前回に引き続き、株式譲渡のプロセスを解説していきます。
今回はプロセスレターとインフォメモについて見ていきます。
- 第1フェーズ
- ティーザーの配布と入札参加の決定
- アドバイザー(FA)、弁護士・会計士・税理士等専門家の起用
- 秘密保持契約書の締結
- 入札案内書(プロセスレター)、インフォメーションメモランダムの配布
- 第1次意向表明書の提出
- 第2フェーズ
- 第1フェーズ通過者の確定、プロセスレターの更新版配布
- デュー・ディリジェンス(DD)の実施
- 最終の意向表明書の提出
- 株式譲渡の金額・条件交渉
- 株式譲渡契約書の締結
- クロージング
プロセスレターの記載内容
プロセスレターとは
プロセスレターは入札案内書とも呼ばれ、株式譲渡案件の売却プロセスの概要を説明したペーパーです。
だいたい10ページ程度におさまる分量で、通常は売手のFAが作成し、秘密保持契約のあとに買手候補に配布します。
プロセスレターの記載内容
第1フェーズのプロセスレターの記載内容は、一般的に次のとおりです。
- 挨拶文
- 案件概要
- スケジュール
- 売手の希望事項
- 意向表明書の要記載事項
- 留意事項
- 売手の窓口
1.挨拶文
1.挨拶文というのは、
「拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。本書は、Project ●●につき、、、」
からはじまるプロセスレターの送付の挨拶です。
プロセスレターは、FAの名で出すことが多いので、業者であるFAとして丁寧に買手候補に挨拶をします。
2.案件概要
案件概要とは、一般的には以下のような内容を簡単に記載するケースが多いです。
- ターゲット会社の商号
- 売手の株式保有割合と売却を希望する株式数
- インフォメーションメモランダムの配布について
- 意向表明書の提出依頼
- DD実施のイメージ
- 株式譲渡契約締結までのスケジュールイメージ
3.スケジュール
スケジュールのパートには以下の内容を記載します。
網羅的にイベントを記載することに意味があるため、日付が未定の項目については「未定:日付が確定次第別途ご案内」としておくことになります(一般的には、第1フェーズではDD以降のスケジュールは仮置きや未定となるケースが多いです)。
- プロセスレター配布
- IMの配布
- 第1次意向表明書の提出期限
- DD
- 株式譲渡契約書案の配布
- 最終の意向表明書の提出期限
- 株式譲渡契約書の修正案の提出期限
- 株式譲渡契約締結
- クロージング
なお、この例では1次入札の次が最終入札としておりますが、2次入札の後に3次入札まで実施するケースもあります。
4.売手の希望事項
ここでは、売手がこのディールに何を希望するのかを記載します。
場合によっては省略されることもありますが、買手に正しく案件を理解してもらうためにも記載しておくのが望ましいと思います。
記載例としては、こんな感じです。
- 取引形態 → 株式譲渡
- 対象株式 → 全株式
- 対象事業 → 全事業
- 取引対価 → 現金
- 従業員の処遇 → 全員の雇用条件の維持
なお、株式譲渡案件なのに、対象事業を敢えて「全事業」と記載するのは理由があります。
ケースによっては、売手が株式譲渡の事前に対象会社の一部の事業をカーブアウトして切り出して売手の中に残したいと思うこともあります。
逆に、対象会社に不採算事業があるときなんかは、買手からそれを別途切り出してから売って欲しいと希望されることもあるため、どの事業が対象なのかを明確にする趣旨です。
5.意向表明書の要記載事項
これは、後段の意向表明書の記載内容にて説明します。
6.留意事項
留意事項の部分は、本プロジェクトについて買手に了承しておいてもらいたい注意事項を書きます。
たいていはFAがドラフトする長い文が続きますが、端的に言えば次のことを主張します。
- プロセスレターの内容に関するディスクレーマー
- 情報の差し替え権利
- 秘密保持義務
- 買手の費用負担につき売手は関係なし
- 案件実行のコミットメントなし(売却プロセスをいつでもやめられる)
- 売手・対象会社への直接のコンタクト制限
- すべての免責(情報が間違っていても知りません)
なお、最終的な買手とは株式譲渡契約を締結し、その中で開示した資料につき、重要な点に誤りがないことを表明保証させられるのが一般的です。
したがって、プロセスレターで情報開示の免責を主張しても万能ではなく、売手が開示する資料については慎重にその正確性や完全性につき検証を要する点に留意が必要です。
7.売手の窓口
最後に、売手の窓口、すなわち買手からのコンタクト先は、売手のFAとして欲しい旨を記載します。
あわせて、対象会社や売手に直接コンタクトしないで欲しいとの注意書きも記載します。
インフォメーションメモランダム(IM)
IMとは
インフォメーションメモランダムは、IMやインフォメモとも呼ばれ、株式譲渡案件において、買手候補が第1次の意向表明書を作成するために資する初期的な資料・情報をとりまとめたものです。
一般的には、FAがIMを作成を担当しますので、投資銀行のディールチームの若手は、「いかに綺麗なIMを作るか」に翻弄されます。
