今回は現在価値と割引率についてまとめてみます。
この2つはValuationの最重要手法のひとつであるDCF法の根本となる概念なので、ぜひ理解していただければと思います。
現在価値・・・今日の100万円と3年後の100万円は同じ価値だろうか?
たとえばあなたが信頼の置ける友達から
「100万円貸して欲しい。3年後に同じく100万円を必ず返すから!」
と頼まれたとします。
経済合理性だけを考えた場合にこの申し出に乗るべきでしょうか。
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答えは、「この申し出には乗るべきではない」ですね。
その理由としては、利息と借り逃げの可能性を無視しているといことが挙げられます。
仮に100万円に3%の複利で利息がつくと次のように増えていき、3年後には約109.3万円になります。
ということで、あなたがこの3%を合理的な利息と考えるならば、友人に対して
「銀行預金でも利息が付くのだから、3年後には私が考える合理的な利息をつけて最低でも109万円は返して欲しい」
と伝達すべきです。
現在価値の算出・・・それでも3年後には100万円しか返せないと言われたら?
仮にこの友人がなかなかの人物で、
「自分には3年後に解約される定期預金があってその元本が100万円で利息はほぼゼロだから、確実に返せるのは100万円ジャストなんだけど、なんとかならない?」
と聞かれたとします。
こんな場合に、あなたは経済合理性を追求しつつも、信頼の置ける友人の申し出ということでなんとか工夫はできないでしょうか。
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ここで、現在価値の概念が登場します。
先ほどの3%の利息をつける例では、今日の100万円と3年後の約109万とが等価となりました。この3年後の価値は元本に(1+利率)を年数分だけ乗算して算出されています。
ということは「3年後の価値=100万円」となる元本を逆算してあげれば良さそうです。
この図を式で表すと
- 3年後の価値=100万円×(1+0.03)^3
- (上記を一般化すると) n年後の価値=元本×(1+利率)^n
となりますので、3%の利率で3年後の価値が100万円になる元本を逆算するためには次の式を解くことになります。
- 元本 ×(1+0.03)^3 = 100万円
- (式を変形して) 元本 = 100万円 ÷(1+0.03)^3 = 約91.5万円
このように将来の100万円の現在の価値を求めることを「将来価値を現在価値に割引く」といいます。
したがって、合理的に考えれば友人に対して「3年後に100万円返してくれるならば、今は合理的に割引計算して91.5万円しか貸せない」と告げるべきでしょう。
割引率とは
これまでの例で「利率は3%」という前提を置いていましたが、現在価値を算出するときに用いる利率のことを「割引率」と呼びます。
今後、DCF法では割引率を設定して様々な計算をしますが、この割引率の算出方法にも唯一無二の正解はなく、感覚としては「資金の出しての感じるリスク度合いを数値化したもの」と言えそうです。
たとえば、企業に対して貸付をする銀行は企業がつぶれない限りいつかは元本が返済されるはずなのでそこまで高い金利を要求しません(実際に、現在の長期プライムレートは0.95%とかなり低金利です)。
一方で企業から直接返済されない出資者である株主は、銀行よりも高い利率での運用を求めるため、一般的に株主資本の利率は借入の利率よりも高くなります(このあたりの詳細は、DCF法の割引率の算定にて説明する予定です)。
確認テスト
現在価値と割引率を正しく理解したかどうかを確認するための小テストを用意してみましたので活用してみてください(回答は「さいごに」の末尾に記載)。
次の空欄を正しく埋めてください
- 手許にある100万円を10年間5%で運用したときの10年後の価値は( イ )という式から約( ロ )万円となる。
- 逆に、5%で10年間運用した結果100万円となる現在の元本は( ハ )という式から約( 二 )万円となる。
- このように、将来の金額と利率を決めて逆算で現在の元本を求める計算方法を( ホ )といい、その際の利率のことを( ト )と呼ぶ。
さいごに
現在価値と割引率については、M&Aアドバイザリーの実務では当たり前の知識ではあるものの、それを改めてゼロから説明するとなるとなかなか難しいと感じております。
もう少しわかりやすい説明の方法を思いついたら、適宜修正していきたいと考えています。
確認テストの回答
- 手許にある100万円を10年間5%で運用したときの10年後の価値は( 100万円×(1+0.05)^10 )という式から約( 162.9 )万円となる。
- 逆に、5%で10年間運用した結果100万円となる現在の元本は( 100万円 ÷ (1+0.05)^10 )という式から約( 61.4 )万円となる。
- このように、将来の金額と利率を決めて逆算で現在の元本を求める計算方法を( 将来価値の現在価値への割引計算 )といい、その際の利率のことを( 割引率 )と呼ぶ。
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