連結会計実践編 / 株式譲渡の会計処理2 〜子会社株式の追加取得で「のれん」は発生する?〜

M&A講座
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今回も連結会計実践編として、株式譲渡の会計処理の続きを考えていきたいと思います。今回は、子会社株式の追加取得について見てきます(下記の水色ハイライトのケース)。

  1. 0% → 60%(子会社化)
  2. 60% → 80%(子会社化後にさらに追加取得)
  3. 0% → 10% → 60%(段階的に取得して子会社化)
  4. 0% → 30%(持分法適用)
  5. 0% → 30% → 60%(持分法適用後に追加取得して子会社化)

II.子会社化後に追加取得するケース(60% → 80%)

「60% → 80%(子会社株式の追加取得)」というケースは、既に連結子会社となっている会社の株式を追加取得するケースです。

M&A案件でも、非上場子会社の株式を追加取得したり、上場子会社へ公開買付けを実施して完全子会社化を目指す案件等がこのケースになります。

1.数値例の前提条件

【前提:P社はS社株式をU社から取得】

  • X1年末にP社はS社株式の60%をU社から取得(S社を子会社化)
  • X1年末のS社の株式価値総額(100%ベース)は1,000
  • X2年末にP社はU社から20%のS社株式を買い増して計80%保有
  • X2年末のS社の株式価値総額(100%ベース)は1,200
  • 取得対価はいずれも現金
  • のれんは20年償却
  • 税率は40%
X1年末のP社のBS(S社を除く連結:S社株式は取得済)
諸資産  18,000 資本金 12,000
(うちS社株式600) 利益剰余金 6,000

 

X2年末のP社のBS(S社を除く連結:S社株式は取得済)
諸資産  19,000 資本金 12,000
(うちS社株式840) 利益剰余金 7,000
(S社株式は第1回取得600、第2回取得240)

 

X1年末のS社のBS(単体)
諸資産 800 資本金 500
利益剰余金 300
※S社諸資産の含み益50

 

X2年末のS社のBS(単体)
諸資産  900 資本金 500
利益剰余金 400(うち、当期純利益100)
※S社諸資産の含み益100

2.X1年末の会計処理

◎X1年末の前提は、前回の記事の時価評価ありのパターンと同じです(考え方の詳細は前回の記事をご確認ください)。

連結会計実践編 / 株式譲渡の会計処理1 〜時価評価に気をつけよう〜
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前回の記事より、X1年末のP社連結BSを抜粋して、改めて示すと次のようになります。

【P社の連結BS:X1年末】
諸資産 18,250 繰延税金負債 20
のれん   102 資本金 12,000
利益剰余金 6,000
非支配株主持分 332

この連結BSをベースにX2年末の会計処理を考えていきます。

3.X2年末の単体の会計処理

まず、単体はシンプルです。

  【P社単体の会計処理(追加取得:X2年末):S社株式の買い増し】
S社株式 240(※1) 諸資産(現金) 240
(※1) S社株式価値総額1200 x 20%

(なお、この処理はP社のX2年末のBSには既に反映済です)

4.X2年末の連結の会計処理(開始仕訳とPLの処理)

まず、X2年末の単純合算BSは以下のとおりとなります。これをベースに連結消去仕訳を考えていくことになります。

【P社グループの単純合算BS】
諸資産 19,900 資本金 12,500
(うち、S社株式840) 利益剰余金 7,400

(1)開始仕訳の必要性

何度も繰り返しで恐縮ですが、連結の処理の基本は合算と消去です。

このうち、合算については、親会社と子会社の当期のBSとPLを単純に足してあげれば良いので特段難しい部分はありません。

一方の消去については、X1年末にP社が作成した「投資と資本の消去」の仕訳を含めてX2年の連結処理として改めて織り込む必要があります。イメージとしては、

  • 合算:当期の単体BSとPSを単純に合算
  • 消去:子会社のはじめての連結への取り込み以降の消去仕訳を累積させて反映

という感じです。

従って、X1年末に作成したS社の時価評価と投資と資本の消去仕訳をもう一度織り込むことになります。

なお、過年度の連結仕訳の累積されたものを「開始仕訳」と呼びます。

具体的に開始仕訳は、過年度に作成した、

  • 投資と資本の消去
  • 子会社の当期純利益の非支配株主への振り替え
  • のれんの償却
  • 子会社株式の追加取得や一部売却

といった種類の仕訳を累積したものになります。

  【P社連結の会計処理1(X2年末):S社の資産負債の時価評価】
諸資産 50 繰延税金負債 20
評価差額 30
※S社の資産負債の時価評価も毎期仕訳を繰り返す必要があります(資産負債の評価単価は支配権獲得時のものを継続使用)が、これはあくまでの単体の補正であり連結仕訳ではないため「開始仕訳」とはいわないようです(開始仕訳は投資と資本の連結仕訳を指します)。

