上場廃止を伴う完全子会社化と有価証券報告書の提出義務(その免除要件も含めて)

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本記事は2017年5月にアップした初版を2020年9月にアップデートしたものです。

今回は、スクイーズアウト(少数株主の退出)による完全子会社化で上場廃止となる会社の有価証券報告書(有報)提出義務とその免除申請制度についてまとめます。

記事の構成としては、

  • 解説編:制度のまとめ(結論)
  • 対話編:制度をゼロから確認していくストーリー(先輩と後輩の対話)
  • 関連法令(金商法等)の条文抜粋

となっております。

解説編

有報提出義務の根拠法令

スクイーズアウト後も原則として有報提出が必要

まず、有報提出義務は金商法第24条第1項に規定されています(記事後半に関連法令の条文抜粋あり)。

  • 一号&二号義務 → 上場会社(店頭登録含む)
  • 三号義務 → 募集又は売出し に伴い有価証券届出書を提出したことがある会社
  • 四号義務 → 人数基準(1,000人以上)、ただし三号の場合を除く

上場会社は新規上場(IPO)の際に有価証券届出書を提出していますので、仮に上場廃止となって一号義務を免れたとしても、三号義務は引き続き残ります

ゆえに、何もしなければ有報提出義務が自動的に消滅することはなく、引き続き有報及び半報等の提出義務が課されます

※四半期報告書を提出していない有報提出会社で、1事業年度が6ヶ月を超える場合は「半期報告書」の提出義務あり(金商法第24条の5)。

三号義務については免除申請が可能

ただし、三号義務については株主数が一定の基準未満(1度でも25名未満、5年間かけるならば毎期300名未満)になれば、財務局への申請及びその承認によって免除されます。

したがって、スクイーズアウト後は遅滞なく財務局へ有報提出義務の免除申請をすることで、提出義務を中断・消滅させる必要があります。

有報提出義務の免除申請(現行制度)

2015年5月の会社法改正に伴う金商法改正以前は、財務局へ有報提出免除申請を提出する際に添付する株主名簿の締め日は「前事業年度末」となっていました。

したがって、親会社の「一人株主状態」を証明できる株主名簿は、そのスクイーズアウトの効力発生日の属する事業年度の末日まで待たなければなりませんでした(一般的にスクイーズアウトは期中のどこかのタイミングで実施されるため)。

現行制度ではこの点が改正され、株主名簿の締め日を前事業年度末のみならず、申請時の株主名簿でも差し支えないとなり、期末日を待たずして免除申請が可能になりました。

なお、いったん免除申請をして有報提出義務が止まった後も、その後4年間は株主名簿並びに事業報告及び計算書類を財務局へ提出し続ける必要があります。

有報提出義務の免除に関するまとめ表

スクイーズアウトの手法によって、有報提出義務の消滅方法が異なりますので次の表をご覧下さい。

株式交換株式等売渡請求株式併合全部取得条項付
種類株式
財務局への免除申請必要必要必要不要
(条件付き)
有報提出義務の免除の方法スクイーズアウト後に株主数25名未満(通常親会社のみ)である株主名簿を根拠に免除申請
ただし、申請後の次事業年度以降4年間は株主名簿並びに事業報告及び計算書類の財務局への提出が必要
全ての普通株式の消却
根拠となる法令の条文金商法 第24条1項ただし書き
金商法施行令 第4条2項3号
企業内容等の開示に関する内閣府令 第16条第2項〜第5項
金商法 第24条1項3号に該当する有価証券の消滅
株主数25名未満の基準で免除申請をした場合、その申請が受理されたタイミングから有報提出は不要となりますが(有報提出義務の中断)、その次事業年度以降4年間は株主名簿並びに事業報告及び計算書類を財務局へ提出しなければなりません。

※全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトの場合、有報提出義務の免除申請を不要とするためには、普通株式(有価証券届出書の提出事由となったもの)の全数の消却が必須です。蛇足ですが、会社法改正以降はスクイーズアウトの手法として株式等売渡請求又は株式併合が用いられることケースがほとんどとなってきており、さらに税制改正で現金対価株式交換との税務的な差異もなくなったため、今後は、全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトはあまり使われなくなるのではないかと推察しています。

実務上の結論・・・有報提出義務の免除申請を!

