株式交換において子会社が保有する自己株式を消却する実務を確認していく記事の第3回です。
(前回の記事)
前回から、いつもの先輩と後輩の対話を通じて会社法・税務・会計等のポイントを確認しております。
今回は、自己株式消却のタイミングと消却する株式数にまつわる実務上の工夫についてみていきます。
(文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です)
対話編
株式交換で完全子会社が事前に自己株式を消却する手続の詳細
◎株式交換において子会社側では自己株式を消却した方が望ましいということはなんとなく分かってきましたが、具体的な実務も知りたいところですね。
◆◆具体的な実務??
◎要は、どういうタイミングで何の決議をして、どのような開示をするのかといったあたりです。
◆◆なるほどね。せっかくだからしっかりと整理してみようか。
必要な手当
◆◆まず、東証に上場している会社同士の株式交換を想定した場合に、事前に自己株式の消却をするために必要な手当は、
- 株式交換契約書に、効力発生の直前を基準時として完全子会社となる会社による自己株式消却条項を入れる
- ※基準時とは「親会社が子会社の株式を全て取得する直前」として定義
- 効力発生日の前日までに完全子会社となる会社が取締役会を開催し、基準時に保有している自己株式の消却決議をする
- 自己株式の消却登記をする
という流れだね。
◎そうみたいなんですけど、自己株式消却の決議のあたりがピンとこないんですよ。なぜ決議時点で保有している自己株式を素直に「保有するXX」株と定めて消却しないんですかね?
◆◆それは、買取請求があった場合、自己株式が増えてしまうからだよ。
◎えーと、買取請求があると自己株式が増えるんでしたっけ?
◆◆会社法の規定なんだけど、株式交換の完全子会社において、株主による株式買取請求(会社法第785条第1項)の効力は完全子会社においては、株式交換効力発生日に買取請求の効力も発生するんだ。
◎そうでしたっけ。
具体例で考える
◆◆問題点がわかりやすくなるように、具体例で考えてみようか。次のケースの問題点はわかるかな?
◎効力発生日の前日に決議して、その時に保有していた自己株式を消却することにしてますので、株式交換契約どおりだと思うのですが。
◆◆このケースで、自己株式消却決議の取締役会が終わり、役員のみなさんが帰宅した後の夕刻に内容証明郵便が届いて、ある株主が買取請求3,000株を通知してきたらどうなるかな?
◎なるほど、会社法としては買取請求期間の満了は効力発生日の前日が終わるまでなので、その買取請求は有効ですよね。
◆◆そのとおり。そうなると、会社は反対株主からの買取請求分3,000株とあわせて株式交換効力発生直前に4,000株の自己株式を保有しているんだけども、消却する自己株式は1,000株だからり、残りの3,000株には親会社株式が割り当てられてしまうよね。
◎これは困りましたね、、、。
会社法の解釈を精緻化する
◆◆困るよね。だから、法の解釈として、株式交換の効力発生を2つの段階にわけて考える必要があるんだ。
- 完全子会社となる会社の株主からの買取請求の効力が発生し、完全子会社となる会社が自己株式として取得
- 完全親会社が完全子会社の株式全てを取得し、対価として完全子会社の会社の株主に完全親会社の株式の割当交付
ここで、1と2の間を基準時として、完全子会社となる会社がその時に保有する自己株式を消却するという決議ができれば、反対株主からの買取請求があった株式を漏れなく消却できるよね。
◎そうなりますね。
◆◆だから、実務上は株式交換の効力発生を次のように解釈しているんだ。
- 完全子会社となる会社の株主からの買取請求の効力発生が発生し、完全子会社となる会社が自己株式として取得
- 完全子会社となる会社が買取請求にて取得した株式も含めた自己株式消却の効力発生
- 完全親会社が完全子会社の株式全てを取得し、対価として完全子会社の会社の株主に完全親会社の株式の割当交付
事例は?
◎買取請求されるのが何株なのか最後までわからないから事前に消却する数を具体的に決めることができないんですね。ようやくわかりました。でも、せっかくなので何か事例でその流れを見てみたいですね。
◆◆そうだね。最近の株式交換の事例を確認してみようか。
◎ぜひ、お願いします。
(次回に続きます)