 

  【P社連結の会計処理2(X2年末):開始仕訳】
資本金 500 S社株式 600
利益剰余金 300 非支配株主持分 332
評価差額 30
のれん 102

(2)連結PLの処理(S社純利益の按分)

P社はX2年の1年間、S社株式の60%を保有していましたので、その期間の純利益を正しくP社の連結PLに織り込む必要があります。

連結上は、合算でS社の純利益の全額を一旦取り込んでしまっているので、その一部を非支配株主に按分してあげる仕訳をつくります。

  【P社連結の会計処理3(X2年末):S社純利益の按分】
非支配株主に帰属する当期純利益 40 非支配株主持分 40

(3)連結PLの処理(のれん償却)

実は、もう1つPL処理項目があります。

P社がS社を取り込んだ際に、のれんが発生しました。

日本の会計基準ではのれんは償却することになっていますので、本数値例では20年で償却という前提を置いています。

仕訳は次のようになります。

  【P社連結の会計処理4(X2年末):のれんの償却】
のれん償却費(PL項目) 5 のれん 5

5.X2年末の連結の会計処理(S社株式の追加取得の処理)

ここまでの前さばきをして、ようやくS社株式の追加取得の処理に進めます。

S社株式の追加取得については、

  • 時価評価するのか
  • のれんは発生するのか

といったあたりが論点になるかと思います。

(1)全面時価評価法であるということ

まず、時価評価について考えます。

結論からいえば、このケースではX2年末の追加取得時に再度の時価評価はしません。

その理由は、現行の会計制度は全面時価評価法を採っており、支配権獲得時に非支配株主持分相当も含めて時価評価しています(非支配株主持分にも含み損益が考慮されているともいえます)。

非支配株主に含み損益を享受(負担)させているので、その後に追加取得した時には、非支配株主側で考慮した含み損益を親会社に移転させることになります。

(2)追加取得に関する「あるべき連結の会計処理」を考える

連結仕訳を考えるポイントは、単体の会計処理を「あるべき連結の会計処理」に修正するということです。

単体は単純に子会社株式を増やしただけでしたが、連結上は非支配株主から譲渡対象の持分割合(非支配株主の簿価に譲渡割合を乗じたもの)を取得したと考えます。

金額を入れずに仕訳イメージを示すと、

(連結のあるべき仕訳イメージ)
非支配株主持分 XXX 諸資産(現金) XXX

となります。借方に非支配株主持分があるということは非支配株主持分の減少を示しており、貸方の諸資産(現金)は現金の減少を示しています。

この連結のあるべき仕訳を今回の説例で考えてみると以下のようになります。

  【P社連結の会計処理(追加取得:X2年末):連結のあるべき仕訳】
非支配株主持分 186(※1) 現金 240
資本剰余金 54(※2)
(※1) X2年末S社資本勘定(900 + 時価評価含み益30)x 20%
(※2) 差額(※1) については別の検算方法があります。非支配株主持分を積み上げ計算してその残高を計算し、そこから譲渡割合を算出するという方法です。
具体的には、(開始仕訳332+純利益按分40)÷ 譲渡割合(20%÷40%)=186 という計算になります。

ここで差額が発生しますが、勘定科目が「のれん」ではなく「資本剰余金」となっています。

2013年9月の連結会計基準の改正により、支配権獲得後(子会社化した後)の株式追加取得では「のれん」が発生せずに、差額を「資本剰余金」として処理することとなっています。

(3)追加取得に係る正しい連結修正仕訳

連結修正仕訳は、連結のあるべき仕訳がなされたとなるように、P社の単体の会計処理を逆にして、この仕訳に足し込むことになります。

すなわち、「(1)P社単体の会計処理」で見た仕訳の貸借を逆にして、連結のあるべき仕訳に足し込むわけです。両辺で諸資産(現金)が消え、次のような消去仕訳となります。

  【P社連結の会計処理5(X2年末):追加取得に係る連結修正仕訳】
非支配株主持分 186 S社株式 240
資本剰余金 54

6.X2年末のP社連結BS

以上より、P社のX2年末の単純合算BSに「P社連結の会計処理1〜5」を反映させれば、正しいP社の連結BSが完成します。

【P社の連結BS:X2年末】
諸資産 19,110 繰延税金負債 20
のれん 97 資本金 12,000
資本剰余金 ▲54
利益剰余金 7,055
非支配株主持分 186
(※1)資本剰余金のマイナスは利益剰余金と本来はネッティングすべきだが、今回は便宜上マイナス残高で表記

さいごに

以前は、子会社株式の追加取得時にも「のれん」が発生していましたが、2013年9月の連結会計基準の改正により、子会社株式の追加取得時の差額は資本剰余金で調整となりました。

古い本等を読むと、ここの処理を誤って覚えてしまうため留意しておいていただければと思います。

(次回に続きます)

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