改正会社法及びスクイーズアウト税制の施行後の実務として、完全子会社化を目的とするTOB案件のスクイーズアウトでは、TOB後に親会社の株式保有割合が

  • 9割以上 ⇒ 株式等売渡請求
  • 9割未満 ⇒ 株式併合

という手法となるパターンがほとんどです。前述のとおり、いずれの手法でも自動的には有報提出義務は消えません。

また、現金対価のスクイーズアウトではなく、株式を対価として株式交換によって完全子会社化するケースも引き続き一定数ありますが、こちらも「株式交換」という手法を用いておりますので、自動的には有報提出義務が消えません。

ゆえに、これら3手法(売渡請求、株式併合及び株式交換)を適用する場合には、効力発生日の前から管轄の財務局とも連携して、効力発生日後に速やかに有報提出義務が中断・免除されるよう準備・対応していく必要があります。

対話編

ここからは対話編として、有報提出義務とその免除申請についてゼロから確認していきます。

(注:◆◆→先輩、◎→後輩)

スクイーズアウトで上場廃止になっても引き続き有報提出が必要?

◎スクイーズアウト(少数株主の退出)手続によって完全子会社化され上場廃止となった場合に、有価証券報告書(有報)の提出義務はいつまで続くのか教えて下さい。

◆◆上場廃止と有報の提出義務の論点だね。スクイーズアウト(上場廃止)によって自動的に有報提出義務もなくなると誤解している方もいるようだけど、必ずしもそうではないのだよね。

◎確か2015年5月の会社法改正に伴って、有報提出義務の免除申請が使いやすくなったと聞いたことがあるのですがあやふやです。

◆◆なるほどね。有報提出の義務について基本的なところから確認していこうか。

有報提出義務を金商法で確認

◆◆まず、有報提出義務は何の法律で規制がなされているのかわかる?

◎金融商品取引法(金商法)第24条第1項で次のように区分されていますよね。

  • 一号&二号義務 → 上場会社(店頭登録含む)
  • 三号義務 → 募集又は売出し に伴い有価証券届出書を提出したことがある会社
  • 四号義務 → 人数基準(1,000人以上)、ただし三号の場合を除く

◆◆そうだね。上場廃止になって一号義務に該当しなくなっても、三号義務には該当し続けてしまうので引き続き有報提出が必要となるというわけだね。

◎ええ。

◆◆そして、有報提出義務の免除に関連する規定は同じ第24条第1項の「ただし書き」と関連政令に記載されていて、株主数300名未満が5年間つづく又は1回でも株主数が25名未満になれば、財務局宛に有報提出義務の免除申請が可能なんだよね。

◎一般的にスクイーズアウト後は株主が親会社(グループ)だけになっていて株主数は25名未満であるはずですから、こちらの基準を用いて免除申請をするわけですね。

◆◆そうだね、FAとして関与する案件の場合には25名未満基準で考えておけばOKだよ。

◎わかりました。

◆◆ちなみに、この25名未満基準にはひとつだけ留意点があってね、有報提出義務そのものは免除申請が受理された時点で止まるんだけど、その次の事業年度から4年間は株主名簿、事業報告、計算書類を財務局に提出し続ける必要があるんだ。

◎え、そうなんですか。要対応となる期間という観点では、結構息の長い話になるわけですね。

◆◆まあそうなんだけど、特別な書類を作る必要があるわけでもなから、そこは粛々と対応するしかないかな。

関連条文:金商法第24条1項ただし書き、施行令第4条第2項第3号、開示府令第16条第2項〜第5項

株主数25名未満の判定タイミングは?

◆◆ところで、株主数を判定するためには株主名簿を締めなければならないのはわかるよね?

