前回に引き続き、FAからみた専門家の先生方について書いていきます。
(前回の記事)
今回は、会計士・税理士の先生方についてコメントします。
基本的にDDの専門家という位置づけになることが多い
会計士・税理士の先生方は、基本的にDDの専門家という位置づけになることが多いです。
さらに、売手の場合には会計士・税理士を起用しないことも多いので、買手側のDD専門家としての起用が主なケースでしょう。
なので、会計士・税理士の先生方がM&A案件の全体像を把握されてなくて案件に参加されることも相応にあるのではないかと思います。
特に、会計士・税理士チームの若手の先生方は、よくわからないけれども自分の担当をこなさなければならないという意識からか、自分の担当箇所をいかにこなすかだけを目的としてたやりとりに終始してしまうケースもあったりします。
M&Aに慣れている買手候補であれば、上手く重要度の基準を設けて些末な論点は割愛しても差し支えないと仕切ってくれますが、不慣れな買手候補ですとDD専門家の「言いなり」になってしまい、案件が迷走する要因となったりします。
(なので、売手のFAとしてもQAの質問数の上限を設けたりして、事前に買手候補の暴走を妨げるような工夫をしておくケースがほとんどだと思います)
クライアントが興味があるのは税務であることが多い
会計DD(財務DD)を主たる仕事にされている先生方には恐縮な物言いになるかもしれませんが、クライアントが興味を持っているのは税務の論点の方だと思います。
といいますのも、会計DDは一定程度の重要性はありますが、決算数値がある程度正しいだろうという心証が持てるのであれば、値決めの議論はValuationを担当するFAと協議していくことになりますので、会計処理の適正性等はPMI的には重要なのかもしれませんが、取引金額へのインパクトが薄いという観点で軽視されがちだと感じております。
一方で、税務DDの状況や税務論点については直接的なキャッシュアウトに影響するので、クライアントとしても非常に重視する傾向にあります。
組織再編案件であれば税制適格性の検討は必須ですし、株式買収の案件でも海外子会社がある場合などの国際的な税務イシュー(移転価格の件など)についてのとりまとめ等は、FAから見ても本当にValueがある仕事だと感じられ、クライアントも真剣にDD報告を聞いています。
粉飾決算があるかもしれないというリスクについて
上場会社の子会社を対象会社とするようなM&A案件は、通常その子会社が連結監査の範囲に含まれていれば粉飾決算がなされているリスクは低いのかもしれませんが、本気で粉飾をされていた場合に、会計DDでそれを発見するのはかなり困難なのであろうなと感じます。
法定監査であれば、強制力はないものの相応のパワーで資料請求ができるようですが、DDは善意の協力に基づく資料開示なので、相手先が隠そうと思えばいくらでも隠せるのだと思います。
ということで、会計DDは粉飾や不正の調査ではないということで、会計的見地からのビジネスの数値的な反映状況(正常収益力分析)や直近のバランスシートの資産の評価の妥当性を検討するということが主たる目的になっているように思われます。
なお、仮に粉飾決算等が合った場合には、株式譲渡契約に基づく表明保証違反として賠償条項を発動させることができますが、売主が対象会社の決算の正当性につき表明し保証していなければ賠償条項も発動できないので、会計DDの資料開示が限定的かつ決算の正当性の表明保証が得られない場合にはその対象会社は「かなり危ないかもしれない」と思った方が良いように感じます。
さいごに
会計士・税理士の先生方の立場から見てみれば、次から次へとDDをたらい回しにされていて、それぞれのM&A案件の全体像を理解している余裕はないのかもしれませんし、とくに若手の先生方はそれでも差し支えないのかもしれません。
でも、売手について複数社からDDを受けると、相手先ながら良いなと思えるチームと、買手候補に着く場合でもおすすめはできないなというチームがあるのは事実です。
ということで、おすすめできるようなチーム(担当の先生)を何人知っているかという観点では(前回の記事で申し上げた弁護士の先生方を何人知っているのかと同じように)FAとしての力量のひとつなのかもしれないと思っております。
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