事業のカーブアウトの手法(前編) 〜会社分割と事業譲渡の理論的な比較〜

M&A講座
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M&Aアドバイザリーの仕事では、子会社の売買のみならず、クライアント自身が保有する事業を切り出して売却したいというニーズにも応えていく必要があります。

これがいわゆる、事業の切り出し(カーブアウト)と呼ばれるものです。

カーブアウトの手法としては、主に

  • 会社分割
  • 事業譲渡

の2つの手法がありますが、その違いを理論的な側面と実務的な側面にわけて見ていきたいと思います。

会社分割と事業譲渡の比較 〜理論的な側面〜

まずは、理論的な側面を見ていきましょう。ちなみに、理論的な側面とは、法律、会計及び税務的な観点のことです。

法律面の差異 / 簿外債務について

まず法律面の差異については、主に以下の観点で違いがあるでしょうか。

  • 法的形式の違いによる引継ぎ項目の差異
  • 対価
  • 株主総会決議
  • 債権者保護手続の有無

会社分割と事業譲渡のそれぞれのイメージ

法的形式について、イメージを持って頂くためにざっくりとした説明をすると会社分割と事業譲渡は次のようになると思います。

  • 会社分割は組織法上の行為:事業を一体として包括的に切り出す(包括承継)
  • 事業譲渡は取引法上の行為:関連する契約をひとつずつ移転させる(個別承継)

1.会社分割

会社分割は組織法上の行為であると呼ばれ、一定の手続を経れば、分割の効果が当然にして発生してしまう(強制的な包括移転)という思想が根底にあります。

ただし、実務上は、各種契約において「会社分割時には事前同意が必要」となっている契約が多くあるはずなので、契約関係が自動的には移転しないものも多くあると思います。

いずれにせよ、思想的には「包括的な移転である」というイメージを持って頂ければ概ね正しいでしょう。

2.事業譲渡

一方の事業譲渡は、

「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の譲渡」

と定義されていた、かつての商法の営業譲渡を会社法の精神に沿うように修正した手続です。

事業譲渡には契約を自動的に移転させるという効果はなく、各契約についてひとつずつ移転手続をしていく必要があります。

そして、これらの差異が、法的な効果として次の大きな違いを生むと言われています。

簿外債務の遮断ができるか

要は、簿外債務(潜在債務)を引き継いでしまうリスクがあるかどうかという点に違いが生じるということです。

すなわち、会社分割は包括承継なので、関連する債権債務も原則として自動的に引き継いでしまうため、潜在的な債務(簿外債務)があった場合に、それも併せて引き継いでしまうというリスクが残るわけです。

一方の事業譲渡では、簿外債務に関する契約を引き継いでいない限りは、それを引き継ぎようがないという意味で、簿外債務の遮断性は高いといえるようです。

なお、会社分割を使いつつ簿外債務を遮断する方法として、会社分割の契約書において移転する資産負債(権利義務)を特定し、それら以外は一切承継しないとする手法もあるようですが、実務的な安全性(有用性)については案件ごとに弁護士に確認した方が良いと思います。

譲渡の対価

譲渡の対価については、

  • 会社分割:株式又は現金
  • 事業譲渡:現金(であることがほとんど)

と説明できます。

仮に、事業を譲渡して相手先の株式を対価として受けるためには、一般的には会社分割を採用する必要があるわけです(完全な事業の売り切りではなく、その後も資本業務提携を継続させたいような案件が想定されます)。

なお、事業譲渡でも対価を株式とすることは法的には可能です。ただし、その場合は現物出資に該当することになり、検査役の検査の必要性等の論点が発生するため、実務上はほとんど検討されることはないように思います。

株主総会決議・債権者保護手続

そして、株主総会決議については、

  • 会社分割:原則として分割会社及び分割承継会社の双方にて株主総会特別決議が必要
  • 事業譲渡:譲渡側では原則として株主総会特別決議が必要であるものの、譲受側では全部譲受でない限りは株主総会決議は不要
  • いずれも、簡易・略式の制度(総会決議を省略する制度)あり

と整理できます。

なお、一般的には、上場会社が関与する案件では簡易分割となるものがほとんどだと思いますが、時々上場会社自信が保有する主たる事業を別会社に切り出すとして株主総会にかけられる案件があったりします。

(参考案件)

当社メモリ事業の会社分割に係る吸収分割契約の締結について(東芝)

最後に、債権者保護手続については、会社分割のみに要求されている点に留意が必要です。

(次回に続きます)

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