前回に引き続き、株式交換入門の第2回です。
文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です。
株式交換の対価の種類
現金を対価とする株式交換もある
◎今までのお話で株式交換比率や公表後の株価推移の傾向はわかったんですけど、そもそも論に戻って良いですか?
◆◆どうぞ。
◎株式交換って、最初のお話にあったとおり、対価を株式にできるって言うのが特徴なんですよね?
◆◆まあ、そうだね。
◎だけど、先ほど少し触れたように、株式交換の対価の種類は株式に限定されているわけでもないと。
◆◆うん。会社法の対価の柔軟化のおかげで、株式交換と言っても現金を対価にして子会社の株主から株式を吸い上げることも可能なんだ。
◎そうなると、現金と株式の交換であり、純粋な「株式交換」とは呼べないと思うんですが。
◆◆だからこそ、「現金株式交換」とか「現金対価の株式交換」とか呼ばれたりするんだ。
◎現金を対価にすると言うことは、一般的な現金対価の株式譲渡によりいっそう近づくと思えるのですけど、現金株式交換と現金対価の株式譲渡の違いは何なのでしょうか?
◆◆先ほども触れたけど、株式交換は株主が多数存在しても、対象会社の特別決議によって強制的にすべての株主を対象として、その株主が保有する対象会社株式と親会社が交付する対価との交換ができるんだ。
◎やはり、株主が多数いる場合にも機動的に完全子会社化が達成できるというのが株式交換のメリットということですね。
◆◆そうだね。
その他のスクイーズアウトの手法との比較
◎さらに素朴な疑問ですけど、TOBの後に現金を対価にしてスクイーズアウトをする場合には株式等売渡請求、株式併合又は全部取得条項付種類株式が使われるケースが多いと思うのですが。
せっかく株式交換が現金対価とできるのにあまり使われないのはなぜですか?
◆◆それは実は税制のゆがみが原因なんだ。2017年の税制改正前までは株式交換だけ組織再編税制の枠内で、君の言う3手法は組織再編税制の枠外だったんだ。そうなると現金対価の株式交換だけが非適格となって、対象会社の一部の資産の時価評価とかが必要になり使いにくかったんだよ。
◎同じ経済実態を生む手法のはずなのに、税制が違っていたんですね。
◆◆そう。それで、それは税務当局としてもおかしいだろうと思っていたらしく、2017年度の税制改正で、株式等売渡請求、株式併合、種類株の3つも「株式交換『等』」として組織再編税制の枠内に組み入れられてしまったわけ。
◎そうだったんですか!
◆◆そんなわけで、この改正法が施行される今年の10月1日以降は現金対価の株式交換も使われるようになるのではないかと推察しているんだけどね。
◎どうなるか楽しみですね。
株式交換に反対する株主と債権者の保護
株式交換に反対する株主を保護するためには?
◎最後にもう一つ気になるのですが、株式交換が対象会社の株主総会の特別決議(2/3超の賛成)によって強制力を持つということは、それに反対する株主も強制的に株式を取られてしまうということですよね?
◆◆そうなるね。
◎株式交換に反対する株主としては、希望もしてない別の会社(親会社)の株式を割り当てられてしまうなんて困る制度のような気がするのですが。
◆◆そのために株式交換には、それに反対する株主には自分が持っている株式を発行会社が公正な価格で買い取るように請求する権利があるんだ。
◎それが「反対株主の株式買取請求権」ですね。
◆◆そのとおり。株式交換が全株主同意を要件としていない以上は、それに反対する株主を保護してあげる必要があるよね、というのが会社法の精神なんだ。買取請求するための細かい手続・要件はあるものの、おおまかに言えば一般株主を保護しようとする趣旨なんだよね。
株式交換に反対する債権者を保護するためには?
◎株主については株式の買取請求権があることは理解できたのですが、債権者は保護されないんですか?合併なら債権者保護手続がありますよね。
◆◆株式交換は、対価が株式のみ又はこれに準ずるものである場合には債権者保護手続は不要なんだ。
◎どうしてですか?
◆◆債権者が気にするのは会社財産の不当な流出だよね。
◎ええ。
◆◆完全親会社が新株を発行するだけであれば債権者はなんら害されていないよね。
◎たしかに、増資のときには債権者保護手続は不要でしたね。減資なら必要ですけど。
◆◆しかしながら、たとえば現金が交付される株式交換の場合は親会社の財産が流出しているよね?
◎なるほど。
◆◆この論点は一つ気をつけるべきところがあって、株式と現金をセットで交付する場合、現金の割合が総額の5%未満なら債権者保護続は不要なんだ。
◎現金の割合が小さければいいんですか?
◆◆対価が株式「又はこれに準ずるもの」と言ったのは、そのことなんだ(会社法799条第1項第3号、会社法施行規則198条)。
◎知りませんでした。
◆◆さらに、債権者保護手続は親会社が新株予約権付社債を引き継ぐ場合も必要とされているから、まとめてみると、
- 対価が株式及びこれに準ずるもの(総額の5%未満の現金)のみ以外の場合(全額現金交付など)
- 新株予約権付き社債を引き継ぐとき
のケースのみ債権者保護手続が必要と規定されているんだ。
(次回に続きます)
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