M&A案件において、買収監査=デュー・ディリジェンス(DD)は重要なプロセスのひとつです。
実際のDDの調査は弁護士・会計士・税理士等の専門家の先生方が進め、FAはQ&Aシートのやり取りやインタビューセッションの調整等のコーディネートを担当します。
DDのインタビューセッションではファシリテーターとしてFAが関与するのが一般的であり、FAとして色々なインタビューアー(質問者)を見ます。また、マネジメントインタビュー等では、FA自身が質問者となることもあります。
そのような中、質問者の良し悪しでセッションが時間内に終わるかという効率性の観点や重要なところまで聞けたかという有効性の観点で、だいぶ結果が変わってくるものだなと感じております。
そんなわけで、今日はどうすれば上手いインタビューができるかについて考えていきたいと思います。
インタビューが上手な質問者の共通点とは
1.常に相手を立てる・相手に気遣う
DDの専門家の皆様は国家資格を取得しており、世の中的に「先生」と呼ばれることも多いです。ゆえに、専門家の方も先生扱いに慣れ過ぎてしまい、上から目線で発言・行動してしまう方も相当数いらっしゃいます。
そういう上から目線の専門家が質問者になった場合、セッションの雰囲気はギクシャクしたりしてよろしくありません。
一方で、先生扱いから離れて「業者であることを自覚」している専門家の場合には、上手くインタビューを進めていきます。インタビューが上手い方は次のような工夫をしているように感じます。
セッションの冒頭でのお礼
上手い質問者の場合、セッションの冒頭で、
- 今回の機会を作っていただいたことへのお礼
- これまでの書面QAの回答のお礼
を述べ、感謝の意を示すことが多いです。
DDの対象会社(回答側)としても通常業務がある中で追加的にDDに協力している方がほとんどですので、質問者側としてこのようなお礼を述べるのは社会人として当たり前なのかもしれませんが、意外にこれをしない方も多いです。
といいますのも、逆に
「事前に書面で質問をやりとりしていますがほとんど回答が貰えてません」
とか言って、いきなりプレッシャーを与える方もいます。
DDは取り調べじゃないのですけども、と感じる一場面ですし、DDの受け側のFAで、相手方の専門家がそのような発言をした場合には、
「こちらも●●社様には通常業務もある中でご尽力頂いているところであり、先生方には些末な質問を省くといったもっと効率的な進め方を検討して頂きたいところですけども」
と切り返して、言われっぱなしを避けるようにしたりもします。
終了時間の厳守
インタビューセッションの時間は事前に、たとえば法務60分・財務税務90分の計150分といった感じで終わりの時間が区切られていることが普通です。
これは、回答側としても他の業務があり、インタビューセッションだけをやっているわけにはいきませんし、他のアポイントがある場合も多いからです。
しっかりとした質問者であれば、決められた質問時間を守ろうとしますし、仮にオーバーしそうな場合でも
「あとXX問なので、●分だけ延長することは可能ですか」
「残りの質問は、また書面Q&Aにまわします」
という具合に相手方に確認をしたり、工夫したりしていることがほとんどです。
一方、相手のことをあまり考えない質問者の場合、終了時間が来ても何ら気にせずに質問を続けたり、終了時間ができても漠然と「続けて良いですか」としか聞かなかったりします。
(もちろん、このような悪い質問者が相手だった場合は、受け側のFAとして「時間延長は不可」とか「●分だけ可能」といった切り返しをします)
セッション終了時のお礼
上手い質問者の場合、セッション終了時に
- 本日時間をとって多数回答して頂いたことへのお礼
- 今後も書面Q&Aが継続することへのお願い
をさらっと述べることが多いです。
こちらも当たり前のことかもしれませんが、この「お礼とお願い」ができない専門家が如何に多いことか・・・です。
2.セッションを効率的に進めるための工夫
DDのインタビューセッションは何十問も質問が列挙されていることが多いです。
なので、それに順番通りに回答していくとかなり時間を費やしますし、セッションが1回で終わらないこともしばしばです。そのような状況でも上手い質問者は効率的にセッションを進めます。
漠然とした難しい表現の質問は例を挙げる
