先日、FAから見た専門家の先生方のイメージを記事にしました。
(参考記事)
専門家とクライアントとが会話をする重要な場面のひとつに、DD報告会があります。
このような会議において、専門家とクライアントが会話をするとどうしても双方の理解が進まなかったり、誤解があったりするケースがあります。
その理由としては、専門家は専門用語を駆使して会話を進めたがり、クライアントは専門家の話している内容とポイントをよく理解できないからというところが大きいと思います。
今回はFAとしてDD報告事項をどのように処理していくかについて考えてみたいと思います。
DDの検出事項は3つのタイプに分ける
DD報告会にて・・・
DD報告会は、M&Aの買手候補側において、クライアントや弁護士・会計士等の専門家を一同に会するミーティングとして執り行われることが一般的かと思います。
各専門家は、相手先へのDDの結果をとりまとめてクライアントに報告することになります。
ここで、各専門家が案件に対するマグニチュードをしっかりと認識しながら報告すれば良いのですが、自社の頑張りを強調したい専門家の場合、実態としてはそこまでリスクが大きくないものについても、論点を強調したりします。
基本的に、専門家は案件の成否に関係なく報酬を貰える時間給ベースなので、調査をしっかりやっておくことが重要であるというインセンティブが働きやすいですし、仮にM&Aが成立した後に論点の調査漏れが後から発覚した際には、未発見の論点のマグニチュード次第では「出入り禁止措置」もあり得るので、とにかく網羅的にリスクを挙げておくことが自らを守るためという観点でも有用でしょう。
しかし、M&Aに不慣れなクライアントであればあるほど、専門家からリスクがありますという報告を受けると思考停止になってしまいます。
そして、思考停止になると、
「まあ、専門家がここまでリスクを挙げるということは、やめておいた方が良いよね」
というパターンに陥りがちです。
リスクを評価する
FAとして、成功報酬でとにかく案件を成約させなければ報酬を貰えないからといって、リスクを漠然とさせたままで案件を進めようとするFAはあまりいないと思います。
といいますのも、結局M&Aアドバイザリーの仕事も、いわゆる「繰り返しゲーム」なので、クライアントにとっての長期的なメリットを追求しない姿勢では、次回のお声は掛からないだろうということはよくわきまえているからです。
ということで、FAとしては、専門家が挙げたリスクを次の3つの類型に分け、分析していくことになると思います。
- 些末な論点
- 価格や契約条件に織り込むべき論点
- ディールブレーカー
1,些末な論点
感覚論で恐縮ですが、基本的にDD報告の半分以上は些末な論点であることが多いです。
買収金額の1%にも満たない類いの話であったり、発生可能性が極めて低くかつ金額インパクトもたいしたことないものであったり、既に終わった話であったりというタイプの論点がこれです。
専門家の先生方としては一生懸命調査した結果を報告するために必要なのかもしれませんが、これらの論点が数多く紛れることで、本当に留意しなければならない論点が見えにくくなるような報告をしないで頂けると助かるなあと思うところです。
また、これらの論点は、場合によってはPMI上は有用なものがあるかもしれませんが、M&A案件中は基本的に重視せずに進めることになります。
2.価格や契約条件に織り込むべき論点
次に、価格や契約条件に織り込むべき論点というタイプがあります。
こちらは、金額的なインパクトが大きな論点や将来的な発生可能性は読めないものの、発生した場合のインパクトが大きなものが当てはまります。
前者であれば、Valution報告に織り込むことになります。したがって、FAとしてはどの報告ないようなダイレクトにValueにヒットするのかを峻別する能力が大切になるわけです。
また、後者のような可能性が読めないものの、発生したときのインパクトが大きな論点は、買収価格に織り込むことが難しければ、特別補償として通常の補償の枠組みとは別で整理するといのも一案だったりします。
3.ディールブレーカー
最後の論点は、インパクトが大きすぎて、買収者としては制御できないものです。
このような論点は、買収の前提といて解決しておくことを求めたり、場合によってはディールを諦めたりすることになるかと思います。
ディールブレーカーとなり得る論点が発見されるかどうかはディール次第ですが、そのタイプが発見された場合にはFAとしては正直に
「これが解決されなければ買収すべきではないでしょう」
と伝えることになります。
(そして、そのような場合、撤退モードになったりするのが辛いところですが仕方ありません)
論点の区分は専門家とも共有する
M&Aに慣れている弁護士と協働している場合には、FAとして区分した上記3つの類型をその弁護士とも共有して、専門家としての論点の区分も同じであるというお墨付きを得るようにします。
M&Aに不慣れな弁護士が起用されている場合には、ある程度その弁護士を啓蒙するように努めますが、それでも弁護士が動かない場合には、(不本意ながら)弁護士のアドバイスに従うことになるケースがほとんどでしょう。
(所詮FAは法律の専門家ではないため、弁護士の意見の重みは変えられません)
さいごに
DD報告内容を総括的に認識し、それぞれをどのように手当てすべきかを区分することはFAの腕の見せ所なので、過去の経験を踏まえつつ、適切に論点を整理していくことが望まれます。
クラアントからは、類似した論点を過去事例でどのように扱ったかを確認されることも結構あるので、一般論として語れるように準備しておきたいところです。