今回は、M&Aのタイプを3つに分けて考えてみようと思います。
タイプというのは、事業会社のようなストラテジックバイヤーがM&Aに取り組む目的のことで、
- 水平型M&A(スケールメリットの享受)
- 垂直型M&A(バリューチェーンの強化・統合)
- 新規型M&A(既存ビジネスから離れた新規分野への進出)
の3つに分かれるのだと思います。詳しい定義等は後ほど触れていきますが、これらのM&Aのタイプを比較してするポイントとしては、
- そもそもどんな目的でM&Aを実施するのか(どのようなシナジー効果を期待するのか)
- Financila Advisorとして留意すべき点
といった視点でも考えていこうと思います。
まずは3つのタイプの定義を確認
1.水平型M&A
水平型M&Aというのは、「スケールメリットの享受」と書きましたが、簡単にいえば、同業他社の買収のことです。
要は、市場のパイの獲得を争っているような会社同士によるM&Aになり、銀行の統合や石油元売の統合などがこのタイプになります。
競合同士とはいえ、業界団体での付き合いなんかがあるケースもあり、一方的なパワーバランスというよりは、複雑な関係を紐解くようなM&Aになりがちです。
2.垂直型M&A
垂直型M&Aというのは、「バリューチェーンの強化・統合」と書きましたが、こちらは簡単にいい難いところがありますが、イメージとしては会社のコアビジネスの強化・統合という感じでしょうか。
具体的にいえば、自動車メーカーが電気自動車に強い会社を買収するとか、同じく自動車メーカーが部品メーカーを買収するといった取引タイプが該当しそうです。
垂直型というと、単に川上・川下のビジネスに進出するというイメージを持たれるかもしれませんが、既存のガソリン車には強い自動車メーカーが今後市場が伸びそうな電気自動車に関する技術やノウハウを持っている会社を買収することもバリューチェーンの強化という意味で垂直型の枠内に入るというイメージです。
3.新規型M&A
新規型M&Aというのは、「既存ビジネスから離れた新規分野への進出」と書きましたが、要は事業の多角化を目指すタイプといえるでしょう。
ちょっと古いですが、楽天とライブドアが争った球団買収なんかは新規型M&Aの最たるものでしょうし、その後これらの企業や類似する新興企業がとったM&A戦略も新規型に属するタイプのものが多いと思います。
各タイプごとのM&Aにて期待される効果
3つのタイプの定義を確認したので、次は各タイプごとにM&Aにおいて期待される効果について具体的に見ていきます。
事業会社がM&Aに期待するのは、シナジー効果と呼ばれるメリットの獲得だと言われます。なので、ここからは各タイプにどんなシナジー効果がありそうかという観点で見ていきます。
1.水平型M&Aに期待されるシナジー効果
水平型M&Aに期待されるシナジー効果は、主に2つあって、
- 市場獲得
- コストの合理化
が考えられます。なお、これらはどちらか片方だけを目指すというよりは、両方が目指されるという関係にあります。
市場獲得
市場獲得とひとくちにいっても、さらに次の2つに分けられます。
- 既存市場でのパイ拡大
- 市場そのものを拡大
銀行の統合を例に考えてみましょう。
まず、既存市場でのパイ拡大とは、関東に強い地銀同士で統合すれば、同じ「関東市場」でのシェア拡大が見込めます。一方で同じく関東に強い地銀が別の地域の地銀と統合すれば、「関東+もう1つの地域」で市場獲得を目指せる地銀となります。
都銀を例にしても、メガ3行に集約されるまでの統合過程は「既存市場でのパイ拡大」ですし、できあがったメガ3行が海外の金融機関に資本参加するのは「市場そのものを拡大」といえるでしょう。
コストの合理化
コストの合理化は分かりやすいです。引き続き銀行を例にして考えてみますが、統合前は別々の看板で近くで争っていた支店同士が統合後同じ看板になったということで、片方を閉鎖してもう片方の支店だけ残すという「支店の統廃合」がわかりやすいコストの合理化でしょう。
(メガバンクなんかは未だに見える範囲で同じ色の看板の支店があったりしますが・・・)
要は、同じビジネスということで、コスト削減が容易に実行しやすいというところがあるのだと思います。特に、既存市場でのパイ拡大のみを目指したM&Aではこのコストの合理化がセットになるように思います(パイは1+1=2となって、コストは各者10%削減の(1+1)x90%となればそれだけで利益は増えるという簡単な算数です)。
ただし、この考え方は人員削減にも紐付くため、コストの合理化だけを目指すM&Aというのは消極的といいますか、斜陽な業界でやむを得ず選択されるというイメージです。
技術・人材の観点
実は、水平型M&Aのうち、既存市場でのパイ拡大を目指すケースのM&Aでは、市場そのもの拡大型のケース及び他の2つのM&Aタイプと比べて、技術も人材もそんなに求められないという特徴もあります。
要は、同じ技術を使った既存市場のパイ拡大ですから、その市場でうまくやっていくための技術は既に持っているはずですし、その技術を活かしてビジネスを回してくれる人材も豊富にいるはずです。
市場のパイだけシームレスに引き継げれば、人員も居なくて大丈夫というケースもあり、現場の従業員にとっては厳しい環境を迎えやすいM&Aともいえるかもしれません。
2.垂直型M&Aに期待されるシナジー効果
垂直型M&Aのシナジー効果はトップラインの成長
垂直型M&Aは、バリューチェーンの強化・統合ということで、自社に足りない機能を「買ってくる」ということになります。
なので、シナジー効果としても自社の不足分を補うことで、自社の製品力を強化することでトップラインの成長を促したりすることになります。
このケースではコストシナジーを目指すということはあまりとられず、あくまでも自社の競争力を上げていこうということが第一目的です。
技術・人材の観点
自社に足りない機能を「買ってくる」ということは、その機能のベースとなる技術や実際にそれを担う人材についてもM&Aの貴重な目的物(対象物)になります。
したがって、水平型M&Aの時のように、技術と人はあまり関係ないという態度をとるような買手は少なく、M&A対象となった会社・事業の従業員にとっても比較的好印象を得られやすい案件となる傾向にあります。
3.新規型M&Aに期待されるシナジー効果
新規型M&Aは自社の既存ビジネスとは直接関係ないようなM&Aとなります。なので、事業会社によるM&Aであってもフィナンシャルバイヤーのような視点といいますか、どれだけ対象会社・事業をお得に買えるかということがポイントとなります。そういう意味でシナジー効果そのものを目指すというよりは、お得な買収を目指す案件となるイメージです。
なお、どうなればお得なM&Aであったのかという判断ですが、たとえば買収対象事業のROICが会社としてのハードルレートを超えていればひとつの成功といえるのかもしれませんが、本来的には長期的に対象事業が伸び続けるのかもポイントとなります。
たとえば、幸いにもキャッシュは余っているのだが、本業に投資するところはあまりなくて、でも連結上の売上高・利益は伸ばしたいと考える経営者にとっては、この新規型M&Aが選択肢のひとつとなります。
ただし、目利きの聞きにくい新規分やへの参画を目指すということで、高値づかみをしたり、逆に不当に低い評価をして買えなかったり(そして、そのようなケースで数年後にその事業が大きく当たったり)と、Valuationの観点でもブレが生じやすいのが特徴です。
(次回に続きます)