株式交換で子会社が保有する自己株式を消却するのはなぜか(5)

M&A講座
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これまで4回に分けて株式交換で子会社が保有する自己株式を消却する実務についてみてきました。

今回はおまけ的な記事として仮に子会社が自己株式を消却しなかった場合にどうなるかについてみていきたいと思います。

株式交換で子会社が保有する自己株式を消却しなかったら?

会社法の観点

まず、会社法の観点では子会社は親会社株式を原則として保有してはならず、仮に保有してしまった場合にも相当の期間に処分しなければなりません。(会社法135条2項五号、会社法施行規則23条二号、会社法135条3項)

実務上、相当の期間が何年なのかということについては、弁護士の先生も明言はなかなかしませんが、それなりに早めのタイミングで処分のめどはつけた方がいいと思います。

会計処理

次に会計処理の話ですが、株式交換において自己株式に親会社株式を割り当てられた際、連結グループ内の取引として、保有していた自己株式の簿価をそのまま親会社株式の取得価額としたくなるかもしれません。

しかしながら、実はこの会計処理はイメージとは異なり、時価にて洗い替えとなっております。

会計上は、株式交換によって子会社が保有する自己株式に親会社株式が割り当てられた場合は、子会社は親会社株式を時価で受け入れたとして会計処理するが必要あります。また、自己株式の帳簿価額と親会社株式の時価との差額はその他資本剰余金に加減算となります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針238-3項)。

税務処理

税務上は、適格再編か非適格再編かにかかわらず、対価が株式のみの場合には従前の簿価を引き継ぐことになります。

この点で、税務上の自己株式の簿価はゼロであるため、税務上の簿価0の親会社株式を保有してしまうことになるわけです(グループ外部に譲渡した場合、100%益金算入に)。

親会社株式を処分するためには

親会社株式を処分する場合、上述の税務の観点で連結グループ外部の会社に譲渡するということは現実的ではなく、おそらくは、

  • 親会社へ譲渡
  • 親会社へ現物配当

の2つの選択肢になろうかと思います。

現物配当の会計・税務処理について以前詳細にまとめたので下記の記事もあわせてご覧下さい。

現物配当の解説 会計処理・税務処理の基本から応用まで(仕訳も例示)
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さいごに

M&Aアドバイザリーの仕事を生業としているFAにとっては、株式交換で事前に子会社が保有する自己株式を消却するのは当たり前のことかもしれませんが、当事会社の皆様、とくに完全子会社となる会社にとっては単に消却してしまうことに抵抗感がある場合もあります。

理解の正確さはさておき、現金を対価にして自己株式を買ったのだから、それを消却するのは資金を捨ててるのと同義というイメージをお持ちの方も、しばしばいらっしゃいます。・・・法的にもファイナンス理論的にも自己株式は資産ではないのですが、現金を対価にモノを買ったのと同じような印象を持たれるようです・・・

そのような際に、過去事例の紹介のみならず、仮に消却しなかったらどうなるかを会社法・会計・税務の観点を含めて説明できるように、この辺りの論点もしっかりとおさえておきたいところです。

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