FA業務を続けていくために必要なこと(7) 〜クライアントの判断にある程度踏み込む〜

M&Aとキャリア
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不定期企画として、M&AのFinancial Advisory業務(FA業務)を続けていくために必要なことを考えておりますが、今日は7回目の記事として、

クライアントの判断にある程度踏み込む

ということについて考えてみたいと思います。

(前回の記事)

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M&A案件の過程でクライアントが何らかの判断をしなければならないとき、FAとして

「このような場合どうすべきなのでしょうか?」

と問われることがあります。その際にどう対応すれば良いのでしょうか。

クライアントへの助言には様々な対応スタンスがある

実際問題として、クライアントがどのような判断をすべきか問われた場合にどう答えるべきかの唯一無二の正解はありません。

おそらくケースによって、そして対応するプロマネのキャラクターによって変わり得るでしょう。まずはどんな対応スタンスがあるか見ていきます。

1.一緒に慌てる・逃げる

まず、悪い対応例としては、クライアントからの質問に関して、一緒に慌てたり、質問とズレたコメントをして逃げるというものが挙げられます。

そんな悪い対応をするFAがいるのかとびっくりされるかもしれませんが、実際にそういうFAもいるように感じます。

このような対応をするFAは基本的にどうすべきか分かっておらず、そもそもどのような選択肢があるのかすら気付いていないことでしょう。

過去の経験がなく適切なアドバイスができない「名ばかりプロマネ」に当たってしまうとこのような対応をされることになるのだと思います。クライアントからしてみたら高額のFA手数料を払っていてこのような対応をされてしまうようでは、今後その会社を起用したいとは思わないことでしょう。

2.持ち帰る

経験の浅いFAであっても、ある程度まともな人物の場合、クライアントの疑問点をしっかりと整理し、どのような対応方針があるか持ち帰って協議したいと申し出ることでしょう。

本来であれば時間が重要な要素であるM&A案件において「持ち帰る」ことは望ましくないのですが、その場でまっとうな回答が困難なのであれば、持ち帰ることを選択することは必ずしも悪い選択ということではないかもしれません。

冷静に状況を整理したく、また時間的にはそんなに要さず回答できるとしておけば致命傷にはならないと思います。

3.評論家的に選択肢を挙げメリット・デメリットを語る

次に、ある程度経験があるFAの場合、類似した事例も知っていたりして、クライアントの判断につきどのような選択肢があり、それぞれの選択肢のメリットとデメリットをすぐに思いつくことでしょう。そのようなFAはおそらく、

「選択肢としては、●個あり、それぞれこんな特徴がありますよ」

と総花的に語るのかもしれません。

FAとしては色々な選択肢に気付く自分に酔っているような感覚を抱くかもしれませんが、おそらく、クライアントがFAの言う選択肢とその優劣に気付いていないなんてことはないと思います。

すなわち、クライアントとしては、

「そんなことはわかっているんだが、それを踏まえてどうしたら良いかわからないから聞いているんじゃないか」

と思うことでしょう。

4.現実的な選択肢しか挙げず、そしてその中でベターな選択は何かまで踏み込む

そして、おそらくは最もクライアントが望むであろう対応は、FAとして

  • 現実的な選択肢は何があるか
  • その中でどれを選ぶべきか

まで踏み込んで申し出ることでしょう。

たとえば売手のFAとして起用されている場合に、入札にすべきか相対にすべきか、とか、最終意向表明書を踏まえてどの買手候補と話を進めるべきかとかといった、絶対的な正解がない論点に関し、案件特有の状況も踏まえて何がベターなのかを進言することができるFAかどうかということです。

ただ、FAとして何がベターなのかに踏み込んでコメントすることは、かなりリスキーだと感じます。といいますのも、FAが

「これが良いと思います」

と語った選択肢が結果的に上手くワークして案件としてクライアントも満足する成功を迎えられれば何ら問題にはなりませんが、何らかの理由でその選択肢が上手く機能しなかった場合、

「FAが良いと行ったから選んだのにこの結果になったのはどういうことだ!」

とクレームされる可能性があるからです。案件失敗のスケープゴートにされ、多方面からお叱りを受けることにもなりかねません。

なので、実は経験豊富なFAこそ自分のリスクを鑑みて、かつては踏み込んでコメントしていた時代があったとしても、評論家的な対応に終始するスタンスを敢えて採っているケースもあります。

要は信頼関係とリスクヘッジ次第か

個人的には、評論家になるか踏み込むかというのは常に決まった対応をすべきということはなく、案件の状況やクライアントとの信頼関係によって変えるべきだと思います。

ある程度信頼関係が構築されているクライアントであれば、踏み込んだコメントをしても大丈夫かもしれません。

また、踏み込んだコメントをするとしても、唯一の解を述べるところまではせずに、複数ある選択肢を2択程度に絞り込み、あとはクライアントの判断に委ねるという方法もあります。

いずれにせよ、案件の状況を鑑みてどこまで踏み込むべきかを毎回しっかりとはかるのが肝要といえるでしょうか。どこまで言っても大丈夫なのかのバランスをしっかりととっていくともいえるかもしれません。

さいごに

FAはアドバイザーであり、助言する人です。

クライアントからしてみたら、M&Aの専門家に見え何でも頼りたくなるのかもしれませんが、最終的な判断はクライアントにして頂く必要があり、その結果責任もクライアントに帰属します。

FAとしては色々な選択肢を熟慮して、何がベターなのかまで踏み込んでコメントすることがあるのかもしれませんが、それを受けて判断するのはクライアント側であることをしっかりと認識いただくのもFAの仕事の一つだと思います。

なので、ある程度くどくなってしまうのかもしれませんが、重要な判断をするときこそ、

「最終的には貴社にお決め頂く必要がある」

ということをクライアントに理解して頂く必要があるのだと思いますし、それを上手く伝えることができるのも良いFAの技量なのかもしれないと思います。

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