といいますのも、IMは売手にとって、
「対象会社はこんなに良い会社なんですよ!」
ということをアピールする重要な資料であるため、体裁を含めて売手のFAは万全を期して作成することを期待されています。
実際に、買手候補のFAとして起用され、他の売手FAが作成したIMを多く目にしてきましたが、案件ごとFAごとにIM作成スタンスはだいぶ異なります。
簡易的なIMは会社の資料をそのままコピーしてインデックスをつけただけだったりしますし、本格的なものはすべての資料をFAがIM用に再編集します(後者の全部再編集方式でやる場合、見た目はきれいになりますが、FAとしてはつらい作業だったろうなと察したりします)
インフォメモ(IM)の記載内容
一般論ですが、基本的にIMには次のような項目の中から、適宜必要なものを記載します。
- IM全体の要約と対象会社の魅力(Executive Summary)
- 会社概要(社名、本社所在地、代表者名、資本金、設立年月日、従業員数)
- 役員構成、株主構成、沿革、組織図、グループの事業所・子会社一覧、従業員一覧(組織別)、保有している許認可、特許、資格等、関連規制
- 事業の概要、マーケット(市場)環境、商流、生産、仕入先・販売先
- 固定資産・設備の状況
- 過去の財務の状況
- 足許の状況(月次推移、四半期速報、予算の達成状況)
- 将来の事業計画
分量は数十ページから場合によっては百ページを超えるケースもあります。
売手のFAとしてIMを作成する場合
IMに何を記載するか
売手のFAはIMの作成者ですので、IMに何を記載するのかを売手と協議して決めていきます。
先ほどの項目は全部載せるのが一般的かということをきかれることもあるのですが、対象会社のビジネスによって不要となる項目もあるものの、基本的には網羅的に記載した方がいいように感じます。
といいますのも、情報を制限しすぎると買手が「判断不能」として入札してくれなくなる場合もあるからです。
同業他社をプロセスに呼んでいる場合
しかしながら、同業者間での入札案件なんかでは売手が情報を出したくないというケースもありますし、ガンジャンピング規制の観点でも情報に制限をかけるのが望ましいという話もあります。
ゆえに、そのような場合には、非開示にしたり、匿名性を高める工夫をしたりすることがあります。
要は、相手先を個社名じゃなくてA社、B社とかにしたり、金額もざっくりベースやパーセントにしてしまうとかです。
売手に不利な情報の取り扱い
仮に開示すると、売手に不利な情報というものもあります。
たとえば設備が古いとか、資産に含み損があるとか、退職給付債務の引き当て不足があるとかがそういう場合です。
そのような場合、まず、その情報を第1フェーズの段階で開示するのかしないのかを売手とよく話し合う必要がありますが、一般的には第1フェーズでは開示せず、DD後に価格調整させるというケースの方が多いように感じます。
買手のFAとしてIMを精査する場合
次に、IMの利用者、すなわち買手のFAになった場合のことを考えてみます。
初期的なValuation実施の観点
買手のFAの立場で最も重視すべきなのは
- 過去の財務の状況と将来の事業計画
です。
特に、事業計画は売手が壮大な楽観ストーリーを作っていることもあるため、過去実績からどのくらい伸ばしているのかを検証する必要があります(事業計画が絵に描いた餅になっていないかを確認する)。
さらに直近のBSも重要です。
非事業性資産負債の概要をつかんだり、有利子負債や退職給付債務の状況、設備投資と減価償却の状況もあわせて確認しておきたいところです。
要は、初期的なValuationを実施するという視点でIMをチェックすることになるわけです。
他にどこに注目する?
他にも、事業別の実績や契約があれば、それの分析をしたいところです。
また、販売先や仕入先の過去からの金額推移上位10件をみたりもするかな。どのようなところと取引をしているのか、またそれに継続性があるのかも重要なポイントです。
ただし、事業別の細かいデータはこの段階では記載されないケースの方が多いように感じます。
ジュニアから
「前半の事業の部分はよくわからないのですが、IMは全部読んでおいた方が良いのでしょうか?」
等と聞かれることがありますが、一見Valuationに関係なさそうなところであっても、ひととおり目を通すのは重要です。
買手候補のクライアントは、役員構成、従業員の配置図、事業所の場所、特許・許認可等も気にしたりしますので、クライアントとのミーティングでIMの内容が話題になった際に、前半部分を読んでないと危ない橋を渡ることになります。
IMの内容を売手に質問できるか
第1フェーズの段階では、質問を受け付けなかったり、受け付けたとしても若干数の質問しか受け付けないというケースの方が多いと思います。
なので、IMの内容で気になったことがあって、それに関する説明がないときは別途売手に内容を確認したとしても、
「回答はフェーズ2以降にします」
という実質無回答になったりもするからあまり期待できないところです。
回答がなければ意向表明書が提出できないほどの重要事項の場合には、その重要性を売手のFAに伝達して回答を促す必要があります。
さいごに
次回は第1次の意向表明書を詳細に見ていきます。