経営統合(組織再編)のM&A案件と金商法対応 〜有価証券届出書の提出が必要となることも〜

M&A講座
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今日は、経営統合や組織再編(合併、分割、株式交換、株式移転)のM&A案件と金融商品取引法の義務(具体的には、有価証券届出書の提出要否)について見ていきます。

会社法はM&Aにおいてよく参照されますし、実際の手続が規定されているのでその制度を頭に入れているFAは結構多いです。

一方で、組織再編のM&Aにおける金商法の規制についてまでしっかりとおさえているFAは案外少ないように感じております(TOBについては皆様しっかりおさえているようですが)。

組織再編の案件の途中で弁護士から指摘が入り、クライアントが金商法対応が必要なことに気づき、それを初期段階で指摘しなかったFAに対してクレームが来たなんて話を聞いたことがあるような気もしますし。

ということで、M&Aに関連する金商法として、今回は組織再編と有価証券届出書の関係をおさえていきましょう。

金商法では合併等の組織再編がなされたら有価証券届出書の提出が原則

まず、金商法の原則ですが、合併等の組織再編がなされた場合には、原則として有価証券届出書の提出が必要となります。

これまで有価証券届出書が論点になった案件がなかったのはなぜですか

経営統合的なM&A案件をそれなりに経験してきたメンバーから時々言われるのは、

金商法の原則が有価証券届出書の提出義務ありなら、今までの案件で実は提出漏れがあったなんておそれはないですよね!?

という心配です。

でも、たいていはその心配は杞憂に終わります。

といいますのも、上場会社が存続会社となる合併では例外的に有価証券届出書の提出が免除されているからです。

金商法の原則

金商法の原則のイメージ

大まかに言うと、株式を対価とする

  • 合併
  • 分割型の会社分割
  • 株式交換
  • 株式移転

については、合併消滅会社、分割会社及び株式交換・移転の完全子会社側が、会社法の事前開示書類を開示することをもって、有価証券の募集又は売出しがあったと扱っています(金商法2条の2)。

たとえば合併なら、合併存続会社の株式が対価として交付されることを有価証券の募集又は売出しがあるとみなすということです。

これは、合併消滅会社の株主の視点で考えれば、自分の持っている株式と引換えに、合併存続会社の株式の割当交付を受けるかどうかを判断する(株主総会で合併に賛成するか否か決める)こととなるわけで、「有価証券の募集又は売出し」とみなすべき行為であると言えるわけです。

専門用語の定義

なお、金商法では、合併消滅会社、分割会社、株式交換・移転完全子会社のことを

組織再編成対象会社

と定義づけており(金商法2条の2第4項)、これらの組織再編行為に基づく事前開示書類を備え置くことを、

組織再編成発行(交付)手続

と定義しております(金商法2条の2第2項)。

なお、発行と交付とは次のように定義されます。

  • 発行:新規に有価証券を発行するケース(代表例は新株発行)
  • 交付:既存の株式を交付する場合(代表例は自己株式の代用処分)

(参考)理解度の確認チェック

【問題】

合併存続会社が、会社法の事前開示書類の備え置きを開始することは、有価証券届出書の提出に関係はあるか?

【解答】

組織再編成発行(交付)手続は、合併「消滅」会社が事前開示書類の備え置きを開始することをトリガーとしており、存続会社が事前開示書類を備え置くことは無関係。

金商法の例外

組織再編成発行(交付)手続が、募集又は売出しに該当するからといって、どんなケースでも有価証券届出書を提出していたら煩雑になってしまいます。

そこで、全ての組織再編成発行(交付)手続が、有価証券届出書の提出対象となっているわけではなく、

特定組織再編成発行(交付)手続のうち、有価証券届出書の提出が必要なタイプ

の場合に限られております。

概念の関係をツリー構造で示す

概念の関係をツリー構造で書くと次のようになります。

  • 組織再編成発行(交付)手続
    • 特定以外の組織再編成発行(交付)手続 → 対象会社の株主が50名未満、等
    • 特定組織再編成発行(交付)手続 → 対象会社の株主が50名以上、等
      • 有価証券届出書の提出が不要なタイプ(次のA~Cの条件のいずれかを満たさない)
      • 有価証券届出書の提出が必要なタイプ(次のA~Cの条件を全て満たす)

 

  • 有価証券届出書の提出判定条件
    • (A)特定組織再編成対象会社が継続開示会社
    • (B)発行(交付)される有価証券が現状では非開示(有報提出義務なし)
    • (C)発行(交付)される有価証券の発行(売出し)価額の総額が1億円以上

事例では

少し古いですが、JFE商事とJFE商事ホールディングスの合併では、有価証券届出書が提出されましたが、これは、

  • そもそもJFE商事HDの株主数が50名以上(「特定」となるための大前提)

かつ

  • (A)特定組織再編成対象会社であるJFE商事ホールディングスが継続開示会社
  • (B)発行(交付)される有価証券がJFE商事株式であり非開示
  • (C)発行(交付)される有価証券の発行価額の総額が1億円以上(JFH商事HDの時価総額)

ということで、全ての要件を満たす特定組織再編成発行手続であったためです。

株式移転の場合は必ず有価証券届出書が必要!

これまで見たように、一般的に、組織再編の存続会社等が上場会社である場合は、有価証券届出書の提出が免除されています。

ただし、上場会社が関与する案件でも、株式移転の場合は有価証券届出書の提出が必須となります。

これは、発行(交付)される有価証券が継続開示されているか否かが組織再編成発行手続がなされたタイミングで判断されるためです。

すなわち、株式移転で持株会社を設立しようとしている株式移転完全子会社において事前開示書類の備え置きが開始された日には(当然、株式移転の効力発生日より相当前に備え置きを始める必要があり)、株式移転の効力発生日に設立されることになる持株会社は未だ存在してないため、その会社(持株会社)が発行する有価証券は継続開示されているとはみなされないという整理です。

ちなみに、株式移転は1社でおこなう単独株式移転と2社以上でおこなう共同株式移転のいずれであっても、有価証券届出書の提出が必須になるという点は同じです。

さいごに

さいごに、経営統合型のM&Aと金商法の有価証券届出書の規制をざっくりまとめてみると、

  • 株式移転
  • 非上場会社を存続会社とする合併や非上場会社を親会社とする株式交換

を検討する際には、有価証券届出書の提出について留意が必要、となります。

(実務上は、株式移転を検討する際に論点となることがほとんどですが)

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