M&Aの買手候補にとって売手FAは邪魔という考え方もあるようですが

M&Aとキャリア
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世の中には多くのM&A案件が進行しており、それらの案件の中にはFAを起用しないで進む案件も相当数あると思います。

ところで、自分自身がFAとしてM&Aアドバイザリーの仕事をしていると、FAを起用しないM&A案件がどのように進むのか、正確なところはわからなかったりします。

といいますのも、当たり前ですが、

  • 自分たちが関与しないM&A案件=FAが起用されない案件 ⇒ 関与していないから実情はよくわからない

という図式が成り立つからです。

一方、FAを起用しないM&A案件でもDDは実施されるケースが大半ということで、弁護士や会計士の先生方はFAがいるケースといないケースの双方を担当されたことがある方もそれなりにいらっしゃるようです。

今日は、そんな専門家の先生方との雑談をベースに、M&A案件における売手FAの印象を探ってみようと思います。

売手のFAはM&A案件をとにかくコントロールしたがる

Q&Aの質問制限について

専門家の先生方は、着実にDDを進めるためにQ&Aシートで多くの質問を投げかけたいというインセンティブがあります。

FAが起用される入札案件の場合

入札案件で売手のFAが着いていると、

  • 買手候補ごとQ&Aの質問の上限はXX個です

と、一律にQ&Aの個数に制限をかけることがあります。

売手の立場からいえば、VDRの活用が一般的になってきて並行してDDを進める案件が増えていますが、Q&Aに回答するマンパワーという意味では、VDRであろうがフィジカルなデータルーム方式であろうが変わらないわけで、対応の現実性から買手候補ごとに制限を設けないと回らないという状況なわけです。

また、Q&Aの個数に制限を設けないと、不慣れな先生による実質的にナンセンスな質問まで飛んできてしまう可能性もあるので、効率性の観点でも個数制限は必要だと感じているところです。

先生方曰く、個数制限がある場合、案件への投資の是非を判断するための質問を優先するため、PMI目的の質問は後回しになりがちのようです。

FAからしてみれば、PMIの質問は買収が決まったら改めてやってほしいと思うところではありますが、先生方の本音的にはPMIの質問の一気に消化したいとのことです。

FAが起用されない相対案件の場合

一方、FAが起用されない、かつ相対案件の場合には、Q&Aプロセスひとつとっても専門家の先生方が満足するまでとことん質問ができるという環境もあり得るようです。

個人的にはそのような案件の場合、Q&Aに回答する売手担当者はいつ終わるともわからないQ&Aプロセスが延々と続くことへの相当のストレスがあるのではないかと心配してしまいます。

買手候補にとっては、売手のFAが居なくて好きなだけ質問ができる環境が望ましいのはわかりますが、売手にとっては買収をしてくれるかどうか未定の相手に何でもかんでも回答してしまうというのはかなりのリスクなので避けた方が望ましいと思うところです。

売手のFAが居れば、

  • これらの質問は買収判断のための質問とはいえないので、この段階では回答は差し控えましょう
  • あまりにも量的な重要性が低い質問が多いので、もっと重要な質問に絞って貰うように交渉しておきます

といったアドバイスをしつつ、買手候補と協議・交渉するわけですが、FAがいないと買手候補の言いなりになってしまうこともあるようです。

現地視察やインタビューセッションでのやりとり

M&A案件のDDプロセスでは、現地視察やインタビューセッションが実施されることが多いです。

この辺りのプロセスでもFAが起用されている場合には、進め方をコントロールしますので、買手候補側から見ると「やりにくいなあ」と感じることもあるようです。

たとえば、入札案件で売手のFAが着いていると、

  • 買手候補ごと現地視察とインタビューセッションはこの日程で、回数制限と人数制限もあります

と仕切るのが一般的です。これは、M&A案件の秘匿性を保ちながら進めるためには、このあたりにも制限をかけないと実務上は弊害があるからというのが一般的な理由です。

ただ、これらの制限が買手候補側からみると都合が悪いようです。

買手候補としては、「せっかく売手と買手が対面で交流する機会なので、もっとざっくばらんな雰囲気で色々とディスカッションしたいのに、FAがいるといちいち質問をさえぎったり補足コメントをしたりするので、堅い雰囲気になり売手と仲良くなれない」と感じることがあるようです。

この辺りはFAとしてもある程度は真摯に批判を受け止めるべき部分があるように感じます。

といいますのも、あまりにもコントロール色を強くしすぎると、堅い雰囲気だけで案件が進捗することになり、最終的に買手候補が買収に積極的になれないという状況に陥ることがあるからです。

(逆に、良い雰囲気で案件が進むと、DDで少しくらい検出事項があっても、価格や条件に織り込みつつシナジー期待で良い札を出してくれる買手候補もいます)

ということで、売手と買手候補が馴れ合いの関係になってはいけませんが、合理的な範囲内であれば売手と買手候補が良い雰囲気のもと案件を進めるのは当事者全員にとって良い傾向といえます。締めるところはしっかりと手綱を握るものの、堅くし過ぎないということにも留意しておきたいと思うところです。

トップ同士の大枠合意があるのにFAさんうるさいですよ

あとは、買手候補のFAや買手候補自身から時々言われるのが、

「トップ同士の大枠合意があるのに、FAさん色々とプロセスについてコントロールしようとするの若干うるさいですよ」

というコメントです。

相対案件なんかでは、開始当初に売手と買手候補のトップ同士で面談をして、

「ぜひ、前向きに案件に取り組みましょう」

という意見を交わすことがあります。

そして、買手候補のFAや担当者からこのトップ同士の実質合意を武器にして売手FAのコントロール色を弱めようという交渉がなされるわけです。

売手FAとしても基本的には案件が成立した方がハッピーなわけですから、敢えて案件を壊しに行くことはしませんが、そうはいっても法的には買収義務があるわけではない買手候補に対して何でもかんでも対応するということは売手の立場からはリスクなわけで、その辺りは上手くバランスを取るのが売手のFAとしての責務といえます。

なので、そのような案件では色々と相手方からチクりとされるわけですが、大人な対応で

「こちらも同じ方向で居るのは間違いないですが、売手としても公正にプロセスを進めなければならないという立場があるということをどうかご理解頂きたいところです」

とか言いつつ、危ないところは上手くかわしながら進めることになるわけです。

さいごに

売手FAだけの立場から言えば、成功報酬を頂くためには「とにかく案件を成約させれば良いのだ」というスタンスに立つという考え方もなくはないですが、普通のFAであれば、当然ながらクライアントの利益を最優先に行動するわけですので、買手候補の一般的ではない振る舞いについては、対応をお断りするという苦渋の判断もときには必要となるわけです。

売手と買手候補とではやはり立場が違うわけですので、それぞれがある程度相手のことを慮りつつ案件が進捗していけば平和な世の中なのになあと感じる日々です。

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