前回に引き続き、株式交換入門の第3回です。
文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です。
株式交換における税務:まずは完全子会社の株主から
◎株式交換の対価は完全親会社となる会社の株式でも現金でも良いよいことはわかりました。
次に気になっているのは、株式交換の対象とされる完全子会社側の株主の税務なんです。
◆◆なるほど。では次は税務について見ていこうか。
仮に単純な株式譲渡であれば
◎単純な株式譲渡で現金を対価とする場合は、税務上も株式譲渡損益が認識されますよね。たとえば、ある株主が保有簿価100の株式を120で売却できたならば、120-100=20の売却益が課税対象となるはずです。
◆◆そのとおりだね。このときの税金の支払いは売却で得たキャッシュを充てれば良いんだよね。
◎それはわかるんですけども。
株式対価の株式交換の場合は・・
◎気になるのは、株式交換で株式を対価としてもらった株主はどうなるのか?ってことなんです。
たとえば、先ほどと同じように保有簿価が100の株式を持っている株主が居るとして、他の会社と1:3で株式交換されることとなった場合、どうなるのでしょう?
◆◆それを考えるためには、完全親会社となる会社の株価の情報も必要だよね。仮に完全親会社となる会社の株価が40だとしようか。株式交換比率が1:3なのであれば、完全子会社となる会社の株主だった人は完全親会社の株式を3株もらえるよね。
◎そうすると、1株40 x 3株 = 120 ということで、この場合も120の価値のものをもらったということになるのですよね?
◆◆理論的にはそうなるね。
◎ここで、株式譲渡のケースのように、差額の20が課税対象となり納税義務が発生すると、この株主は現金をまったくもらっていないのに、納税=キャッシュアウトしてしまいますね。
◆◆場合によっては手許現金がなくて、キャッシュが必要だからということで、せっかくもらった親会社となる会社の株式を、今後の値上がり期待を捨てて泣く泣く市場で売却(処分)することになるのは不合理だね。
◎なんとかなりませんか?
◆◆それが、なんとかなっているんだよ。
◎そうなんですか!それは良かった。
◆◆税務の特例で株式交換のみならず、合併、株式移転そして会社分割でも同じなんだけど、そういう組織再編行為の対価として完全親会社(存続会社、新設持株会社、分割承継会社)の株式のみを対価として交付された株主は、譲渡損益を認識しなくてよいこととなっているんだ。
◎それは、助かりますね。先ほどの例でいれば、120の価値を受け取ったとしてもキャッシュがないのに納税しろと言われても困りますからね。ちなみに、この制度が「税制適格」とかそういう話なのでしたっけ?税制適格再編だとメリットが享受できるとかいう話だったような。
対価が株式のみである限りは・・・
◆◆少し細かくなるけど、株主の税務は税制適格かどうかにかかわらず、対価が株式のみかという点で判断されるんだ(法人税法第61条の二)。
◎そうなると、非適格の株式交換でも株主は譲渡損益の認識をしなくても良いという状況があるんですね?
◆◆対価が株式のみであればね。
◎なるほど。株主の税務は税制適格と切り離して考える必要があるんですね。
◆◆そのとおりだよ。制度がこのようになっている理由は、たとえば上場会社が株式交換で完全子会社化されるとして、ある個人株主の税務がその株式交換が税制適格か否かによって変わるのは不合理だからなんだよね。
◎そもそも税制適格とはなんぞや?という人が多いですし、税制適格かどうかを個人株主として知る術もないということですね。
◆◆そういうこと。
対価の種類が株式か現金かということは必ずわかるわけで、それによって株主個人が自分の税務処理を判断できるようになっているんだ。
完全親会社の株主の税務
◎ところで、税務という観点では、当事会社それぞれの税務はどうなるのでしょうか?
◆◆株主の税務が整理できたら、次は当事会社の税務が気になるのはごもっともだね。でも、その前に完全親会社となる会社でもともと株主だった人の税務は考えなくて良いのかな?
◎あ、そうですね。直感的に完全親会社となる会社の株主だった人は株式交換の際には取引対象とならないはずなので、税務上は何も考慮する必要はないと思っていたのですが。
◆◆その理解で正しいね。完全親会社となる会社において従来から株主だった人は、自分の持っている株式が変わるわけじゃないからね。強いていえば、完全親会社となる会社への議決権比率が下がるというインパクトがあるものの、税務上は特段考慮する必要はないかな。
◎わかりました。それでは、当事会社それぞれの税務はどうでしょうか?
◆◆まず、税務を考える際には会計をスタートとして考えるのが良いのはわかるよね。
◎そうでしたね。税務の処理は会計処理をベースにしながら税務と合わないところだけ調整を加えるという考え方でしたよね。でも、税制適格っていう概念もあるように聞いていますのでそのあたりの関連性についても学びたいと思います。
(次回に続きます)
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