M&Aアドバイザリー(FA業務)の面接対策(4) 〜最近気になったM&Aの案件は何?〜

M&Aとキャリア
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引き続き、M&Aアドバイザリー(FA業務)の面接対策として、よく聞かれる質問の意図と回答方針の立て方について検討しております。

今回は第4回目の記事として、

「最近気になったM&Aの案件は何?」

という質問について考えてみたいと思います。

M&Aへの興味は口先だけではないか?

志望動機については相応の時間準備すれば、それなりのものができると思います。

特に、転職エージェントやFAの仕事をしている知人に手伝ってもらえば、どこに出しても遜色のない志望動機のストーリーを組み立てることは不可能ではありません。

しっかりと働いてくれるひとを採用したい

面接官としては、応募者が心の底から自分で考えてM&Aをやりたいと思っているのか、単に興味本位で流行のM&Aアドバイザリーの仕事をやりたいと思っているのかを峻別したいと考えます。

それはなぜかといいますと、いざ採用してみたあとに、

「こんな仕事だとは思っていませんでした。やっぱりイメージと違うから辞めます」

みたいなことが起きないようにするためです。

そのため、色々な角度から質問をして、応募者の本当のところを掴もうと尽力するわけですが、そのひとつの方法として、時事問題を問うという方法があります。

最近気になった案件がなぜ気になるのかを重点的に問う

最近気になったM&A案件が何なのかとその理由を詰めていくことで、その応募者のM&Aに関する知識と興味度合いがはかれると思います。

たとえば、「応募者がA社によるB社の買収が気になりました」と答えたとして、面接官はすかさず、「どんな点が気になったのか?」と応答し、その答えを待つことになります。

主に、

  • ビジネス面
  • スキーム
  • 買収金額

のどれかが気になったというストーリーになろうかと思いますので、それぞれを少し深掘りしてみましょう。

ビジネス面

たとえば学生と話をすると、

「A社によるB社の買収が気になりましたね。なんか大きな会社同士のM&Aということで、関係者も多く、ビジネス的なインパクトもあったと思いますし、新聞の一面にも載っていましたから。」

という趣旨の説明を受けることがあります。

正直に言うと、これでは面接官の印象はよろしくないと思います。面接官は今年一番記憶に残ったニュースランキングを問いたいわけではなく、もっとM&Aアドバイザリー的な視点で何か言って欲しいからです。

気になったM&A案件が、

  • 水平型(スケールメリットの享受)
  • 垂直型(バリューチェーンの統合)
  • 新規型(既存ビジネスから離れたM&A)

のいずれかなのかを切り口にしてビジネス的なインパクトを考察すれば、ある程度は良い印象になると思います。

(参考記事)

M&Aのタイプを3つに分けてみよう(前編) 〜水平型・垂直型・新規型〜
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スキーム

次に、スキームについて気になった点を述べることができると面接官に強く印象づけることができると思います。ただし、それが間違った知識に基づくものだと、全然理解していないなということで、面接官の印象が悪くなるので、正しく理解しておくことが必要です。

たとえば、会社法改正以降に完全子会社化の案件でスクイーズアウトの手法で株式併合が流行りだした際に、

「種類株式を使わないスクイーズアウトの手法として株式併合が使われるようになるのには驚いた。おそらくは全部取得条項を付したり別の種類株式の発行手続をしなくても端的に株主を端株化できるからこの手法が今後流行るのではと思いました」

という回答をしてくれる応募者がいたならば、結構わかっているんだなという印象を持つでしょう。

他にも、諸外国を含めての独禁法対応のために公開買付けを実施する旨を公表し、実際の買付け開始はクリアランス後としていた案件を挙げて、

「TOB価格の高騰を防ぎつつ独禁法対応を進めるための折衷案なんだと理解したが、このようなプロセスが必要なことは知らなかったので勉強になった」

という言い方で気になった案件を述べてくれると、それはそれで良い印象です。

買収金額

M&A案件によっては、株式取得の案件でも買収金額と対象会社の財務の状況がわかる場合があります。

そのような場合には、対象会社の純利益やEBITDAの何倍で買収したのかが分かったりします。なので、そのような案件を取り上げて、

「あの案件は、EBITDAの10倍を超える買収案件だったようですが、EBITDAの7倍程度の上場会社が多い中で10倍も値付けしてしまったのは高値づかみではないのかという点で気になりました。」

と説明してくれるならば、簡単なValuationの考え方は身に付いているんだなということで良い印象になるでしょう。

※ただし、急成長中の企業ですと直近実績でEBITDA倍率が10倍でも、予測値でみれば1桁のEBITDA倍率に落ち込むという可能性もあるため、必ずしも高値づかみではないこともあります。予測値の情報は開示されないことが多いのですが、その辺りにも触れられるといいでしょう。

また、高値づかみに関連して、

「最近のれんの減損で特別損失が発生して経常利益では黒字なのに最終利益が赤字になってしまうケースがあるように思えていて、それらはM&Aの失敗だと思う」

というコメントをするのもありだと思います。

他にも、TOB案件なんかでは、対象会社の事業計画を適時開示資料に記載するケースがあります。これを用いて自前で簡易DCF法なり簡易類似会社比較法をやってみて、それと当事者が起用した算定者の評価とを比較したりして考察してみたということを説明しても面白いと思います。

情報ソースは?

面接の応募者がいろいろな切り口で、気になった案件の気になるゆえんを説明してくれるのは良いのですが、それらの情報の出所がどこであったのかという観点で面接官は質問すると思います。

その際に、

「日経新聞を読みました」

とだけ言われると、「この人は大丈夫だろうか?」と思われてしまうかもしれません。

世の中にどのようなM&A案件があるのかを知る取りかかりとして新聞を活用するのは構わないのですが、新聞の情報は間違っているかもしれませんし、紙面の都合上必要な情報が漏れているかもしれません。

なので、気になるM&A案件を見つけた場合には、必ず当事会社のホームページを見に行って、会社自身が開示している資料を確認するようにした方が良いと思います。

特に上場会社で適時開示基準に該当するような案件であれば、それなりに必要事項は開示されているので、それをベースに考察すれば十分な材料になると思います。

余談「良い切り口の分析だけど、あれ他社がFAだったんだよね」

ちなみに、これは半分余談ですが、M&Aの事例をあげる際にはなるべく応募先の会社がFAであった案件について述べるのがよいかもしれません。

上場会社同士の経営統合や完全子会社化、またはTOB案件等であればFAとしてどこを起用したのか記載されていると思いますので、それを見て応募先の会社がFAであったかどうかは確認しておくと良いでしょう。

事例について良い分析をしても面接官によっては、

「うーん、良い切り口の分析だけど、あれ他社がFAだったんだよね。当社がFAだった案件は気になったのはないの?」

とツッコミが入るかもしれませんので・・・。

さいごに

いずれにせよ、M&Aアドバイザリーの仕事をやろうと思っているのであれば、普段から世の中にどんなM&Aが公表されているのかをチェックし続けるとともに、その案件の適時開示資料を見て考察するということを習慣づけると良いと思います。

(次回の記事)

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