赤字続きの子会社を減損!?・・・連結で子会社の減損ってありましたっけ?(日本基準)

M&A講座
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たとえば、M&A案件で赤字の子会社の売却を検討している際に、売却するかどうか以前に、そもそもその赤字の子会社を減損処理しなければならないのではないか、ということが論点に挙がることがあります(ちなみに、会計基準的には子会社の売却を検討していなくとも、赤字子会社がある場合には同様の検討が必要ではあります)。

子会社の純資産が相当程度毀損している場合、親会社単体決算において、その子会社株式を減損処理することがあります。
この場合、連結と単体とで何か会計処理を工夫する必要があるのでしょうか?

今日は、いつもの先輩と後輩の対話を通じて、子会社株式の減損について単体と連結の双方の観点で確認していきたいと思います。

なお、前提として日本の会計基準(J-GAAP)を採用している企業を想定しております。

※IFRS採用企業は基本的にはIFRSは連結のみで採用となっており、単体は引き続きJ-GAAPで処理していると思いますので、そのような企業にも今回の話は適用できるところがあると思います。

(文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です)

子会社株式の減損を単体と連結のそれぞれで考えてみる

◎先輩、今日は減損について考えてみたいんですけれど。

◆◆「減損」とひとくちに言ってもいろいろあるよね。固定資産、のれん、株式とかね。

◎確かにそうでしたね。その中でも、株式の減損について考えてみたいところです。

◆◆いいよ。それでどんな点が気になっているのかな?

単体で子会社株式を減損した

◎ある会社が業績不振で赤字続きの子会社を持っていて、その株式を減損したとしますよね?

◆◆うん。子会社の連結のれんの減損じゃなくて、親会社単体における子会社株式の減損ってことね。

◎ええ。親会社の単体BSの子会社株式の簿価と子会社の純資産を比較して、子会社の純資産が50%未満になっていたわけなんです。

◆◆厳密に言うと、50%未満になっていたとしても、必ずしもすぐに減損されるというわけじゃないんだけどね。

◎あれ、そうなんですか?

◆◆子会社株式等の時価のない有価証券の減損については「金融商品に関する会計基準とその実務指針」に規定されているんだよ。

◎あまり馴染みのない会計基準ですね。

◆◆確かに普段我々が触れている「企業結合等会計基準・適用指針」とは異なるからね。それで、金融商品会計基準等によれば、実際に減損するかどうかは「回復可能性があるかどうか」で判断するんだよ。

◎「回復可能性がある」とは、どうすれば認められるんですかね?

◆◆詳細は、以下のE&Yのサイトを見てもらうとして、簡単に言うと事業計画があって5年以内に回復が認められることなんだそうだよ。

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◎このE&Yのサイトわかりやすいですよね、調べるときによく活用してます。それで、本件は「3. 時価のない株式」の部分に該当するわけですね。

◆◆そうだよ。毎期回復可能性を見直す必要がある点は忘れがちだから注意してね。

連結では単体の減損をどうするか?

◎ところで、子会社株式の減損は単体の話ですよね。

◆◆そうだね。先ほども述べたように、今までは親会社の単体会計の話をしていたつもりだよ。

◎親会社の連結上はどうすればいいのでしょうか?「特段の処理無し」ではダメな気がしています。そもそも連結で子会社の減損ってありましたっけ?

◆◆なるほど、それはごもっともな疑問だね。

◎連結では、いわゆる連結会計の処理「合算・消去」により、親会社の投資(子会社株式)と子会社の株主資本とが相殺消去されますよね?

◆◆そうだよ。連結では開始仕訳と言って、過去からの連結仕訳の積み重ねを毎期はじめから認識しなければならないんだよ。

◎それは以前学んだので覚えています。

(参考記事)

連結会計入門 連結の必要性 キーワードは「合算と消去」 のれんの算出方法は?
今日は連結会計の基礎部分について説明します。M&A会計入門の記事で見たように連結会計はM&A会計の基本のひとつであり、特に株式譲渡案件は連結がわかっていないと買収後のBS, PL分析や、のれんの試算もできません。(参考記事:M&A会計入門 ...

◆◆具体的な数値を用いて考えてみようか。たとえば親会社が当初認識していた子会社株式の投資簿価が100で、減損後に40になったとするよね。

◎ええ。

◆◆この場合、連結にて相殺消去されるべき親会社の投資簿価は100か40かどちらかわかる?

