M&Aで負の「のれん」が発生し過去最高益達成! 〜それに伴う特別配当はあり?〜

M&A講座
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今日は、簡単な連結と単体の区別の話ですが、勘違いをするとなかなか恐ろしいケースについて考えてみます。

買収を検討するクライアントが陥りやすい勘違い

負ののれんを特別配当?

M&Aを検討しているクライアントとのディスカッションの中で、対象会社をPBR1未満で買収できそうな場面で、次のような会話がなされることがあります。

クライアントとFAの会話例

(クライアント)今回の対象会社は純資産未満で買収できそうですね。

(FA)そうですね。それなりに負ののれんが発生すると思います。

(クライアント)負ののれんは一括処理ですよね。金額次第ですが、かなりの可能性で当社の純利益が過去最高になりそうです。

(FA)なるほど、良い流れですね。

(クライアント)そこで、この負ののれんで増えた利益でもって特別配当をしようかと思っているんですよ。

(FA)えぇ!?

負ののれんと単体の会計処理

以前、連結会計について説明した際に述べましたが、負ののれんは連結上のみで発生し、連結上の特別利益に計上される項目です。

したがって、単体の会計処理は、現金対価の買収であれば

子会社株式 XXX // 現金 XXX

という仕訳がなされているのみです(単体上は、単純にBS資産の入り繰りであり、剰余金は増加せず)。

配当可能利益は単体で算出

昨今は連結重視の単体軽視の風潮ですが、現状でも原則として配当可能利益は単体をベースに算定されます(連結配当規制適用会社を除く)。

先ほど見たように、負ののれんの効果は単体上では何ら影響なく、会社を買収したところで配当可能利益を増やす効果はありません。

買収後に特別配当で対象会社の純利益を吸い上げるぞ!

昨今は連単の区別が認識されるようになり、負ののれんで特別配当をしようという流れになることは、滅多になくなりましたが、代わりに次のような話題になることが増えてきました。

クライアントとFAの会話例

(クライアント)今回の対象会社は利益剰余金をたっぷりと持っていますね。

(FA)そうですね。純資産も厚くて、良いバランスシートだと思います。

(クライアント)それで、せっかくなので買収後に対象会社から特別配当を受けて、その利益剰余金を弊社に持ってくれば、弊社の単体の配当可能利益も増えますし、株主にとっても良いニュースだと思うんです。

(FA)えぇ!?

投資時に対象会社が保有していた剰余金による配当は、子会社株式の減額になる(受取配当金にならない)

近年は、買収した子会社に利益剰余金があって、それを配当原資とする配当を親会社が受けた場合には、親会社において受取配当金とならずに、子会社株式の減額として処理すべきという流れになっているようです。

この論点は、実際には監査法人との協議が必要で、受取側の親会社で利益認識できるか照会して、実行前にお墨付きを得る(または得られない)のかの確認をしていただければと思います。

参考として、根拠となる会計基準の適用指針を挙げておきます。

企業会計基準適用指針第 3 号「その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理」

第13項

なお、本質的には支払側の配当の原資(その他資本剰余金又はその他利益剰余金)により、自動的に受取側の会計処理(投資成果の受取又は投資の払戻し)が決定されるわけではない。例えば、以下の場合には、支払側の配当の原資に従って受取側が処理しても、必ずしも投資成果の分配と投資そのものの払戻しを整合的に処理できない。

(1) その他利益剰余金の処分による配当の原資が、投資以後に投資先企業が計上した留保利益の額を超えている場合

さいごに

クライアントとの何気ない会話であっても、誤った情報を伝えたり、相手の勘違いをタイムリーに修正できないと、後ほどクレームがなされることがありますので、適切に対応ができるように制度を正しく覚えておくことが大切です。

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