公開買付け(TOB)や株式交換等の完全子会社化の案件においては、
- 支配株主との重要な取引等
に該当することがあるため、その対応が必要となることがあります。
今日は、そもそも支配株主とは何かということこと、支配株主との重要な取引等とは何かを見ていきたいと思います。
支配株主とは重要な取引等に関する規定
支配株主とは
支配株主とは、基本的には親会社のことだと思っておいていただければ実務上は特段差し支えありませんが、念のため関連規定を抜粋しておきます。
「支配株主」とは、次の①②のいずれかに該当する者をいいます。
①親会社(財務諸表等規則第8条第3項に規定する親会社をいいます。)
②主要株主(金融商品取引法第163条第1項に規定する主要株主をいいます。)で、当該主要株主が自己の計算において所有している議決権と、次に掲げる者が所有している議決権とを合わせて、上場会社の議決権の過半数を占めているもの(①を除きます。)
・当該主要株主の近親者(二親等内の親族をいいます。)
・当該主要株主及び当該主要株主の近親者が、議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等(会社、指定法人、組合その他これらに準ずる企業体(外国におけるこれらに相当するものを含みます。)をいいます。)及び当該会社等の子会社
支配株主との重要な取引等に関する規定
まず規定を確認
まず、支配株主との重要な取引等に関しては、東証の「上場規程441条の2と施行規則436条の3」に規定されています。
- 支配株主を有する上場会社が、「重要な取引等」を行う場合、その決定が当該上場会社の少数株主にとって不利益なものでないことに関し、当該支配株主との間に利害関係を有しない者による意見の入手を行うものとする
- 当該上場会社は、上記に関連した事項につき、必要かつ十分な適時開示を行うものとする
なお、支配株主との間に利害関係を有しないものとしては、
- 独立役員(社外取締役・社外監査役)
- 第三者委員会
が該当します。
これらの者からの意見が入手できない場合には、「弁護士からの意見書や第三者算定機関によるフェアネス・オピニオン」を取得することで代替が可能といわれています。
重要な取引等とは
支配株主との重要な取引等としては、以下のものをおさえておけば実務上は十分だと思います。
- 合併等の組織再編行為全て
- 事業譲渡
- 株式を端株化することによる少数株主のスクイーズアウト
- 第三者割当増資
- 自己株式の取得
- TOBの実施(自己株式TOB含む)
- TOBに関する意見表明
- 固定資産の譲渡又は取得
- 業務提携・解消
実務上の対応
M&Aで起用される大手の弁護士事務所では、通常は「意見書」を書かないと思われます。また、第三者算定機関がフェアネス・オピニオンを提出するのも稀なケースだと思います。
したがって、近年のTOBや完全子会社化案件では
- 第三者委員会を組成し意見を入手する
ということが一般的になっているように思います。
第三者委員会による検討期間は短くとも1ヶ月以上を要するため、案件のスケジューリングをする際には、この期間もしっかりと勘案しておく必要があります。
第三者委員会について
実際の実務において、第三者委員会をどのように組成し運営していくのかは案件の担当弁護士と相談かと思いますが、一般的な傾向をみてみます。
第三者委員のメンバー
第三者委員のメンバーとしては、
- 当事会社の独立役員
- 弁護士・公認会計士等の専門家
の中から適切に3名程度選ぶケースが多いと思います。
全員を外部の専門家とするケースもあるようですが、基本的には独立役員を1名程度含めているケースの方が多いようです。
これは、会社のビジネスに慣れているメンバーが入れることで検討がスムーズに進みやすいことからのようです。
第三者委員会への諮問事項
第三者委員会への諮問事項については、概ねのパターンがあり、
- 取引目的の合理性
- 取引条件の公正性
- 取引における少数株主の利益への十分な配慮
- 取引が少数株主にとって不利益でないか
といった内容を諮問するケースが多いようです。
第三者委員会としては、この諮問された事項を受けて、意見を述べるための活動をしていくことになります。
第三者委員会の活動
過去事例をみても、個人的な経験を踏まえても第三者委員会の活動としては、既に会社が入手している情報の分析が主な仕事になります。
まずは、会社が入手した株価算定書(ドラフト)の内容を検討します。その場合に直接FAに対して株価算定書の内容の説明を求めることもあります。
また、会社による相手方(支配株主)との交渉状況の報告を受けて、交渉の状況や条件が合理的か否かも判断していきます。
利益相反になっている取締役が交渉に参加していないこともしっかりと確認しますし、どのようなメンバーで交渉しているのかをチェックし、支配株主の言いなりになっていないかについては重点的に確認します。
なお、第三者委員として独自に交渉の前面に立ったり、独自に第三者算定機関を起用したり、独自に何らかのレポートを入手することは稀かと思います(基本的に受け身の姿勢ではあるものの、必要な情報は十分に提出させて、その説明はしっかりと受けるというスタンスだと思います)。
適時開示資料に記載される内容
第三者委員会に関連して適時開示資料に記載される内容は、
- 第三者委員会のメンバーが誰か
- 第三者委員会に諮問された内容
- 第三者委員会の開催に関する事項(組成のタイミング、開催回数)
- 第三者委員会の活動内容
- 第三者委員会としての意見の内容
となります。
取引所の指導によって、開催回数や活動内容を詳細に開示する流れになってきておりますので、直近の事例を見ると事細かに記載されているのが分かります。
さいごに
支配株主との重要な取引等の対応のために第三者委員会を組成するという方法が一般的になっておそらく5年以上は経過したでしょうか(この制度自体は2010年6月に施行)。
この制度がはじまった当初は、第三者委員会には誰を起用したら良いのかとか、そもそもどのような内容を諮問すれば良いのかにつき、暗中模索だったと思います。
その後、色々な事例が積み重ねられた結果、今ではある程度諮問内容についても一般化されてきているようです。