M&A交渉術(1) 質問術 〜本当に聞きたいことは悟られないように〜

仕事術
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今回から、M&Aアドバイザリーの仕事で活用できそうな交渉術を説明していくという企画を連載してみようと思います。

今回は第1回目の記事ということで、質問術について見ていきます。

「質問」という行為はコミュニケーションの基本ともいわれます。

FAの仕事では、クライアントのみならず相手方のFAを含めて色々な人々とやりとりがなされ、単なる日程調整から契約の条件交渉まで、幅広い内容が議論の俎上に載りますが、それらのやりとりの中でも質問は欠かせない要素の一つです。

質問の対象は興味関心がある部分

日々のFAの仕事の中で、クライアントからの、

「相手方の意向を確認して欲しい」

という依頼がなされることがあり、案件の状況によっては相手方にこちらが気にしているポイントを悟られないように聞くことが望ましいケースもあります。

・・・ところで、なぜこちらが気にしているポイントを相手に悟られない方が良いのでしょうか。まず、前提としておさえておきたいのは、質問をするということは、その部分について興味関心があるはずだということです。

ちょっと話はズレますが、たとえば、中途採用の面接で、

「やっぱり残業は多いのでしょうか」

と聞くということは、残業時間の多寡について興味関心があるはずだからです。

ゆえに、中途採用の面接の場で残業時間についてストレートに確認をするというのは望ましくない行為だと言われています。これは、そもそも残業時間を気にするということは、

  • 仕事の内容よりも残業時間の方に興味があるのか?
  • あまり残業をしたくないのではないか?
  • ときには緊急対応が必要なFAの仕事に向いていないのではないか?

と面接官に思われてしまうからです。

戦略1.質問内容の回答がいずれであっても大丈夫だということをアピールして聞く

なので、仮に残業時間の多寡について興味があったとしても、

「現業では、●●時間くらい残業をしており、体力には自信がありますが、御社の若手の皆様も同じくらい又はもっと働いているのでしょうか」

という感じで聞く方が望ましいようです。

どのような回答であれ、

「想定内ですし、自分ならやれます!」

というトーンで説明していくことになろうかと思います。

戦略2.本当に聞きたいことを複数の質問の中に混ぜる

木を隠すなら森の中

という諺があるとおり、本当に聞きたいことがあったとして、それだけを聞いてしまうと目立つので、色々聞く中にそれを混ぜた方がいいだろうということです。

たとえば、M&AのFA同士のコミュニケーションで、買手側として売主が設定した検討期限が短いと思っている場合で、その延長の意思を探る必要がある場合があります。

ここで、買手候補側としては、入札環境でもあり、延長を希望している旨を売主に悟られないようにする必要があるという前提を想定してみましょう。このような場合には、DDの日程調整の交渉をしながら、ついでに他社の動向を確認するという方法があります。

要は、

  • Q&Aの個数制限が専門家から多大なる批判を受けているがなんとかならないか?
  • 専門家の皆様にも尽力いただいているがQ&Aセッションの日程はこれ以降しか空いていないのか?
  • 複数の買手候補のDD対応を同時に実施するのは負荷が高いと思うが大丈夫か?
  • おそらく、他社さんの起用する専門家からも同様に調整を依頼されているのではないか?
  • そもそも、全体のスケジュールについてもそろそろ現実感がなくなってきているように思えるがどうか?

といった感じで、複数の主張の中に聞きたいことを織り交ぜるという感じです。

戦略3.一般論としてさりげなく聞く

もう一つの方法として、雑談的に一般論としてさりげなく聞くというアイディアもあります。

たとえば、先ほど挙げたようなM&Aプロセスの期間の延長の件であれば、日々行われる電話等でのFA間のコミュニケーションの終わり際に、

「本件はいまのところ皆様の尽力で予定通り進捗していますが、一般的にはちょっとタイトですよね。売主様のこだわりがあるのでしたっけ?」

といった感じで「ああ、そういえば」という感じを装って、ちょっと話題を振ってみましたという様相で話を切り出すというイメージです。

このような場合、相手に警戒されなければ、

「確かにちょっとタイトかもしれませんが、売主様になんらかの期限のこだわりがあるとは聞いてないですね。」

と本音をしゃべってくれる時もあります。

ただ、この方法を使うときには留意すべき点もあって、仮にその後正式に期限の交渉するときに、

「FAさん、先日は期限のこだわりは無いって言っていたじゃないですか」

と正面切って交渉すると、それ以降は雑談に乗ってきてくれなくなるので、相手方FAがポロッとこぼしてくれた情報は、オフレコ的に扱うのがマナーだとは思います(すなわち、相手方の本音がどこにあるのかを探る情報としては使うが、交渉の土俵には乗せないという感じです)。

さいごに

これまでの話を逆から考えてみれば、相手方から質問を受ける際には、相手方の興味関心がどこにあって、どういう意図でこの質問をしているのだろうかと考えながら質問を聞くことで、交渉上、何をどこまで回答するのが望ましのかの判断材料になるのだと思います。

なお、これまで見たとおり、質問術は、M&Aの最終的な買収条件交渉のその場で確実に役立てられる交渉術というよりは、日々のコミュニケーションの中で自社の優位性をキープするための方法です。

今後の連載では、M&Aの実際の交渉の場のみならず、日々のFA業務として自社のポジションを優位にしておくための広い意味での交渉術を見ていこうと思っております。

(次回に続きます)

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