事業のカーブアウトの手法(後編) 〜会社分割と事業譲渡の実務的な比較〜

M&A講座
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事業のカーブアウトの手法として、会社分割と事業譲渡の比較をしております。

今回は、理論的な差異の残りの部分と、実務的な差異についてみていきます。

会社分割と事業譲渡の比較 〜理論的な側面(承前)〜

会計・税務の差異

理論的な側面の差異の最終項目として、会計及び税務について見ていきます。

会計:原則として会計処理は同じ

まず、現金対価である限りにおいては、会計処理は全く同じになります。

すなわち、取得に該当する会社分割または事業譲渡であれば、

  • 譲渡側:資産負債の簿価を落として、対価の現金との差額を事業移転損益として計上
  • 受入側:資産負債を時価にて受け入れ、対価は現金として支出し、差額は「のれん」

といった会計処理になります。

仮に、株式対価の会社分割であった場合には借方に発生していた「現金」が「株主資本」となりますが、時価発行したとみなして、差額は「のれん」として処理とするのが一般的です。

税務:税制適格に該当するか否か

会社分割は組織再編税制に規定される手続なので、税制適格の会社分割に該当すれば、資産負債を簿価で引き継げる等の特典が得られます。

税制適格という論点は、合併・分割・株式交換・株式移転の4手法にのみ存在していると早とちりしがちですが、実は、事業譲渡であっても適格現物出資に該当すれば資産負債を簿価で移転できるという制度があります。

ただし、前回も触れましたが、適格現物出資に該当させるためには検査役の検査の問題やら色々煩雑であるため、実務上はほぼ見かけることはないと思います。

なお、会社分割と事業譲渡のいずれの手法であっても、現金を対価とする限りは税制非適格となるため、一般的なM&A取引で登場するカーブアウト案件は、原則として税制非適格のケースが多いと覚えておくのが良いかと思います。

税務:消費税が発生するか

 

最後に、税務のもう一つの大きな違いとして、消費税の課税取引となるかという論点があります。

会社分割の場合は消費税はかかりませんが、事業譲渡の場合は、通常の資産売買と同様に、消費税の

  • 非課税取引
  • 課税取引

に分けて、課税取引の部分には消費税を認識しなければなりません。

(参考)国税庁「営業の譲渡をした場合の対価の額

実務的な差異

ここからは、会社分割と事業譲渡の実務的な差異について考えてみたいと思います。

カーブアウト案件において、クライアントから

「会社分割と事業譲渡のどちらを採れば良いですか?」

と問われた場合には、即答できるような類いの話ではなく、事実関係を整理して、案件ごとに適した手法はいずれなのかを協議していくことになります。

事実関係の整理としては、次の論点を優先的に調査することになります。

1.関連する契約の本数を調べる

会社分割は包括承継であるため、各契約ごとに個別に会社分割時の事前承諾の条項が無ければ、原則として自動的に契約を移管することができます。

一方で、事業譲渡の場合には、個別に契約を移転しなければならないため、契約の本数が多ければ多いほど、手続き的な煩雑さは増していくことになります。

従って、契約の件数が多い案件では、会社分割の方が好まれることになります。

(なお、いずれの手法であったとしても、実務上は事業の引継ぎ主体が、契約の相手先に挨拶を兼ねた書面等を送付することが一般的です。ただし、この書面が単なる挨拶で済むのか、契約の移管作業まで求めるのかということで、その趣旨が異なるわけです)

2.従業員の労働環境への配慮と引き継ぎリスク

カーブアウトに従事する従業員の移転についても論点になり得ます。

まず、会社分割の場合には労働契約承継法に基づく手続がもとめられます。一方で、事業譲渡の場合には、労働契約のまき直しになります。

具体的には、まず、会社分割の場合には分割対象事業に主に従事する従業員であれば原則としては強制的に移籍させられてしまうとの整理です。

一方の事業譲渡の場合には、譲渡先での新たな労働条件・労働環境が嫌だという従業員を強制的に移管させることはできません(実務上は色々な諸施策をもって円満に移籍して頂くようにお願いを続けるしかありません)。

ただし、いずれにせよ、仕事を選ぶ権利は従業員にあるので、不本意に強制的に移籍させられてもすぐに辞めてしまう可能性もあります。従って、実務上は移籍前の十分な説明と同意は不可欠です。

3.スキーム上の配慮が必要かどうか

そして、次の論点として、M&A取引の相手方からのニーズとして、事業譲渡を前提(または志向)とされているかどうかという点にも留意が必要です。

すなわち、簿外債務の遮断というメリットは主に事業の引受先が享受できる部分なので、売手としては会社分割を前提として考えていても、買手から

「事業譲渡を前提とさせて下さい」

とオファーされる可能性があるわけです。

最後に、容易に対価を株式とすることができるという会社分割の特徴を利用して、資本業務提携の一環としてのカーブアウト案件を組成できるのも会社分割の特徴です。案件の登場人物とその関係性を鑑みてどのようなスキームが最適なのかを検討するということもFAの腕の見せ所でしょう。

さいごに

会社分割と事業譲渡の差異については、教科書的な違い(理論的な違い)のみならず、実務上留意しておくべきポイントも合わせておさえておくことで、クライアントからの疑問・質問にタイムリーにこたえられるようになっておく必要があるところだと思います。

今回の記事では、実務の本当の意味での細かいところまでは触れられませんでしたが、概略はつかめるかなと思います。

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