M&Aアドバイザリー業務(FA業務)とコンサルの比較

M&Aとキャリア
この記事は約9分で読めます。

時々、学生の方や第二新卒年次の若い中途採用希望者と話す機会があるのですが、そのような方々から聞かれるのは、

実はFA(M&A)と戦略系コンサルで迷ってるのですがどちらが良いでしょうか?

という趣旨の質問です。

一時期よりはやや下火になったのかもしれませんが、FAやコンサルは優秀な学生からはそれなりに花形の就職先という位置づけになっているようです。

個人的には、FAとコンサルでは実際の業務内容は結構異なると思いますが、働き方のスタンス・スタイルでは似ている面もあるように感じます。

なので、今回はFA業務とコンサルの仕事を独断と偏見で比べていこうと思います。

私はFAサイドの視点から比較しており、コンサルの方からはまた違った世界が見えていると思います。なので、今回の記事はFAサイドの人間によるひとつの見解として読んでいただければと思います。

FAとコンサルの類似点

プロジェクトものの仕事

人間関係

FAもコンサルも、プロジェクトで動きます。そのためプロジェクト期間中は一時的にある程度深い人間関係が築けることもありますが、プロジェクトが終われば、

「ありがとう、さようなら」

となります。

社内メンバーとの関係という観点でも、プロジェクトチーム外の人とは全く交流していないなんてことにもなり得ます。

(なので、いわゆる内勤で、部長がいて課長がいてその下に平社員がいて・・・、みんなでランチを食べに行くなんていう文化とは無縁になるでしょう)。

業務ナレッジのアップデート(勉強)が必須

M&Aでもコンサルでも、プロジェクトごとに必要とされる知識や経験は相当程度異なります。

担当業種があるとはいっても、それなりに広い業種をカバーするのが一般的であるため、特に若い時はプロジェクトごとに全くお初の業界に触れることになることが多いです。

したがって、常に勉強して色々なことをキャッチアップしていく必要があります。

ルーチンワークではない

プロジェクトものの仕事はルーチンワークの対極にあります。

毎回違う動き方をするため、同じような仕事を繰り返すのが嫌な人にとっては天職ですが、定期的に同じ仕事を繰り返しながらスキルを高めていくことが好きな人にとっては辛いかもしれません。

(ただし、ルーチンワークがないと言っても、仕事そのもののやり方は次に触れるように毎度似たようなものになるという側面もありますが)

プレゼン資料・レポートを作るのが仕事

一般的な傾向ですが、FAもコンサルもジュニア(若手)の段階ではエクセル・パワーポイントでプレゼンやレポートを作るのが主な仕事になります。

印象としては、若干コンサルの方がよりロジカルな資料を作るという傾向はありそうですが、いずれにせよ、資料と情報を集めてそれらをまとめるというのが主な仕事になるという点では似ています。

ゆえに、綺麗にパワーポイント資料をまとめたり、エクセルで複雑な財務モデルを動かしたりするだけのPCスキルが要求されます。

余談ですが、Valuationにフォーカスして考えてみると、

  • コンサル:事業計画そのものの策定を支援する(上工程)
  • FA:策定された事業計画を企業価値として評価する(下工程)

という認識です。FAもパラメーターをいじってお客様と一緒に事業計画とにらめっこすることはありますが、コンサルの方がより細かく事業計画そのものの策定サポートをしている印象です。その代わりに、コンサルはそのスコープに正式な価値算定まで入らないことの方が多いのではないでしょうか(推察です)。

長時間労働

こちらも一般的な傾向ですが、FAもコンサルも長時間労働になりやすい仕事だと思います。

いずれもプロジェクトものであり、案件の佳境では徹夜も辞さない覚悟が必要になるというところです。

とはいえ、プロジェクトが終われば、休みがとれて少しはリラックスできるということもある会社の方が多いと思いますので、上手くメリハリをつけて仕事をすれば乗り切れるでしょう。

FAとコンサルの相違点

クライアント以外の利害対立のある明確な取引相手(第三者)の存在

FAとコンサルは、実際に業務に携わっている身からすれば結構違うように感じますが、一番大きな相違点は、

クライアント以外に利害対立のある明確な第三者(取引・交渉相手)が登場するか否か

だと思っています。

FAには仮想敵ではなく生身の交渉相手が存在する

コンサルでも業界分析や経営戦略の立案等のサポートで業界内の仮想敵の動きを想定してその打ち手を考えたりしますが、あくまでも想定の話であり、プロジェクト期間中にその仮想敵と喧々諤々と交渉をするわけではないでしょう。

一方のFAは、M&Aという取引のアドバイザーであるため、明確な取引相手(さらには、入札の競合相手)が存在します。そして、これらの相手は仮想敵ではなくて、実際の交渉相手になります。

したがって、コンサルはクライアントとの関係を上手く捌いていくだけでも仕事になることが多いはずですが、FAの場合には、クライアントとの関係のみならず、取引相手との協議・交渉も捌いていく必要があり、より複雑な人間関係・パワーゲームの渦中へ放り込まれるわけです。

FAでもジュニアのうちはコンサルと同じように資料作りで済むことがほとんどですが、シニアバンカーになれば人間関係のバランスをとりながらクライアントの目的を達するように動くという、半ば”火中の栗を拾うような仕事”が多くなるわけです。

従って、実務的に第三者との協議や交渉をすることが好きで得意ならばFA向きですが、そのようなある意味で「荒っぽい役割」は好きではないし苦手だという場合にはコンサルの方が向いているのかもしれません。

