これまで7回に分けてM&Aアドバイザリー(FA業務)の面接において、よく聞かれる質問の意図と回答方針の立て方について検討してきました。
質問はこれ以外にもいろいろとあり、面接官次第で聞きたい内容も異なるでしょうから、いざ自分が面接を受けるときにはその場で臨機応変に回答を組み立てていく必要があります。
そのため、具体的な質問を想定した対策からもう一つ次元を上げた観点から面接という場を検討して、面接全般に通じる心構えといいますか、回答を組み立てるための軸は何なのかを考えてみようと思います。
面接に臨むときの軸を持っておこう
面接に望むときの基本的な方針、言い換えれば軸となる考え方を主に3つ挙げてみると次のものになるでしょうか。
- 嘘は言わない
- 否定をしない
- 自分で枠組みを設定しロジカルに回答する
それぞれを詳しく見ていきましょう。
1.嘘は言わない
回答をちょっと盛る
今こうやって冷静に記事を読んでいるときには嘘をつかないなんて当たり前だよねと感じでいらっしゃると思いますが、いざ面接の場になると「ちょっと盛った回答」をしてしまう人は少なくないと思います。
回答をちょっと盛る程度であればバレないかもしれませんが、一度嘘をつき始めると、それがクセになってしまうという悪い傾向があります。
嘘をつく心理というのは、自分に関して
「現実の自分ではなくて理想の自分として説明してしまう」
ということになろうかと思います。
なので、現実と理想のギャップが大きいほど、面接での回答で嘘の占める割合が多くなることになります。そうなると、面接官が具体的な話を促しても、なんとなく上辺な感じしか説明できなかったりしますので、そこを重点的に突っ込まれることになろうかと思います。
なお、FA業務における面接官は、日々喧々諤々の交渉をしている人たちなので、少しでも矛盾点があれば容赦なく突っ込みを入れてきますし、なんとなくその話は怪しいなと思った場合には、敢えて一旦その話から離れて安心させた後に、別のタイミングで怒濤のごとく関連した質問をしてメッキを剥がそうとしてくるはずですので、だまし通そうとするならば断固たる決意が必要になるでしょう。
FA業務が嘘を是としない理由
基本的に、FA業務を生業とする面接官たちは嘘を許さないと思います。
それはなぜかというと、FA業務それ自体が積み重なる信頼関係がベースとなる仕事だからです。
すなわち、
- ジュニアが様々な作業を正しく行って状況を正確にシニアバンカーに報告する
- シニアバンカーはジュニアからの報告を根拠として状況を判断し、クライアントへの助言方針を決める
- クライアントはシニアバンカーの助言内容を信頼してM&Aに関する意思決定をする
という流れが根底にありますので、このどこかで嘘が混ざってしまえばクライアントの意思決定が歪んでしまうことになります。
仮に、シニアバンカーとして「このジュニアは信じられない」となれば、そのジュニアを外して別のジュニアを充てるか自らが全てをチェックをするかのどちらかをしなければ安心してクライアントへの報告方針が立てられません。
そうならないように、それぞれが「この人間は信用できる」ということ、すなわち信頼関係をベースに仕事をしたいと思うわけです。
なお、もちろんジュニアワークを出発点として各人の作業内容は何重にも亘るチェックを経てクライアントへ報告されるため、意図せざるミスが入っていれば、どこかで気付いて軌道修正がなされます。
(個人的には特に若い人がミスをしてしまうのは、自分も昔はそうだったのでしょうがないと思っています。同じミスを繰り返さなければOKであり、そのミスを発見するのが上司の仕事の一部だとも思いますからそれは許容します。一方で、わからないことを調べもせずに適当に嘘で報告するようなことがあれば容赦はしません。)
嘘で内定が取れても入った後で苦労するかも
経験やスキルを盛って内定を得たとして、それで上手くいくのでしょうか。
基本的にFA業務の場合、面接官が入社後の先輩・上司になることが多いので、
「君、面接において、これができるって言ってたよね、じゃあよろしく」
と言われることになります。
その際に、「実は不慣れです」とか「ほとんど未経験です」とかを自白したり、着手はしたものの上長の求めるレベルに全く達していなかったりすると、
「この人物は、面接で盛ったな!」