◎それはそうですね。

◆◆2015年5月の会社法改正に伴う金商法改正以前は、株主数25名未満を前事業年度の末日の株主名簿で判定せよとなっていたんだよ。でも、それは完全子会社化前の株主名簿を参照されてしまい、当然株主数は25名以上なわけだから、長いと1年弱も有報提出義務が免除されなかったんだよ。

◎それはずいぶんとまた不合理な制度だったんですね。

◆◆現行制度では、株主数25名未満の判定をする株主名簿の基準日に申請時も含まれたから、スクイーズアウト直後の株主名簿(親会社だけが株主)で判定してもらえるようになったんだ。

◎なるほど、それは合理的な改正でしたね。

◆◆ただし、現行制度でも自主的に免除申請をしないと有報提出義務は残るという点には注意してね。

◎わかりました。

免除申請をしなくても良い手法がある!?

◆◆それでね、実は免除申請をしなくても有報提出義務を消せるスクイーズアウト手法があるんだけどわかるかな?

◎スクイーズアウトの手法と言いますと、

  • 株式交換
  • 株式併合
  • 株式等売渡請求
  • 全部取得条項付種類株式スキーム

の4種類がありますよね?

◆◆そうだね。

◎その中で有報提出義務に関して”良い意味で”仲間はずれな手法ですか、、、うーん、どれだろう?

◆◆結論から言うと、全部取得条項付種類株式を使ったスクイーズアウトで普通株式を消却した場合には有報提出義務が”当然にして”なくなるんだ。

◎そうなんですか、でもなぜでしょう?

◆◆いわゆる三号義務における有報提出義務は、有報の継続開示義務対象となる有価証券を発行しているかどうか次第というのはわかる?

◎ええ、なんとなく。

◆◆全部取得条項付種類株式を使ったスクイーズアウトでは、普通株式を他の種類株式に交換して、当の普通株式そのものは「即日に消却」するのが一般的だよね。

◎なるほど、普通株式が全て消却されてしまったため、有報提出義務に該当していた有価証券が存在しなくなる → ゆえに当然にして提出義務もなくなるというわけですか。

◆◆そのとおり。だから最も重要な点は普通株式の消却を必ずセットにするということだね。これを忘れると有報提出義務が消えないから、有報提出義務違反になってしまうよ。

◎でも、最近は種類株を用いたスクイーズアウトは使われなくなりましたよね。

◆◆そうなんだよね。会社法改正以降は、売渡請求か併合だから種類株に関するこの論点もだいぶ化石感が出てきているよね。

有報提出義務を免除申請した方が良い理由は?

◎最後に素朴な疑問なんですけども、有報を作成して提出するのが大変だって言うのはわかるのですが、具体的になぜ免除申請した方が良いんですかね?

◆◆上場会社の完全子会社化案件で、コスト面でのシナジー効果として「上場維持コストの削減」を挙げるよね。

◎ええ。

◆◆それは有報作成と提出に関するコストがその大部分を占めているんだよね。というのも有報作成会社の場合には次のような義務が必要なんだ。

  • 有報のみならず半期報告書(半報)も提出が必要
  • 金商法ベースでの連結決算書の作成
  • 監査法人の監査証明の取得

◎半期報告書って懐かしい響きですね。

◆◆四半期報告書を提出している上場会社は半報は提出不要なんだけど、四半期報告書を提出していない会社で、1事業年度が6ヶ月を超える有報提出会社には半報提出義務があるんだよ。

◎なるほど。逆に言えば、有報提出会社でなくなれば、これらの義務は免除されるということですね。

◆◆そうだよ。ちなみに、会社法上の計算書類等の作成義務は引き続き残るんだけど、有報提出に比べたら格段に楽になるからね。仮に資本金5億円未満に減資できてかつ負債が200億円未満なら、会社法上の大会社でもなくなって会計監査人の監査すら不要になるからね。

根拠法令の条文の一部抜粋

【金融商品取引法第24条第1項ただし書き】

ただし、当該有価証券が第三号に掲げる有価証券
(株券その他の政令で定める有価証券に限る。)
に該当する場合においてその発行者である会社
(報告書提出開始年度
(当該有価証券の募集又は売出しにつき第四条第一項本文、第二項本文若しくは第三項本文又は第二十三条の八第一項本文若しくは第二項の規定の適用を受けることとなつた日の属する事業年度をいい、当該報告書提出開始年度が複数あるときは、その直近のものをいう。)
終了後五年を経過している場合に該当する会社に限る。)
の当該事業年度の末日及び当該事業年度の開始の日前四年以内に開始した事業年度すべての末日における当該有価証券の所有者の数が政令で定めるところにより計算した数に満たない場合であつて有価証券報告書を提出しなくても公益又は投資者保護に欠けることがないものとして内閣府令で定めるところにより内閣総理大臣の承認を受けたとき、