Q&Aシートの質問項目だけ読むと、何を聞きたいのかわからない質問というのがあります。そのような場合、上手い質問者は、
「この質問の意図は、・・・という意味で、たとえば他社さんなんかでは、・・・といったことがありましたが、御社はいかがでしょうか?」
という具合に、質問を補足しながら進めます。
また、質問に難解な表現があったり専門用語が駆使されている場合には、もう少しかみ砕いて口語的な表現で質問の意図を言い換えたりするのも良い質問者の共通の特徴です。
別の質問で関連した回答が得られている場合は質問を調整する
別の質問の回答で他の質問の回答もあわせて聞けていたりすることもありますが、この場合、
「これは既に先ほど聞けているので割愛します」
という具合に、質問をカットするのが一般的です。
ただし、それが、重要ポイントの場合には少し観点を変えて、
「先ほどはこの質問に関連して・・・という回答がありましたが、・・・という観点ではいかがでしょうか」
と質問を展開していく場合もあります。これをやり過ぎるとしつこく感じられてしまうわけですが、上手い方は重要なポイントでのみこのような深掘りをするように感じます(全てにおいて絨毯爆撃されると回答側はとてもつかれますので)。
なお、事前質問に無いことところまで踏み込みすぎると、受け側も回答を準備していないこともあるので、そのような場合には受け側FAとして
「事前質問から外れつつあり、XX社側としても回答を準備する都合、改めて書面Q&Aで回答させて頂きたいと思います」
と質問を切ることもありますが、上手い質問者は、「可能であればでOKですが」とか「これ以上は細かくなるので、書面にまわします」といった具合に、回答者の準備状況から空気を読んで調整をしてくれます。
3.各専門家の横断的な参加
こちらは、DDインタビューセッションのコーディネーターであるFAの裁量による部分もありますが、各DDセッションにおいてそれぞれの専門家が横断的に参加できるようアレンジすることもセッションを上手く進めるための工夫の一つです。
たとえば、本来弁護士の先生が主体的にヒアリングをすることになる法務インタビューセッションに、会計士・税理士の先生の一部メンバーにも同席頂くといったアイディアです。
メリット
他の専門家のインタビューセッションに別の専門家に同席して頂くメリットは、より実効的な調査ができるということでしょう。
たとえば、法務DDにおいて潜在債務が論点になった場合、会計的な金額インパクトの調査は会計士の先生の領域になることもあります。この点において、会計士の先生が会計インタビューにて潜在債務の論点をイチからヒアリングすることになると、売手側としては相応の負担となりますし、仮に会計士の先生が潜在債務の論点を見逃すことは無くても後回しにしてしまう可能性もあるわけです。そのような中で、法務セッションに参加しておけば、それがアラートになって会計面での調査の有効性と効率性が上がるというわけです。
デメリット
他の専門家のインタビューセッションに別の専門家に同席して頂くデメリットは、
- 買手のコスト負担
に尽きるでしょう。専門家の先生方の報酬体系はメーター制であることが多いため、直接はヒアリングしないインタビューであっても、ぞろぞろと先生方が参加してしまうとそれなりのメーターがまわります。
なので、一般的には若干名の中堅〜若手の先生方をピンポイントで派遣しておくファームがファームが多いように感じます。
この点において、時間やコストの都合でどうしても他の専門家セッションに参加できない先生方が出てきた場合には、FAが他の専門家セッションで重要な論点があった場合にアラート的な連絡をすることが必要になることもあります(なので、FAとしてDDのインタビューセッションで何が重要な論点であったのかをしっかりとつかんでおくことが重要です)。
さいごに
インタビューアーの良し悪しはDDのパフォーマンスに影響しますし、受け側としてあまりにもDD実施側の専門家がよろしくない場合には相手方のFAにクレームを申し入れることもあります。一方で、インタビューをスムーズに展開してくれる上手い専門家の場合、機会があればこちら側で一緒に協働したいと思ったりもします。
FAとしては、実施側か受け側かによらず、参加者がスムーズにセッションを進められるよう、適切に専門家を誘導していきたいところです。