第三者と明確な金額で取引を実行するか

M&Aは最終的には、お金または株式で他社を買うという行為です。

なので、いくらで何を買ったのか(買わなかったのか)が明確になります。したがって、案件が終わった後にそのM&Aが成功だったか失敗だったかが評価されてしまうわけですし、その評価も時がたつにつれて変わり得るわけです(たとえば、当初は高値づかみで失敗だったと思えたM&Aでも、対象会社の業界が活況になって好業績になれば良いM&Aだったとなります)。

また、コンサルに何かを頼んでも、そのコンサル内容が会社の支払いに直結するということはあまりなく、方針を改めて社内で揉んで決めていくという流れかと思います。一方、FAはアドバイス如何で会社の支払い額に直結します(相手方と良い交渉ができれば、Valuationの観点で割安に買えるかもしれませんし、下手な交渉をすれば買えなかったり高値づかみになります)。

そういう意味で、FAの方が、

自分はクライアントの命運に影響を与える立場にあるのだ

という覚悟を持って仕事をすべき業務であるように感じます(正直、自分がFAである点でバイアスがかかっているとは思いますが)。

その他の相違点

上述の、クライアント以外の第三者の存在という相違点以外のものをまとめると次のような点が挙げられるかと思います。

必要とされる知識の広さと深さ

FAの場合、M&Aという切り口があるので、M&Aに関連する法規制や会計・税務に深く通じる必要があり、これらの知識の深さという意味では、実務上は弁護士・会計士等の専門家と同程度の知識を持っている必要があります。

といいますのも、FAはM&Aの取引スキームを提案したり、相手方からの提案される取引スキームを分析をします。その際に、

「最終的には弁護士・会計士等の専門家にご確認ください」

という趣旨の注記(ディスクレーマー)を付けるわけですが、これを付けたからといって実務上は無責任に適当なことを言えるなんてことはなく、専門家の先生方の役割は

「チェックとお墨付き」

であり、基本的な分析はFAが終えておくのが望ましいからです。

一方のコンサルの場合、業界の知識という意味では、基本的にはクライアントの方が広く深く知っているので、どちらかというと、分析フレームワークであったり、着眼点、そして情報収集力で勝負するという側面があるように感じます。特定の法規制等を深く知っているコンサルもいますが、どちらかというと過去の経験で知ったというものであり、FAのように全員が知ってるべき法規制が明確になってるということではないように感じます。その分、広い知識やロジカル性を要求されるように思います。

検討フェーズか実行フェーズか

基本的には、コンサルは検討フェーズを担当すると言われ、FAは実行フェーズを担当すると言われます。

なので、FAからコンサルを見ると、

「あの人達は提案しかしなくて、実務をやらないし知らない」

となり、コンサルからFAを見ると

「彼らは大きな観点からビジネスを考えることなく単に手を動かすマシーンだ」

と見えるようです。

お互いある程度の敬意は払っていると思いますが、自分たちの仕事の方が価値があると信じているという意味では似たようなものです。

個人的には、検討と実行はビジネスの両輪でありますからどちらも大事ですし、また、どちらも事業会社ではないから虚業だとも言われるという意味で、まあそんなに目くじら立てないでと思ったりもします。

業界に属する(属していた)人数

FA業界を外資系と日系大手証券会社のM&Aアドバイザリーチームに属する人数と定義するのであれば、その人数はざっくり言って500人〜1,000人程度だと思います。

一方、コンサルは外資系の戦略ファームだけなら少人数ですが、その他の様々なコンサルや総研まで入れればFAの何倍になるか分からないほど存在しているでしょう。

これが何に影響するのかと言えば、OBの人数です。

事業会社の企画部門にコンサル出身者が居ることは比較的一般的ですが、FA出身者が居ることは結構珍しいのではないかなと思います。

その理由は、そもそもFA業界が相対的に小さくて人数が居ないという側面が一番だとは思いますが、次の理由として、事業会社のコンサル出身者が新たに中途採用をしようと思ったときに、応募者にFA経験者とコンサル経験者がいた場合、無意識にコンサル出身者を優遇してしまうという傾向もあるのではないかと推察します。

人間誰でも、自分がやってきた仕事と同じ仕事をしてきた人の場合、その人を比較的容易に理解することはできますが、異なる仕事をやってきた人の場合には、

「よく分からないから、とりあえず採用を急いでいるわけでもないし、まあ見送ろう」

となりがちだからです。

FA経験者はマイノリティなので自分の転職活動の際には、それ相応に上手く立ち回る必要があるかもしれません。

さいごに

FAもコンサルもイメージは似ているようですが、仕事内容は結構異なります。

どちらの仕事を選ぼうかなあと迷ったときに一番良いのは、やはりその仕事をしているひとにダイレクトに話を聞いてみることだと思います。

繰り返しになりますが、個人的には、FAの方が利害対立のある登場人物が多く存在し、複雑な人間関係の海を泳いでいく必要があるので、より高いコミュニケーション能力が必要とされるのだろうなと感じております。

また、M&Aは実際にお金がやり取りされますので、会社の命運を賭けたプロジェクトになることが多く、相当の覚悟を持って仕事をすべきですし、だからこそのやりがいもあるのだろうなとも感じております。

とはいえ、私はFAサイドからしか語れないので、ぜひコンサルの方の意見も聞いてみてください。きっとまた違う観点からいろいろと教えて頂けるのだと思います。

error: Content is protected !!