となってしまい、入社後の立場が危うくなるでしょう。
なので、結局嘘は自分の首を絞めるだけですので、経験を盛ることも含めて嘘を混ぜないに限ります。
自然体の自分で正々堂々と面接を受けてみて、足りないところがあったとしても、ポテンシャルがあるなと思われれば採用されますから、とにかく現実の自分をベースに、ただし説明は魅力的にするということを心掛ければ良いのかなと思います。
2.何事も否定しない
現職を無意識に否定する人が案外多いけれども
何事も否定しないというのは、要は現職が嫌だから転職活動をしている人にありがちなのですが、
「今の仕事は、こんなところが自分に合わなくて・・・」
ということを、志望動機の一部としてしまうのはやめましょうということです。
ここまで単純に現職を否定することはあまりないと思いますが、志望動機がなんとくなく逃避的だとか、現職の人間関係について否定的だとかという態度が回答の端々に見えてくると、面接官としては、
(この人物は、仮にFAの仕事に就けたとしても、それが合わなければ早速に否定をしてまた転職活動をするんじゃないだろうか)
と勘ぐってしまうわけです。
そもそも、否定的な話を聞くのは気分の良いものではありませんので、面接官としても「そんなネガティブな話を聞きたいわけじゃないんだよね」とマイナス評価をしてしまうかもしれません。
同業他社を否定
中途採用の場合には特に留意しておいた方が良いのですが、FA業務を行っている同業他社を並行して複数社受けている場合に、面接官から、
「●●証券と比べてなぜうちなの?」
とか
「なぜ日系なの?なぜ外資なの?」
という感じで、同業他社との比較感からの志望動機を聞かれることがあります。
その際に、無意識的にであっても、「他社の●●という部分が自分には合わなくて・・・」というニュアンスの説明をすると、面接官としては
(この人物は他社ではウチについて否定しているんじゃないだろうか)
との懸念を持つと思います。
否定は百害あって一利なし
ということで、何かを否定するのは百害あって一利なしなので、何を説明するにしても、
「現職はそれはそれで重要な仕事ですし、やりがいもありますが・・・」
とか
「他社さんもそれぞれ特徴がありますが、私は御社の特に●●というところに・・・」
という感じで、それぞれのポジティブな側面を強調して理由を組み立てていくことが望ましいと思います。
3.自分で枠組みを設定し、ロジカルに回答する
採用面接はOpen Questionだから
面接での質問は、基本的にOpen Questionなので、簡単にYesかNoかで答えられる類いのものではありません。
以前別の記事で、Open Questionに対してどのように回答方針を立てるべきかを記事にしましたのであわせてご一読下さい。
(参考記事)
参考記事でも説明しておりますが、Open Questionでは
- 質問の再定義
- 回答の枠組みの設定
が要となります。
面接で何を聞かれても、
「では、まずは●●という側面から回答したいと思います。」
とか、
「そのご質問については、●●とXXとの2つの側面があると思いますので、それぞれについて回答したいと思います。」
といった感じで自ら率先して回答の枠組みを提示するのが良いと思います。
ロジカルに説明する
回答の枠組みを設定した後は、それをロジカルに組み立てて説明していくことになります。
適切な枠組みが設定されていれば、あとはその流れに沿って、
- 主張とその理由
をパッケージ化して説明していけば十分に説得性を保てるのではと思います。
さいごに
面接において、回答そのものを事前に暗記していきその場でそれを吐き出すような応対は望ましくありません。
面接官は一方通行の説明を聞きたいわけではなくて、コミュニケーションをとってその人物を見極めたいわけです。
この観点でも、面接の心構えを軸に置き、何を聞かれようともその場で枠組みとロジックを組み立てて説明できればそれがベターなのだろうなと思います。
そして、FA業務がまさにクライアント等との協議においては毎度その場で即席にロジカルな回答を組み立てていく作業なので、そのような対応が得意な人と一緒に働きたいなと思う次第です。
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