若手育成と案件の安定遂行のジレンマ

M&Aとキャリア
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M&Aアドバイザリーの仕事(FA業務)をしている証券会社の部署等は、一般的な事業会社と比べて人の出入り(採用・退職)が多めであると思われます。

手塩にかけて育てた優秀な後輩がさらっと同業他社へ転職とかファンドへ転職とかざらにありますが、個人のキャリアパスはそれぞれですので、辞めるときには素直に応援することを心掛けております。

一方で、メンバーの出入りが激しいと、やはりある程度若手(経験の浅いメンバー)を積極的に育成していかないと、そのしわ寄せは上に来るわけです。

今回はその辺りにまつわる話をしてみようと思います。

基本原則1:若手にはどんどん成長して欲しい

若手自身がもっとやりがいをもとめている

世間ではゆとり世代とかさとり世代とかいうやる気やスキルの無い若手を揶揄する言葉がありますが、FA業務をやろうと思って証券会社の門戸を叩く若者は一般的にポテンシャルの高い方が多いです。

多くのメンバーは、

「先ほど指示された仕事は終わりました、早速レビューお願いします」

「いま他の案件が少し手待ちになったので何か手伝えることはありますか?」

という具合に、積極的に仕事をしていこうというスタンスであると感じます。

ある意味で、古典的ワードになってしまった感のある「成長」を求めているわけです。

指示待ち人間からの脱却

入社直後の立場であれば、やる気を出して積極的に指示されたことをこなしていくだけで精一杯でしょうから、まずはそれをしっかりとやって頂くことが重要です。

ところが、入社して数年経つにもかかわらず、言われたことはしっかりとやるものの、自らの意見をあまり言わないし、言われていないことには首を突っ込んでこない人がある程度います。

もしかしたら、控えることが美徳と思って意見を言わないのかもしれませんが、この業界で伸びていく若手は概ね自分の意見を上手く主張している方が多いように感じます。

チームメンバーとしても、若手のメンバーが黙りとしていると

「何か気付いたことは無いの?」

と確認してみたりしますが、たいていの場合、何か返してくる人と何も返さない人は同じなわけです。

マインドの違いもあるけど、前面に立った経験の差も大きい

仕事への積極性がどうかという話は、個人ごとのマインド・キャラクターの違いであると言い切ってしまえば簡単なのかもしれません。

他方で、個人的にはそう単純な割り切りでも無いと思います。普段はおとなしい人でも、FAの仕事をしているときは冷静ながらも積極的にやり取りをする方は結構多いですし。

それよりも、FAの仕事でレベルを上げ、積極的に関与していくためには、案件の前面に立って他社とのやり取りを多くこなしていく経験をいかに多く積んでいくかが重要だと感じます。

クライアントや相手方のFAとのやり取りの最前線に立つと、その場その場で判断することが求められるます。

たとえば何らかの論点につき社内に持ち帰る場合であっても、単純に「確認します」と伝えるケースと「初期的には●●と思いますが、念のため確認します」という具合にある程度自分の判断を加えつつ持ち帰るケースがありますが、論点ごとにどのようなスタンスでやり取りをしていくべきかは、やはりある程度の経験が無いと判断しようが無いわけです。

単純な物言いにはなりますが、案件の最前線に立つ経験を積んでいくと、

案件に振り回されるだけの立場から、案件に振り回されつつも少しずつ案件をコントロールする立場にシフトしていく

ことが可能となり、おそらくはそれがFAとしてのレベルアップのひとつなわけです。

基本原則2:クライアントに迷惑をかけたり案件を迷走させたりしてはいけない

若手にどこまで任せるかを判断することがシニアの役割

基本原則1で述べたように、若手には積極的に案件の前面に出てもらい、クライアントや相手方FAとのやり取りの役割を積極的にこなしていって欲しいと思うわけですが、そのある意味での育成をすることによって、クライアントに迷惑をかけたり、案件を迷走させたりするようなことになるのは本末転倒です。

