不定期企画として、M&AのFinancial Advisory業務(FA業務)を続けていくために必要なことを考えておりますが、今日は5回目の記事として、
について考えてみたいと思います。
今日の記事はどちらかというとシニアバンカー向けの内容かもしれません。
(参考記事)
決める人は多かれ少なかれ孤独である
FAのチーム体制
FA業務は大まかに言うと、MD/D/VP/AS/ANという各職階から何人か選出したチームで案件に取り組みます。大規模な案件を除くと、(D)+VP/AS/ANという3〜4人体制の案件が多いかもしれません。
個人的に、はじめて自分がチームヘッドになったときのことを思い出します。
それまでは、チームには常に自分よりも上の方がいたため、何をするにしても事前に相談することができました。
それが、ある案件ではじめて自分がチームのヘッドになった際に、何かを相談したくても相談できる相手が上には居ないという、当たり前ではあるものの衝撃的な事実を目の当たりにしました。
情報収集のような感じで後輩のVPに相談できる部分はあるものの、チームとしての方針を決めるのは自分になります。クライアントへどのようにアドバイスしていくのかの方針も自分が最終決定しなければなりません。
判断を悩む日々
実際にM&A案件はFAチームのリーダーである自分の判断、助言により進んでいきます。
そのようなとき、時々なんとも言えぬ不安が襲ってくることがあります。
(あの助言は正しかったのだろうか、もしかしたらまだ見えていない選択肢があったのでははないか、、、もしくは別の選択肢の方がよかったのではないだろうか)
このような悩みに取り憑かれることもあります。
(結果的に、良好に進んでいるように思えるが、実は危ない橋を渡っていたのではないか)
結果オーライ的に進んでいたとしても、後からリスクのあった選択だと気付いたりすると、その危なっかしさと良い方向に進めた僥倖とで複雑な気持ちになったりとします。
悩み・不安を乗り越えるために
スランプというわけではないのですが、案件への関わり方が変わった当初は、やはり少し改善すべき部分があったわけで、特にこの悩み・不安感とどのように折り合うかについては色々と考えました。
その結果、自分なりの対処の方針がある程度見えてきました。
1.事前にこれでもかと考え得るケースを想定しておく
まず何よりも大事なのは、事前に考え得るケースをこれでもかと追求しておくことです。
すなわち、事実関係を整理してそこから考察される選択肢、それも当方と相手方との双方の状況と選択肢を綿密に検討することが大切です。
一般的に、ひとは想定外のことがおきるとある程度思考停止といいますか、
「さて、これはそもそも何が起きているんだ?」
ということで、現状を認識するのに時間を費やしてしまい、タイムリーに適切な選択が採れないということもあり得ます。
なので、そうならないために事前にあらゆる可能性を検討しておき、その中でのベターな案を選ぶように心掛けるようにしました。
2.その選択肢が「完璧だ」ということはあり得ないことを肝に銘じる
上述のようにあらゆる可能性と選択肢を検討していても、その後発生・判明する事実から最適な選択肢が変わると言うことはよくあります。
なので、一旦何かを選んだとしても、その選択肢がベストであるなんてことはあり得ないということだけは常に忘れないようにしておき、何か不測の事態や別の事実が判明した場合には、すぐに別の選択肢も含めて再検討するようにしています。
クライアントへの説明についても、相手方全員と全てを共有しておく必要はありませんが、キーパーソンとは、現状の選択肢をすすめる背景と別の選択肢の可能性についても共有しておくようにして、何かが起こった際には、タイムリーに事実関係の整理と改めての相談をするように心掛けています。
3.自分の直感を信じる
たいていの場合には、何か不測の事態が起こった際には事実関係の再整理とそれに基づく再検討をする余裕がありますが、稀にそのような余裕がなく、その場で想定外の事実を突きつけられてジャッジしなければならないということもあります。
そのような場合には、自分の経験と直感を信じるようにしています。
ある程度の経験を積んだFAであれば、想定外のことが起きたとしても、その場でどのように行動すべきかは直感的にピンと来るものだと思います。
そして、採るべき選択肢の合理性をロジカルに相手方に説明することになるのですが、その説明方針についても相応の部分が直感に基づくものになろうかと思います。
そういう時は、他に縋るものがないということで、自分の経験と直感を信じてその選択肢を相手方にぶつけてみることになるわけです。
4.相手に否定されても構わないし、自分の案が採用されなくても構わない
とっさのジャッジメントで、直感的に何かを説明した場合、特に相手方のハイレベルな方々との会議とかでは、しばしば相手方から自分の主張につき、否定されることがあります。
ここで、否定されることを恐れてはならないと思いますし、さらに、否定された場合に自分の当初のアイディアに固執してもいけないと思います。
要は、そのような難航している場に体して、第一声として、とりあえず選択肢を投げ込むことそれ自体に意味があるのだと思っています。
そして、自分が投げ込んだ選択肢が昇華していって、よりよいものになればそれで構わないわけです。
クライアントの意思決定権者も孤独である
クライアントの方が孤独で大変な作業をしている
少し話がずれるかもしれませんが、FAのチームリーダーが孤独であることに気付いたとき、クライアントの意思決定権者も程度の差はあっても孤独であることを再認識しました。
といいますか、アドバイザーはそうは言っても気軽な家業であり、自社のお金を投下しているわけではなくあくまでも助言をしているに過ぎませんので、むしろ、当事者であるクライアントは、(まさに虎の子のお金を投じるわけであり)意思決定するという孤独で重たい作業に耐えなければならないということに今更ながら気付いたというところです。
すなわち、クライアントの孤独は、FAのそれとは次元が異なる程の重みのあるものなのです。
M&A案件において、我々FAはあくまでも助言者であり、FAとしての一線は越えられず、最後はクライアントが意思決定をする必要があります。
でも、クライアントが意思決定をする際の、支えになることはできます。
あなたがそう言うならそれでやってみよう、と言っていただけることも
自分の孤独に気付いたとき、それ以上にもっとつらい立場にある人のつらさにようやくながら気付き、だからこそ、そのような方々の意思決定のつらさが少しでも解消されるように、情報を集めたり、相談に乗ったり、状況を整理したり、選択肢を提示したりと、FAとしての行動の目的がシンプルになってきました。
といっても、相手の荷物を代わりに背負わせていただくとかそんな大それたことを考えているわけではなく、ただある意味で無心になって、自分のできる最善のことを尽くそうとおもって行動を続けることになります。
FAはFAとしてできることを言葉はあれですが、真心を込めて行動で示していくに過ぎないわけです。
でも、そうやって相手の役に立つために自分ができることをシンプルにやっていると、時々、
「●●さんがそう言うなら、我々もそれでやってみることを決めようと思います」
といって下さる方も出てきてくれたりします。
そんなときは、個人的にはちょっと嬉しい気分になったりもします。
さいごに
案件のチームリーダは孤独です。
でも、実は隣のデスクを見れば、別の案件で孤独に奮闘している人がそこに居ます。自分の悩みを一般論的に相談してみると、客観的な見地から良い助言を聞けるかもしれません。
なので、日常から同僚とも良い関係を構築しておきたいものです。そして、その同僚から逆に相談を受けたときには、親身になって考えたいと思います。
(次回の記事)