今日は、クライアントとのミーティングなどで相手が何らかの誤解をしている場合に、相手の気分を害さずに上手く指摘し、理解を正す方法について考えてみます。
主にM&Aアドバイザリーの仕事の場面を想定して記事を書いていますが、考え方としては他の色々なケースに横展開できるかなと思いますので、よろしければ参考にしてください。
M&Aアドバイザリー業務の意義とあるべきクライアントとの接し方
M&Aアドバイザリー業務の存在意義
M&Aアドバイザリーの仕事は、他の様々な仕事と同様にお客様=クライアントとの会議が多く行われます。たとえば、
- どこの会社を買いますか?(ターゲット探し)
- どうやって買いますか?(法規制・スキーム・スケジュール)
- いくらで買いますか?(Valuation)
といった論点を、具体的に解決していくためには度重なる議論が欠かせません。
多くの日本企業はM&A専門のチームを内部に抱えているわけではなく、経営企画的なセクションが兼ねているケースが多いように感じます。そういった企業は自社の事業については専門的ではあるものの、M&Aに関しては知識も多くなく、わずかな経験しかないケースも相応にあると思います。
だからこそ、M&Aディールにおいて投資銀行(証券会社)のM&Aアドバイザリーの専門チームを起用する意義があるわけです。
クライアントを否定してしまう=悪い接し方
M&Aにあまり慣れていらっしゃらないクライアントとの会議において、クライアント側の参加メンバーの方がM&Aの知識を少し誤解をされているケースがあったりします。特に、経営企画のチーム等、クライアント内部ではM&Aに詳しいとされる方であっても、誤解されているケースはそれなりにある印象です。
そんな場合に、イケてないアドバイザーは、相手の誤解に対してストレートに
と否定から話を進めてしまうことがあります(ここまでストレートな物言いではなくとも、感じとしては否定のニュアンスが強い言い方をしてしまうイメージです)。
もちろんですが、これは絶対にやってはいけないことです。
そもそも人間誰しも否定されると、強い反発心が生まれます。心理的には相手を敵だと思ってしまうわけです。一度そういう気持ちになってしまったなら、二度と好意的に接してくれなくなってしまうこともあるでしょう。
また、B to BのビジネスとしてM&Aアドバイザリーの仕事を見た場合も、この仕事はクライアントから起用されてなんぼの”Feeビジネス”なわけです。なので、いくら正しいことを言っても、クライアントの気分を害してしまってはその後の他の案件で起用されにくくなったりもします。特に、クライアントの経営企画のような部署に所属する方に対して、他のクライアントのメンバーがいる中で否定をすることは、相手の顔に泥を塗ることになりかねず、場合によっては深い遺恨を残します。
ただし、アドバイザーとしては相手の間違っている部分を正すのは当然のミッションですので、いかにして上手く相手の気分を害さずに正しいところへ誘導するかの手腕が問われるわけです。
どのようにすれば相手の気分を害さずに指摘できるか
ここからは、相手の気分を害さずに誤りを正す方法の具体的なところを考えていきましょう。
ステップ1:相手の認識を確認する
まずはじめに大切なのは、「相手が誤解しているな」と感じた場合に、いきなりこちらの指摘を繰り出すのではなく、まずは相手の認識を詳しく把握することからはじめることです。たとえば、誤解していそうなパートについて3つの論点がある場合、3つのうちの全部間違えているのか、2つは正しいのかによって、その後の指摘方法は変わってくるでしょう。
そのような場合に必要なのは質問力です。理解を確認するためという趣旨で、効果的に質問をしていくことが重要です。もちろん、詰めるような口調で質問してはいけないのは当然のことです。
なお、相手は質問にこたえることで、一旦抱えてるモヤモヤをはき出すことができ、その後「聞くモード」になりやすいという側面もあります。
ステップ2:相手の性格、役職等の属性を再確認する
ステップ1の質問して相手に話をしていただく手順を踏んでいる最中に、相手の話を聞きながらも、その方の相手方社内でのポジションを再確認します。
相手が経営企画の部署のように、社内ではM&Aの専門チームの一員と思われているのか、事業部の方でM&Aについては素人と思われているのか等を見極めます。ただし、事業部の方であってもM&Aを過去にも実施したことがある場合には社内的には専門家的に見られている場合もあるので、早とちりは禁物です。
このあたりは、そのクライアントのそれぞれのメンバーとどの程度の人間関係を構築しているかによっても異なりますので一般化するのは難しいですが、いずれにせよ、相手のポジション・属性を把握しておくのはとても大切です。
ステップ3:実際に誤りを正していく
相手の話を聞いて、かつ相手のポジションを把握したら、次はこちらが相手の誤解を正していく番です。
(1)前置きワードを活用
こちらの話を切り出すときに、その枕詞として、
- 私の誤解かもしれませんが、、、
- 私の説明がわかりにくくて恐縮ですが、、、
- おっしゃるとおりなのですが、ちょっと確認して良いですか?