なので、案件が安定的に遂行できる限りにおいて、若手を登用し上手い按配で役割を任せることが重要になってきます。

そして、どこまでを任せるかを判断することがシニア層(D、VP)の重要な仕事のひとつになるわけです。

丸投げは判断では無い

時々ですが、とにかく丸投げをするシニアが居ます。

若手の経験・スキル・状況をほとんど考慮せずに、

「とにかく上手くやっておいて」

と全部丸投げするわけです。そして、そのようなひとは案件が迷走し出すと、往々にして

「なんでちゃんとできていないだー!!」

と怒るわけです。

そのようなケースを横から見ていると、(個人的にはあなたの丸投げにも一因があるんじゃない?)と思うわけですが、人の案件なのであまり口出しもし辛いところです。

若手を育成する際に重要なのは丸投げでは無く、どこまで任せても大丈夫かということを峻別することと、それを状況に応じてある程度変えていくことです。

要は、まずはある程度任せてみてやってもらうけれども、案件が迷走しだしたら直ぐに状況を確認して必要な指示を出すとか、指示だけでは挽回が難しそうなのであれば、自ら出て行って事態の収束をはかるとか、あまりにもできが悪いなら残念ながら後方支援を増やすとか、逆に良いできならもっと任せる部分を増やすとか、そういう状況に応じた判断を刻々としていくことがシニアの仕事だと思うわけです。

なお、時々丸投げを好み、丸投げで何ら不自由なく案件を遂行していく若手(超人)が居ますが、誰もが超人なわけではないですから、やはりこの点は気をつけた方がいいでしょう。

若手育成のヒント

正直なところ、大多数のシニアは自分がやった方が早くて確実だと思ってるはずですが、それだと中長期的には組織のためにはならないよねという気持ちで、むしろ最初はレビューという仕事が増えることとなっても、若手にはしっかりと立ってもらいたいと考えるわけです。

そのような場合に、シニアとしてどのようにして若手を育成していくべきかの正解はないのかもしれませんが、ヒントならありそうです。

(i)事前と事後の社内打ち合わせを徹底する

まず、多くの方が育成のために行っていることとしては、若手が社外の方とやり取りする前後にしっかりと社内打ち合わせをするということです。

ある論点に関して、

  • 若手がどのように相手方に伝えようとしているのか
  • 予想される相手方の反応はどのようなシナリオがありそうか
  • 会話の落としどころとしてどのような終わり方を想定しているのか

といったあたりを膝詰めで話をして、大丈夫そうかどうかを確認することが大事なわけです。どこかに詰めの甘そうな部分があればある意味で「ダメ出し」することも必要になってきます。

(ii)メールなら簡単に下書きをレビューする

電話ではなく、メールで社外の方とやり取りするケースであれば、事前にメールの下書きをレビューするということも頻繁に行われています。

文書の場合は会話よりもレビューは簡単なので、前面に立つことが最初期のメンバーの場合にはまずは毎度見てあげる位の気持ちでいた方が良いかもしれません。

なお、シニアであってもチームメンバーにも確認した方が良い場合には、事前にメールの下書きをVPやアソシエイトにも共有して、何か追加や修正点があるか確認したりもします。

(iii)一緒に電話会議に乗る

また、電話による相手方との会話の場合にも、若手を含めて対応することで、

  • 若手自身がその会話の論点を自ら考える機会になる
  • 仮に自分が会話役だった場合ならどうするかの手本を直に感じられる(良い面も悪い面も含め)
  • そもそもの利点として案件状況のリアルタイムな共有が可能となる

という効果が期待できるので、チームによりますが、積極的に電話会議で相手方と会話するという方法を取り入れるのもありかなと思います。

一方で、相手方が一人なのにこちらが大勢で電話をするのもややバランスがおかしく感じられるというケースもあるので、そのな場合にはミュートで入ったりするという工夫が必要なこともあるかもしれません。

さいごに

若手としては、自分が最前線に立つことで、それまで見えていなかった難しさややりがい、緊張感が生まれます。

ただし、案件を迷走させたりクライアントからのクレームにつながるような事態に陥ることは言語道断なわけですから、シニアはしっかりと若手のやり取りをレビューし、道を外れないように注視することが重要です。

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