M&Aアドバイザリーの仕事で活用できそうな交渉術を説明していこうという企画の第7回目の記事です。
今回は「グッドコップ・バッドコップ戦術」について考えていきます。
グッドコップ・バッドコップ戦術とは、警察に逮捕された者に対する取り調べに際し、鬼警官と人情派の警官の2役が登場して、鬼警官が恫喝し人情派警官が「カツ丼食うか?」と優しく自白を促すという、よくテレビなんかで見聞きする手法を交渉に応用したものです。
M&Aの交渉においてグッドコップ・バッドコップ戦術は、
- FA同士の交渉
- プリンシパルとFAの双方が同席する交渉
のそれぞれのケースで採られる可能性があります。プリンシパルとFAの双方が出席する場でこの戦術を採る場合、たいていはFAがバッドコップになります。あからさまなグッドコップ・バッドコップになることはあまりないとしても、
「まずはFAさんに少し強めな主張をしてもらって、最後はウチがこの範囲内で落としどころを見つけますよ」
という具合に役割分担することは結構あるように感じます。
グッドコップ・バッドコップ戦術への対策
グッドコップ・バッドコップ戦術とは
グッドコップ・バッドコップ戦術は、
- バッドコップ役が無理筋な主張する
- グッドコップ役がバッドコップの主張を緩和した「ある程度現実的な主張」をする
という2段階を経ます。
交渉が得意ではない方の場合、バッドコップから無理難題を主張された後にグッドコップの言う「より聞き心地の良いアイディア」を聞くと
と思ってしまうかもしれません。
でも、そうなったら相手方の思う壺です。グッドコップ・バッドコップ戦術は、相手に到底受け入れられないだろう主張をしておいて、自分たちの真意を改めて主張することで自分たちに有利な結果を導こうとする方法だからです。
イメージとしては、バッドコップが相手にとって不本意な位置にアンカリングし、譲歩を演出することで、結果的に相手方が不利になるような交渉をしてしまおうというところでしょうか。
相手の真意はグッドコップが言っていること
相手がグッドコップ・バッドコップ戦術を使っているなと感じた場合には、バッドコップの主張は無視して、グッドコップの主張をゼロベースで検討する必要があります。
といいますのも、基本的にこの戦術を採っている相手の場合、その真意はグッドコップの主張にあります(相手はバッドコップの主張がとおるとは思っていないし、もし通ったらホームラン級のラッキーだと感じるはずです)。
なので、対策側としては、バッドコップの非現実的な主張はいったん脇に置いて、グッドコップの主張を出発点としつつ、こちら側に有利な交渉を展開する必要があります。
具体的な対策
1.こちらもグッドコップとバッドコップに分かれる
これは、とてもわかりやすい方法で、相手の戦術をそのまんまコピーしてしまうというアイディアです。こちらの誰かをバッドコップに仕立てて互いのバッドコップ同士で争わせてしまえというものです。
見た目的に相当ハードな交渉に見えるかもしれませんが、ある意味でこれは「演出」なので、自分はバッドコップを演じているんだと冷静になれる方ならやってみる価値はあるでしょう。
2.「まるでグッドコップ・バッドコップ戦術のようですね」と言ってみる
この戦術は相手方に悟られると、悟った相手はバッドコップを無視するようになり効果が半減するので、
「まるでグッドコップ・バッドコップ戦術のようですね。当方としては策を講じず、真摯に交渉したいと思っていたのですが」
と言ってみれば、バッドコップの無理筋な主張が静かになるかもしれません。
3.バッドコップを無視してグッドコップとのマンツーマンの交渉に持ち込む
相手に「こちらは作戦を悟っていますよ」と伝えても、空気を読まないバッドコップの場合、引き続き無理難題を繰り返すかもしれません。
その場合、こちらとしてはバッドコップは物理的に無視しして、グッドコップとマンツーマンの交渉を繰り広げる必要があります。たとえば、
「(バッドコップ役の)●●様の主張はだいぶ非現実的だと思いますが、(グッドコップ役の)XX様はどのような見解ですか?」
とグッドコップ役に振ってみるのが一案です。
それでもバッドコップがうるさい場合には、
「いまは、XX様のご見解を確認したいと考えております」
と釘を刺す必要があるかもしれませんが。
4.持ち帰る
参加メンバーのバランスの都合で、どうしてもこちら側の交渉力の方が弱い場合は、バッドコップとグッドコップの主張は聞くものの、その場では何も決めずに、
「持ち帰って検討します」
と先送りにするのが良いと思います。
この戦術は対比からグッドコップの主張を「より良く見せている」わけですから、冷静に検討されるのは都合が悪いわけです。
さいごに
バッドコップ役にFAがなる場合、時には恫喝してくるようなFAも居ますが、その恫喝FAにペースを握られないように注意する必要があります。すなわち、恫喝FAに萎縮してしまったり、逆にこちらも逆上するなんていうのはあまりよろしくなく、おそらくは恫喝を聞き流すのが一番の得策だと思います。
(次回に続きます)