FAの仕事をする上で大切なことはたくさんありますが、クライアントとしっかりとした信頼関係を構築することはかなり重要なことです。
ただし、単にゴマをすったり宴席攻撃をするというのは適切ではなく、「案件を通じて気づいたら信頼関係が築かれていた」という状況が望ましいとは思います。
前回の記事でも触れましたが、FA業務で何らかの失敗をしてしまった場合にも、信頼関係が築かれているクライアントの場合には、大事にならずに、
「まあ、いつも頑張ってくれているから、次から気をつけてくださいね」
と言っていただけることもありますので、信頼関係の構築は大切なわけです。
どうすればクライアントに信頼していただけるか
ここからは、どうすればクライアントに信頼していただけるのかを考えていきたいと思います。
案件ごとにクライアントの属性は異なり、なかなか一般論では語れない部分もありますが、大まかな傾向としてこのように行動していれば自然と信頼関係が構築されていくだろうなというポイントを挙げていきます。
常にタイムリーに反応する
実際には複数の案件が並行してる時が多いのですが、クライアントに対しては、
「常に御社の案件に全力投球です!」
という態度を見せる必要があります。
とにかく反応だけでもしておく
そのため、電話やメールをいただいた際には、すぐに反応・返信するように心掛けます。仮に込み入った論点についての質問で、確認しないと即答できないような場合であっても、
「その論点は少し調査したいので、●●頃に改めて連絡します」
と反応しておくことが大切です。
クライアントとしては、高いアドバイザリー手数料を払っているのに、連絡してから数時間も放置されてしまっては、
「このアドバイザーは、やる気があるのかねえ」
と訝しがることでしょう。
チームメンバーに代理応答してもらうというアイディアも
他の案件との都合で、どうしてもいつもの担当窓口のメンバーが反応できない場合には、事前に社内メンバー宛のメールで代理応答の依頼等をしておき、別のメンバーから、
「後ほど、●●から改めて連絡しますが、下記ご依頼につき、承知しました」
と、クライアントへ代理応答しておくのが望ましいでしょう。
いずれにせよ、要は、いつもアドバイザーが身近にいるのだなというイメージを持っていただけるように努めるということです。身近にいても中身が伴っていなければ結局は意味がないのですが、そもそも身近に感じられないアドバイザーでは、信頼獲得の勝負の土俵に乗ることができないというわけです。
過去の経験をふまえて、クライアントの疑問に即答する
M&A案件では、法規制や会計・税務の論点が頻出しますし、法規制や会計税務以外にも、相手方との交渉方針や株主対応等、検討すべき論点は山積みとなります。
なので、クライアントとの会議や電話において、そのような論点への対応方針について質問されることはよくある話です。
あるべきFAの対応
その際に、
「類似案件では、そのような場合に●●といった方針で動いていましたが、直近の法改正を踏まえると、●●としておいた方が良いと思いますので、その方針で差し支えないかどうか、後ほど弁護士の先生へ確認しておきます」
という感じで、端的に捌いていければ、
「このFAさんに任せておけば比較的楽に案件が進んでいくな」
と思っていただけることが多いです。
ダメなFAの対応
一方で、クライアントの疑問に対して、
「恐れ入りますが、法務のアドバイスは弁護士でなければできませんので、それは弁護士の先生方に聞いていただくのが宜しいかと思います」
という感じで、”逃げの姿勢”を示すと、
「このFAは使えないなあ」
と思われることでしょう。
仮にわからない論点であったとしても、弁護士の先生へつなぐなり、電話会議をアレンジするなりとFAとしてやれることはあるはずですから、とにかくクライアントの負担が減るように最大限尽力すべきでしょう。
クライアントにとっては、FAに疑問点を投げておけばあとは上手く解決しておいてくれるという体制になっておくことが望ましいわけですから、クライアントと専門家のハブとして機能することも大切です。
相手方との交渉を丁寧にサポートする
単純な株式買収をはじめとして、M&A案件では必ず取引の相手方との交渉フェーズがやってきます。そのようなタフな場面こそ、FAの存在価値の発揮どころです。
相手方のFAには負けない
売手と買手の交渉で、双方がFAを立てている場合に、4社面談での交渉がなされることがあります。
その際に、少なくとも相手方のFAに負けない交渉をすることが求められます。
仮に自分のクライアントの立場が弱い場合であっても精一杯交渉をする必要があります。
どうやら、クライアントがFA同士の交渉を見ていると、どちらのFAの方が良い交渉をしているのかは一目瞭然のようですので、ここは頑張りどころな訳です。
時には嫌なFAに徹する
さらに過酷な交渉になると、相手方のプリンシパルや弁護士に対して、嫌なFAを演じる必要があることもあります。
特に立場が弱い側が自分たちからは言いにくいことをFAから言ってほしいと依頼されることがあります。
このような場合にも、クライアントと事前に役割分担をよく協議しておき、ある意味で「バッドコップ」を演じる必要があるわけです。
相手方からは物わかりの悪いFAだなと思われたとしても結果的に少しでも自社のクライアントが良い条件で契約できるように尽力するわけです。
なお、このような場合でも単に物わかりの悪いFAということではなく、ある程度しっかりとしたロジックを持ってサポートすべきですので、無理筋の場合もありますが、とにかく使える論拠は徹底して使うという姿勢が大切です。
さいごに
クライアントとの信頼関係の構築はいろいろなやり方があるのでしょうけれども、いずれにせよ、クライアントのために尽力しているということを態度を通じて示すと言うことが大切です。
さらに言えば、単にアドバイザーが身近にいるだけではなく、「有能な」アドバイザーとして身近にいるというのがポイントなのだと思います。
相手との信頼関係が構築されていけば、案件中に難しい判断を迫られたタイミングでも、
「あのアドバイザーさんが側にいてそう言っているのであれば、ここはひとつやってみましょうか」
といっていただける日が来るかもしれません。