前回から、M&Aのタイプを3つに分けて考えております。
再掲ですが、タイプというのは、事業会社のようなストラテジックバイヤーがM&Aに取り組む目的のことで、
- 水平型M&A(スケールメリットの享受)
- 垂直型M&A(バリューチェーンの強化・統合)
- 新規型M&A(既存ビジネスから離れた新規分野への進出)
の3つに分かれると想定しております。
- そもそもどんな目的でM&Aを実施するのか(どのようなシナジー効果を期待するのか)
- Financila Advisorとして留意すべき点
といった視点で検討しておりますが、今回と次回で後半の「FAとして留意すべき点」を見ていきましょう。
FAとして留意すべき点は
M&A全般においてFAとして留意すべき観点は、大まかにいうと、
- プロセスコントロール(案件組成や交渉含む)
- M&Aスキーム(ストラクチャー)
- Valuation
の3つに分けるのが一案ですので、これらの観点で検討してみようと思います。
1.水平型M&A
1.プロセスコントロール
案件組成
まず、案件組成という観点では、水平型M&Aは業界再編を伴うものだったりするので、FAが主導というよりは、事業会社自身が主体的に動いて組成されるというケースが多いかもしれません。そのような場合、Bidというよりは相手先は決まっている経営統合的な案件になりますので、FAとしては経営統合が破談にならない限りは手数料を頂けることが保証されるという意味で安心して取り組める案件にはなります。
一方で、業界再編でも負け組的な位置づけの会社の身売りのような案件では、FAが主導的に動くということも相応にあったりするようです。また、比較的小規模な会社の売り案件ではやはり入札形式になることも多いように感じます。
案件中の取り組みについて
特に大規模な上場会社同士の経営統合的な案件の場合、プロセスのひとつひとつの進め方につき「落とし穴」があったりして、それにハマらないように留意しながらプロセスを進めることになります。
そういう意味では、FAとしてはプロセスをコントロールしたいと思うものの、どちらかというと「振り回される」ことが多いでしょう。なので、あらゆる事象を想定しつつも、起こった事象に臨機応変に対応することが上手いFAでないと苦労するかもしれません。
なお、同業であるがゆえに、いわゆる「ガンジャンピング規制(独禁法クリアランス前に営業上の重要な機密情報を交換すること)」への対応も真剣に検討すべきであり、案件初期段階で弁護士の助言を得る必要があります。
交渉
水平型M&Aの場合、交渉といっても「知っているもの同士」での交渉になるため、お互いFAを上手く使って、交渉の前さばきをさせるケースがあります。
一方で、知っているもの同士なのだから、お互い過去事例も鑑みるとこの程度の統合比率になるよねということで、ある意味で綺麗にまとまるケースもあります。
また、支配株主との取引等に該当する場合には、第三者委員会の組成が必要になったりして、登場人物が増えて、それらの調整にも翻弄されるため、経営統合案件に不慣れなFAではプロセスを捌ききれないように感じます。
(参考記事)
入札案件であれば、それなりの激しい交渉がなされますし、情報戦を繰り広げる入札者もいたりするので売手のFAとしては色々と苦労するケースもあったりします。
2.M&Aスキーム
経営統合であれば、株式移転か合併(強弱をはっきりさせても良ければ株式交換も)を検討することになります。以下の参考記事をご覧下さい。
(参考記事)
3.Valuation
経営統合案件の場合
上場会社の経営統合案件では、Valuationの結果が一定程度開示されますし、それが支配株主との取引等に該当すれば、子会社側のFAの算定結果はより詳細な開示が必要となります。
どのような案件でもValuationの実施には細心の注意を払いますが、殊更に留意していく必要があります。
なお、Valuationの前提となる事業計画についても同業であるがゆえにクライアントの方が詳しいことが一般的であり、また統合比率算定の前提となる諸要素(主要指数や為替等)は事前にすりあわせておく必要があったりもします。
なので、FAとしてはValuationのケースを複数作成して色々と叩くという作業をするというよりは、事業計画自体の作り込みから関与することが多く、相手方FAとの協議も含めたValuationの事前準備に相応の時間を要することが多いでしょう。
入札案件の場合
入札案件の場合(それがTOBや経営統合に結びつく大型案件では別ですが)、Valuationの結果が第三者に公表されることは基本的にないので、その代わり色々なケースを想定したValutionシナリオをクライアントに提示して行くことになります。
水平型ではクライアントも同業界に属していることが多いため、相手先のある意味で「絵に描いた餅」のような事業計画については、その前提を確認し、甘い部分は厳しく叩くということもあります。
一方で、入札戦略としては厳しく叩きすぎると「勝てない」ので、Valuationのシナリオはたくさん存在するものの、買いたい場合には、やはり相応の高値で入札しないとならなくなります。
そのためには、スタンドアローンの事業計画は一旦叩くけれども、シナジー効果を勘案してある程度伸ばすという操作をすることもあります。
いずれにせよ、FAが独自にシナリオを作るというよりは、クライアントの指示に従いながら一緒に数値を練り上げていくということになるでしょう。
(次回に続きます)