M&A交渉術(2) ザイアンスの法則 〜なぜあの担当者は毎日連絡してくるのか?〜

仕事術
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M&Aアドバイザリーの仕事で活用できそうな交渉術を説明していこうという企画の第2回の記事です。

今回は、ザイアンスの法則について検討していこうと思います。

ザイアンスの法則とは、単純接触効果とも呼ばれますが、

初めのうちは興味がなかったり、苦手だったりしたものも、何度も見たり、聞いたりすると、次第によい感情が起こるようになってくる、という効果。たとえば、よく会う人や、何度も聞いている音楽は、好きになっていく。(Wikipedia「単純接触効果」より)。

という法則のことです。

この法則は、実際の交渉の場面で役立つというよりは、交渉の前提としてお互いの関係性を構築しておき、その後の交渉を含む様々な場面で有効に動けるようになっておこうという意味合いで役立てたい法則です。

頻繁に連絡してくるFAとそうでないFA

売手のFAを担当しているときに

売手のFAを担当していると、買手候補の各FAから様々な連絡を受けることになりますが、それぞれの買手候補FAの連絡頻度とその内容が結構異なるなんてことがあるわけです。

事務的な関係

たとえば、FAのA社は必要最低限の連絡しかせず、連絡手法も基本的にメールだとします。

そのような場合、こちらとしても基本的に淡々と対応することになり、具体的にはメールでの問い合わせのうち、回答・対応しても差し支えなさそうな内容であれば返すという進め方になります。そうなってくると、ある意味で「事務的な関係」になるというところです。

FA間コミュニケーションができる関係

一方、別のFAのB社の担当者は、毎日夕方頃になると電話連絡をしてくるとします。仮に、こちらが別のミーティング等で不在で電話に応対できないときにも、代理応答した担当者に

  • また電話します
  • 電話があった旨だけご伝達ください

といったコメントを残します。

そして、いざ電話で会話をしてみても、特定の依頼があるということはあまりなくて、直近の彼らのクライアントの動きであったり、意思決定の進捗状況の共有であったりを報告してくれます。

そのような連絡が繰り返されるうちに、

お互いFAとしてクライアントファーストで動くわけですが、当社としてもクライアントに入札に勝っていただかないと成功報酬がいただけないわけで、FA同士、できる範囲でざっくばらんに情報交換をしていきましょう

といった内容の話を切り出されるわけです。

売手FAとしても、相手方のFAを上手く利用して、より好条件の入札をしてもらえれば尚可なわけですから、差し支えない範囲では色々と話をしても良いかなというモードになるわけです。

相手方から入札プロセスにつき依頼を受けるとして

そんな状況下、A社とB社からそれぞれ入札プロセスの進め方につき、依頼があったとします。たとえば、入札期限を少し延長して欲しいという内容であったとしましょう。

事務的な関係のA社の場合

まず、A社とは最低限のやりとりしかしてきていないため、

  • A社のクライアントがプロセス延長の依頼をしようという流れになった背景
  • 依頼を断った場合、またはその依頼に全部は応えなかった場合にどうなるか

については、売手FAとしてもすぐには判断がつかないわけで、対応方針の検討には少し時間がかかることになりまし、仮に依頼に応えなかった場合の相手方の反応もよくわからないでしょう。

なお、後述しますが、A社のクライアントが入札者の中で1次入札で良い札を出してくれた「有力な買手候補」の場合には、売手FAとして相手方の動向をしっかりと探っておくという動きをしておかなければならない点には留意が必要です。

FA間トークを繰り返してきたB社の場合

一方のB社とは日々コミュニケーションをとっており、相手方のクライアントの意思決定の進捗状況やキーパーソンの意向が理解しやすくなっているため、その依頼の背景についても、説明してもらえばある程度は理解ができるような状況になっていることが多いです。

もっといえば、正式にプロセスの延長を申し出る前からB社が

「担当役員の出張が重なり、ちょっと意思決定に時間がかかりそうで、もしかしたら、プロセス延長を申し出るかもしれません」

というアラートを出してくれることもあり、こちらとしても売手に

「B社のクライアントからは場合によっては期限延長の申し出が来る可能性がありますから、その場合は●●という対応をするということでいかがでしょうか。いずれにせよ今後実際に延長申請があった場合には改めて相談させていただきますが・・・。」

とノーティスしておけるわけです。

また、期限延長の申し出についてどのような対応をすれば良いのかについても、たとえば延長自体はOKとして、その期限を先方主張の期間よりも短めにしたい場合に、どの辺を落としどころにすれば、相手方も納得できそうかについてを相手方FAと、

「ぶっちゃけですが、●●という対応を代替案で提案した場合に、それで受け入れられそうですか?」

と聞いてみたりもしますし、場合によっては、

「FAのB社さんに、クライアントを説得していただけるなら、●●という対応をこちらのクライアントにもお願いするようにしますよ」
といったコミュニケーションがなされることもあります。

いずれにせよ、案件をしっかりと進めたいFA同士の会話ですから、お互いのクライアントの利益になる範囲であればしっかりと案件が進む確実性が高まる方向で調整をしようというインセンティブが働くわけです。

ザイアンスの法則は相手方FA以外にも使える

なお、ザイアンスの法則は、冒頭でその定義を見たように、合理的な頻度であれば、やりとりが増えるほど親近感が増すというものです。

クライアントに対しても

なので、当然ながら相手方FAのみならず、クライアントへの報告についてもある程度定期に的に連絡しておいた方が良いということになります。

ただし、何も内容の無い連絡をしても相手の時間を奪うだけですので、何らかのお土産的な情報を持って連絡すべきではありますが・・・。

チームメンバーに対しても

M&A案件のチームメンバーに対しても、ザイアンスの法則は成り立ちます。特に異動があった直後等で初めて案件で一緒になるメンバーとは、頻繁にコミュニケーションをとった方が良いですし、特に自分が下の立場のうちは、上司・先輩の邪魔にならない範囲で、積極的に話をして現状を共有しておいた方が良いでしょう。

さいごに

FA間コミュニケーションの話に戻りますが、売手のFAとしては、有力な買手候補のFAがあまり連絡をしてこない場合には、こちらから一定の頻度で連絡をして、

  • 相手方の検討の進捗状況
  • 何か問題点は発生していないか

とかをさりげなく聞いてみることで、ある程度の関係性を構築していくことが重要です。

特に有力な候補先ですから、何らかの理由で「突然の辞退」や「最終オファーでの急激な金額切り下げ」がなされると、売手側のダメージも大きいですし、そのような動きを察知できていなかったFAの責任も問われかねません。

ゆえに、必要な場合には、こちらからもザイアンスの法則を使っていこうということになるわけです。

(次回に続きます)

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