- これがM&A会計(税務)のわかりにくいところなのですが、、、
- 私どももこういう規制についてはどうかなと思うのですが、、、
といった前置きワードからはじめるのがと良いと思います。
これらの前置きからはじめることで、相手も心理的に「あれ、自分が間違ったことを言ったかな?」という心構えができやすいとも言われています。
また、「こちらの説明がわかりにくかった」という具合に、ある程度こちらにも相手が誤解した原因があるというスタンスを示すことも有用だったりします。
(2)相手の正しいところを認める
先ほど少し触れたように、たとえば論点に3つのポイントがあって、そのうちの2つについては相手の理解が正しい場合には、まずは相手の理解の正しいところを指摘します。
という具合に、相手の正しいところはしっかりと認めていますよ、ということを相手にアピールし、相手の他のメンバーに対しても、この方の言ってることは概ね正しいですよ、と相手をしっかりと立てることからはじめます。
(3)相手自身にも誤解を認識・整理いただく
これは、ある程度相手方もM&Aの知識について詳細に知っている場合に使いやすい方法ですが、会話のやりとりを通じて相手自身に自分の誤りを認識・整理してもらうという方法もあります。
具体的には、何か相手の誤解があったとしても、ストレートにこちらから全部を話すと言うよりは、会話のキャッチボールを通じて相手の誤解を解くというイメージです。
たとえば次のようなケースが想定されます。株式交換で税制非適格となった場合の繰越欠損金の扱いについて相手が誤解していた場合で考えてみます。
相手:我が社は先般、M社と合併をしたので組織再編には詳しいですよ。今回のX社さんについては、株式交換の手法を検討中ですが、非適格になった場合は相手の繰越欠損金が消えますよね?
こちら:繰越欠損金と税制適格の論点ですよね。前回の案件は合併でしたが、今回は株式交換で、合併と株式交換には相手の法人格が消えるかどうかという違いがありますよね。
相手:そうですね。株式交換は子会社化の方法なので相手の法人格は残りますね。
こちら:それで、ここが税務のわかりにくいところで、我々も忘れがちなのですが、同じ非適格という手法でも、法人格が混ざってしまう合併は繰越欠損金が消えて、法人格が混ざらない株式交換では繰越欠損金が残るという整理になっているんですよ。
相手:なるほど、たしかに株式交換では法人格が混ざらないから、繰越欠損金に制限をつける理由はないですね。そういう整理があるんですか。
こちら:そうなんですよ。ちなみに、株式交換で完全子会社化されて連結納税グループに加入される場合にはまた違った整理になるんですよね。
相手:そうか、連結納税グループに加入するならば、株式交換であっても何か制限がかかるのではないですか?
こちら:おっしゃるとおりで、株式交換の結果連結納税グループに加入となる場合には、適格株式交換でなければ、相手の繰越欠損金は切り捨てとなってしまうんです。
こんな感じで、会話のキャッチボールを通じて相手と一緒に認識を正していくという方法です。
相手によってはこういうディスカッションが好きで、その結果、気に入ってもらえて気軽に電話等で疑問点を連絡してくれるようになることもあります。
(4)権威を使う:「法令・規則がそうなっているんです」
たとえば支配株主との取引等に該当する組織再編の場合、近年は第三者委員会を組成して案件について第三者意見を入手することが一般的になってきています。
案件のミーティング中に、「本当に第三者委員会は必要なのか?うちのケースはいらないのではないか」という誤解をされるケースもあります。
こんな場合に、「ダメです、必要です」と相手を否定するのではなく、
「おっしゃるとおりで、近年は少数株主を保護しようと言うことで、もうこれは世の流れなのですが、東証の規則も細かくなってきており、クライアントの皆様にはご負担になるなあと常日頃感じているのですが、、、」
という感じに、「東証という共通の仮想敵」をイメージさせて、我々は皆様と同じ側ですよというニュアンスを醸し出すのも一つの方法です。
(5)その場は持ち帰り、後で伝える
相手の誤解が、そのミーティングの目的から考えると重要性が高くはない部分についての場合や、こちらとしても相手の誤りを正す出所を確認した方が良い場合には、
「XXという部分については、少し確認させていただきたい部分があるので、持ち帰って後ほど改めて連絡します」
という具合に、その場ではフックだけかけて持ち帰るという方法もあります。
特に、緊急度的に今回のミーティングでは先送りして良い論点だが、重要度は高めの論点については、その出所を改めて確認した後に連絡した方が良いケースもあります。
また、持ち帰った後での電話連絡等では、一般的には相手方とのマンツーマンの会話となりますので、他のメンバーの前で相手の誤りを指摘するという自体を避けられるというメリットもあります。
さいごに
クライアントの気分を害さずに誤りを指摘する方法につき、色々なパターンを考えましたが、とにかく大事なのは、こちらの話をする前に
- 適切に質問を織り交ぜながら相手の話を聞くこと
- 相手の属性を再確認すること
です。
ぜひ、次のミーティング等で相手の誤りを指摘する際に、頭の片隅に入れておいていただければと思います。
(後日、追加で関連記事を書きました、あわせてご覧頂ければ幸いです)