウロするような動き方をする場合が多いんだ。

◎それはなぜなんでしょう?

◆◆いろいろな要素が考えられるけど、たとえば、完全親会社の株価推移の不確実性とか株式交換の決議可決の不確実性とか様々なリスクを見て少し下回る水準で推移するのだろうね。

(次回に続きます)

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