株式交換で子会社が保有する自己株式を消却するのはなぜか(2)

M&A講座
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前回から、株式交換において子会社が保有する自己株式を消却する実務について確認しております。

(前回の記事)

株式交換で子会社が保有する自己株式を消却するのはなぜか(1)
上場会社を完全子会社化しようとする場合、対価の種類によって用いられる手法が変わってきます。具体的には、 現金対価:TOB+スクイーズアウト 株式対価:(TOB)+株式交換 といった実務慣行があります。 現金対価の場合にはTOBを経ないことは...

ここからは、いつもの先輩と後輩の対話を通じて会社法・税務・会計等のポイントを確認していきたいと思います。

(文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です)

対話編

◎先輩、いま株式交換の案件をやっているんですけどね。

◆◆子会社側のアドバイザーだっけ?

◎そうです。それで、相手方のアドバイザーから自己株式を効力発生日の前に消却して欲しいと依頼があったんですよね。でも、そもそもなぜ消却する必要があるのでしたっけ?

◆◆「株式交換の効力発生直前に消却」っていうケースがほとんどだよね。自分が関与する案件でも消却するようにアドバイスしているよ。

◎税務が理由だって聞いたことがあるんですけど、、、詳しくはわかっていませんでして。

会社法の観点

◆◆順を追って考えてみよう。まず会社法の観点で考えてみると、子会社は親会社の株式を保有できるかな?

◎それは覚えています。子会社は親会社の株式を原則として保有してはいけませんから(会社法第135条)。

◆◆じゃあ、例外的に取得できた場合は、親会社株式を持ち続けていいのかな?

◎それもダメですね。相当の期間に処分する必要があります。

◆◆そのとおりだね。株式交換で子会社が保有する自己株式を消却しない場合、効力発生に伴い、そこに親会社株式が割り当てられてしまうのだよね。

◎あっ、そうか。子会社が保有する親会社株式ができてしまうんですね。

◆◆そう。合併の場合には消滅側の自己株式はほっておいても消えるんだけど株式交換と株式移転の場合、子会社側には対価(親会社株式)が割り当てられてしまうんだよね。

◎そして、それは相当の期間に処分する必要があるというわけですね。でも、だったら一旦取得して相当の期間に処分すれば問題ないと思うのですけど。

税務の観点

自己株式の税務上の簿価は?

◆◆会社法だけ考えていればそうなんだけど、税務も含めると複雑な事情があるんだ。

◎やっぱり税務ですか。

◆◆税務上、自己株式の帳簿価額っていくらだっけ?

◎自己株式の簿価ってBSの純資産の部にマイナスで載ってるあの金額ですよね?

◆◆やはりそうきたね。残念ながらそれは違うんだよ。BSの純資産の部に記載されている簿価は会計上のみの簿価で、税務上は自己株式の簿価はゼロなんだ。

◎あれれ?

◆◆税務上、自己株式は取得した時点で、資本金等(場合によっては利益積立金とも)と相殺するため、簿価はゼロになっているんだよ。

◎前に調べた気がしますが、、、もっと勉強します。

(参考記事)

自己株式の買付けの会計・税務処理(前編) 〜みなし配当とは何か?〜
今回から2回に分けて自己株式の買付けの会計・税務処理を確認していきつつ、みなし配当も説明していきたいと思います。 M&Aのスキームを検討するときに、 「自己株式の買付けについて、法人株主はタックスメリットがとれて有利になるね」 といった会話...

◆◆簿価ゼロの自己株式に親会社株式を割当てられると、簿価ゼロの親会社株式を取得することになるんだ。さらに、それを処分するとして、たとえば外部の第三者に売却すると全額益金に算入されてしまうんだ。

◎全額益金算入って、つまり100%課税ですよね。もったいないじゃないですか!

◆◆そうなんだよ。だから、株式交換の事前に消却しておいて親会社株式が割り当てられないようにしておく必要があるんだよね。

◎なるほど。ちなみに、子会社になる前に取得してた親会社株式は別の話ですよね?

◆◆それは普通の株式と同様に、取得時の支出額が税務上の簿価となっているはずだよね。だから自己株式に割り当てられて取得することになる親会社株式とは直接的には関係ないね。その後相当の期間に処分すべきなのは一緒なんだけども。

連結納税・グループ法人税制適用後の実務慣行

◆◆実は平成22年度の税制改正で、グループ法人税制というのが適用になっていてね。これと連結納税制度のどちらかの規定によって、現在は、完全子会社が親会社株式を完全親会社に無税で譲渡したり、無税で現物配当ができることになっているんだ。

◎そうなんですか?

◆◆だから、税務の観点でも株式交換において自己株式を事前消却する必要性はかつてより下がっているんだ。でも、実務的には敢えて親会社株式を発生させる意義も乏しいから、従来通り事前に消却という慣行に変わりはないみたいだね。

◎なるほど。

会計の観点

◎税務はわかったんですけど、会計はどうなるんですか?

◆◆会計は単体と連結で分けて考える必要があるね。

◎いつもそうですよね。

単体

◆◆まず、単体について考えてみると、仮に自己株式に親会社株式を割り当てられた場合、子会社においては自己株式の簿価を引き継いで親会社株式の簿価とはできないんだ。代わりに、親会社株式を時価で受け入れたとして会計処理する必要があるんだよね。

◎そうなんですか?それだと差額が発生しますよね?