◎100であるべきだ、ということはわかるんですが、単体で40に減らしてしまっているのとの整合性はどうとればいいのでしょうか?

◆◆そこは難しく考えずに、親会社の単体財務諸表の連結修正として

子会社株式 60 // 減損損失(期首利益剰余金) 60

という連結仕訳をするんだ。こうすれば、子会社株式の簿価=投資簿価が

減損後40+減損額60=100(当初連結簿価)

に戻ってくれて、当初投資と当初資本がお互い100でバランスするよね。

◎なるほど、ちなみに貸方の「減損損失(期首利益剰余金)」の括弧書きの意味はなんですか?

◆◆それは、単体で子会社株式の減損を計上した翌期以降は、PL項目ではなくBSの期首利益剰余金として連結修正してねという意味だよ。一般的な連結仕訳のPL項目も翌期以降はBSの期首利益剰余金に切り替わるよね。

◎わかりました。それで、元の疑問に戻りますと、親会社が単体で認識した子会社株式の減損を戻し入れているんですか?

◆◆そうだよ。

◎では、連結上は減損しているという実態がなくなるわけですね??

◆◆そうでもないんだよ。

◎あれ?

連結では、子会社株式の価値の減少はどのように表現されているのか?

◆◆連結では、子会社の純資産が投資以後に減っているという実態を子会社のPLを直接連結上取り込むことで示してきたわけなんだ。

◎といいますと?

◆◆要は、連結としては投資以後ずっと子会社のPLを売上高から純利益まで合算して取り込んできたんだよね。

◎それはそうですね。

◆◆すると、赤字子会社のPLの純損失は、親会社連結グループの全体の剰余金のマイナスとして累積してきているんだよね。

◎そうか、親会社グループが黒字であったとしても赤字子会社を取り込んだ分、連結の剰余金はその子会社がない想定BSよりも、減ってしまっていたということですね。

◆◆そのとおり。一方で単体上は子会社株式の減損をしないかぎり、子会社株式は取得簿価のままで計上され続けるんだ。まとめるとこうなるよ。

  • 単体:子会社株式の減損として一度に価値の減少を認識
  • 連結:連結PLに子会社のPLを取り込むことで価値の減少を、毎期、段階的に認識

連結「のれん」の追加償却

◎ちなみに、株式の減損処理をした子会社の状況として、他社から高値で買収してきたといった感じで、連結のれんが計上されていた場合に何か気をつけるべき点はありますか?

◆◆自分たちで設立した子会社じゃなくて、買収した子会社の場合、連結のれんが計上されているケースが多いよね。特にその将来性に投資するケースなんかは大きなのれんが計上されることもあるよね。

◎ええ、ファンドのEXIT案件とかで、純資産の倍以上で買収することもそれなりにありますからね。

◆◆そういった、連結のれんが計上されている場合には、

子会社株式の減損処理後の単体の子会社株式の簿価と連結上の簿価(子会社の純資産相当+のれん未償却残高の合算)との差額のうち、のれんの未償却残高に相当する部分について追加の償却が必要(JICPA 会計制度委員会報告第7号/資本連結実務指針第32項)

という会計処理が必要となるんだよね。

◎なるほど、イメージとしてはのれん未消却残高のうち、子会社株式の単体簿価を超過した部分を、実質的に”減損”していることになるわけですね。

◆◆そうだね。呼び方は「追加償却」だけど、実質的には減損の意味合いが強い印象だよね。もちろん固定資産会計基準等に基づく「のれん減損テスト」は別途行う必要があるし、そちらで減損される、もしくはそんな収益性の悪い子会社の連結のれんは過年度に既に減損されているケースの方が多いと思うけどね。

◎子会社株式の減損ひとつとっても、色々と論点が派生するのですね。いろいろ勉強になりました。

さいごに

M&Aに関連して考えると、子会社の売却が決まった際に、前もって売却損を先取り(引き当て計上)すべきだという論点もあります。

今回の話はそれとは異なり、M&Aと関係なく赤字続きの子会社の減損を連結と単体でどう処理すべきかという話であった点にご留意下さい。

また、仮に子会社が債務超過である場合には追加的な処理が必要になるケースもあります。詳しくは下記E&Yのサイトをあわせてご確認下さい。

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