当該有価証券が第四号に掲げる有価証券に該当する場合において、その発行者である会社の資本金の額が当該事業年度の末日において五億円未満(当該有価証券が第二条第二項の規定により有価証券とみなされる有価証券投資事業権利等である場合にあつては、当該会社の資産の額として政令で定めるものの額が当該事業年度の末日において政令で定める額未満)であるとき、及び当該事業年度の末日における当該有価証券の所有者の数が政令で定める数に満たないとき、

並びに当該有価証券が第三号又は第四号に掲げる有価証券に該当する場合において有価証券報告書を提出しなくても公益又は投資者保護に欠けることがないものとして政令で定めるところにより内閣総理大臣の承認を受けたときは、この限りでない。

 

【金融商品取引法施行令 第4条 第2項及び第3項】

第2項 金融庁長官は、前項の承認の申請があつた場合において、その者が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、当該申請のあつた日の属する事業年度

(その日が事業年度開始後三月以内
(その者が外国の者である場合には、第三条の四に定める期間内。以下この項において同じ。)
の日である場合には、その直前事業年度)
から当該各号に該当しないこととなる日の属する事業年度
(その日が事業年度開始後三月以内の日である場合には、その直前事業年度)
の直前事業年度までの事業年度に係る有価証券報告書については、その提出を要しない旨の承認をするものとする。

一  清算中の者
二  相当の期間事業を休止している者
三  法第二十四条第一項第三号 に掲げる有価証券の発行者で、内閣府令で定めるところにより算定した当該有価証券の所有者の数が内閣府令で定める数未満である者

第3項 前項の承認は、同項の者が内閣府令で定めるところにより毎事業年度
(同項に規定する申請があつた日の属する事業年度及び当該事業年度終了の日後内閣府令で定める期間内に終了するものに限る。)
経過後三月以内
(その者が外国の者である場合には、第三条の四に定める期間内)
に株主名簿の写しその他の内閣府令で定める書類を金融庁長官に提出することを条件として、行われるものとする。

 

【企業内容等の開示に関する内閣府令 第16条 第2項、3項、4項及び5項】

第2項
令第四条第二項第三号 に規定する内閣府令で定める数は、二十五名とする

第3項
前項に規定する数は、次の各号に掲げる有価証券の区分に応じ当該各号に定めるところにより算定するものとする。

一  内国会社の発行する有価証券 申請時又は申請のあつた日の属する事業年度の直前事業年度(次号において「基準事業年度」という。)の末日において株主名簿に記載され、又は記録されている者の数

二  外国会社の発行する有価証券 申請時又は基準事業年度の末日において当該有価証券の保管の委託を受けている金融商品取引業者等の有する当該有価証券の所有者の名簿に記載され、又は記録されている者(非居住者を除く。)の数

第4項 令第四条第三項に規定する内閣府令で定める期間は、四年とする。

第5項 令第四条第三項に規定する内閣府令で定める書類は、次に掲げる書類とする。
一 当該書類の提出に係る事業年度の末日における株主名簿の写し
二 当該事業年度に係る会社法第四百三十八条第一項に掲げるもので、定時株主総会に報告したもの又はその承認を受けたもの(外国会社並びに内国法人である指定法人及び持分会社にあつては、これらに準ずるもの。)

さいごに

2015年(平成27年)の会社法改正に伴う金商法改正をふまえた有価証券報告書の提出義務と免除についてまとめたサイトや文献はほぼ見つからなかったので、今回改めて条文を読み返してまとめあげました。

金商法の条文は会社法よりも難解に入り組み、かつ基本的に施行令と開示府令がセットになるため読み込みだけでも大変です。

ご活用いただければ幸いです。

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