◆◆そうだよ。差額は普通の自己株式の処分と同じくその他資本剰余金の増減とするんだ。何も考えずに簿価引き継ぎだろうと思っていると間違えるところだから注意してね(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針238-3項)。

◎仮に自己株式を消却する場合には、「剰余金 // 自己株式」っていう仕訳になりますよね? それが、「親会社株式 //自己株式+処分差額(剰余金)」という仕訳になると、だいぶ異なるBSになりそうです。

◆◆そうだね。実は親会社の単体の処理についても、子の自己株式が残ってると新株発行数が増えるから、その分だけBSが膨らむことになるね。

◎「子会社株式 XXX // 株主資本 XXX」という仕訳の金額が増えるってわけですね。

◆◆そのとおりだよ。

連結

◎じゃあ、連結はどうなるんでしょうか。親も子も単体でだいぶ異なる処理をしていますからなんとなく色々な差異が発生しそうですけども。

◆◆それが全く同じになるのが連結の面白いところなんだ。数値例を用いて見ていこうか。

【前提:P社によるS社の株式交換】

  • P社はS社を株式交換で新株を発行し完全子会社化(増加資本は資本金として処理)
  • P社の株価は150
  • S社の株価は100
  • S社の発行済株式は16株(うち、自己株式は6株)
  • S社は過去に自己株式6株を取得しており、その単価は30
  • 株式交換比率は1:1
  • 株式交換直前の各社のBSは以下の通り
【P社のBS】
諸資産 18,000 資本金 12,000
利益剰余金 6,000
【S社のBS】
諸資産 1,000 資本金 300
資本剰余金 880
自己株式 ▲180
ケース1.自己株式を消却する場合

◆◆まず、自己株式を消却するケースを考えていこう。S社が自己株式を消却する会計処理はどうなるかな。消却の相手方は資本剰余金にしてね。

◎それは簡単ですね。

【S社単体:自己株式消却の仕訳】
資本剰余金 180 自己株式 180

◆◆そのとおりだね。次にP社による株式交換の会計処理はどうかな。

◎S社の発行済株式数は10株になりましたので、株価150 x 10株 で1,500だけS社株式と資本金が増えますね。

【P社単体:株式交換の仕訳】
S社株式 1,500 資本金 1,500

◆◆OKだね。最後に、P社の連結はどうなるかな?

◎連結は、合算+消去ですよね。さすがにこれは慣れました。投資と資本の消去仕訳は次のようになりますね。

【P社連結:投資と資本の消去仕訳】
資本金 300 S社株式 1,500
資本剰余金 700
のれん 500

◆◆最後にP社の連結BSを示してくれるかな。

◎P社とS社の単体BSの単純合算に先ほどの投資と資本の消去仕訳を織り込めば良いですよね。

【P社連結BS】
諸資産 19,000 資本金 13,500
のれん 500 利益剰余金 6,000

◆◆全てOKだね。

ケース2.自己株式を消却せず親会社株式を割り当てる場合

◆◆次に、一般的な案件では出くわさないだろうけど、自己株式を消却しなかった場合について考えてみよう。まずは単体の処理からだね。

◎子会社側では、自己株式と親会社株式の交換の会計処理が必要ですね。

【S社単体:株式交換に伴う自己株式への親会社株式の割当】
親会社株式 900 自己株式 180
資本剰余金 720

◆◆そうだね。差額は資本剰余金として処理するのだったね。

◎親会社側では子会社株式と資本金の増加仕訳ですね。S社の発行済株式数は16株のままですので、株価150 x 16株 で2,400だけS社株式と資本金が増えますね。

【P社単体:株式交換の仕訳】
S社株式 2,400 資本金 2,400

◆◆そのとおり。では、P社の連結BSはどうなるかな?

◎連結の投資と資本の消去仕訳は次のようになりますね。

【P社連結:投資と資本の消去仕訳】
資本金 300 S社株式 2,400
資本剰余金 1,600
のれん 500

◆◆最後にP社の連結BSを示してくれるかな。

◎こちらもやはり、P社とS社の単体BSの単純合算に先ほどの投資と資本の消去仕訳を織り込めば良いですよね。

【P社連結BS(誤ったBS)】
諸資産 19,000 資本金 14,400
親会社株式 900 利益剰余金 6,000
のれん 500

◆◆うーん、正解といいたいところだけども、ひとつだけ処理が抜けているね。

◎あれ?

◆◆P社にとって、S社が保有する親会社株式は、要は自己株式だよね?

◎あ、そうですね。

◆◆だから、親会社株式を株主資本の減算項目である自己株式に振り替えてあげる必要があるね。

◎ではこのような仕訳でしょうか。

【P社単体:株式交換の仕訳】
自己株式 900 親会社株式 900

◆◆そうだね。じゃあ、正しいP社の連結BSはどうなるかな?

【P社連結BS(正しいBS)】
諸資産 19,000 資本金 14,400
のれん 500 利益剰余金 6,000
自己株式 ▲900

◆◆これでOKだよ。ここまでで自己株式消却の有無が親会社の連結上はほぼニュートラルであるってことが分かったかな?

◎ケース1と2でのれんの金額はどちらも500ですし、P社連結の株主資本の金額は19,500となっていますね。

◆◆株主資本の内訳は異なるんだけども純額は一緒だし、のれん の金額は一致するんだよね。

◎説明されると分かるんですけど、会計ってやっぱり不思議ですねえ。

(次回に続きます)

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