今日は、M&Aアドバイザリー(FA業務)の中途採用の最後の決め手について考えてみます。
前回の記事で、M&Aアドバイザリー(FA業務)の中途採用ので重視される要素について挙げてみました。
- これまでの職歴
- 頭の回転のはやさ
- 若さ
- 資格
(前回の記事)
しかし、これらの要素がほぼパーフェクトであったとしても、面接が通らない人もいますし、逆にこれらの要素のいくつかが不十分であってもオファーが貰えるひともいるように感じます。
つまり、中途採用で内定が出るかどうかの「最後の決め手」はこれらの要素ではなく、別のものということだと思います。
では、その要素とは何なのかを考えていきたいと思います。
この人にウチの看板を背負わせてクライアントの前に出して大丈夫か
まずは結論ですが、結局のところ面接官が最終的に思うのは、
ということに尽きると考えています。
面接官がこれを最終ジャッジのよりどころにする理由は次の2つの観点からです。
- クライアントにとってM&Aは重要な経営判断事項で無理難題をFAに頼む傾向(クライアントは個人名でなく社名(看板)でその証券会社を判断する)
- シニアバンカーは案件をコントロールするのが仕事であり、その動き方次第で案件の方向性が相当変わる
これ以降で、それぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。
(1)事業会社にとって「このM&A」は一球入魂
M&A案件というのは、FAからしてみればたまたま担当することになった「ひとつの案件」なのかもしれません。
一方で、クライアントにとってはその案件の規模の大小はあっても、社運をかけた取り組みです。なので、クライアントの皆様はほぼ例外なく真剣勝負でM&Aに挑んでいます。
そのような状況ですので、クライアントはFAに対して無理難題といいますか、なかなか対応に苦慮するようなことをおっしゃってくるケースもあります。
そういう場合であっても、クライアントの利益になるご要望ならば「クライアントファースト」の精神で対応していくことになります。
ところが、人によってはそうはならずに、夜とか休日だからメールを見てませんでしたという理由で、クライアントからのリクエストにタイムリーに対応できない場合があります。
そうなると、クライアントとしては
「高い手数料をかけて起用しているのに、何もしてくれないこのFAはいかがなものか」
とご立腹されます。
まあ、ここまで分かりやすいエラーではないにせよ、FA業務の境界線をしっかりと引いて、そこから逸脱するようなリクエストには応じないというスタンスで仕事をする人も居ます。そのような人の場合も、やはりクライアントとしては
「使い勝手の悪いFAだな」
という印象を抱いてしまわれます。
もちろん、FAとしてできることとできないことはあり、全部について「Yes」と言う必要はないですが、「No」を伝えるにしても、「物は言いよう」であり、上手くコミュニケーションを取る必要があります。
いずれにせよ、クライアントは担当者各人ではなく、「●●証券の人」という具合にFAを見ますので、各担当者は会社の看板を背負って業務をしているという自覚が必要ですし、対応をミスすれば出入禁止になるかもしれないという覚悟をもって仕事をするべきです。
(2)シニアバンカーは案件をコントロールするのが仕事
FAのジュニアの仕事とシニアの仕事
FAのジュニアは、各種プレゼンやValuationモデルの作成が主たる仕事です。
一方で、VP以上のシニアの仕事は、主にクライアント対応となります。担当案件のクライアントから刻々と投げられる「疑問質問要望(タマ)」に対して、適切に捌きつつ、危険なタマが飛んでこないように事前にクライアントを誘導する等の役割が求められます。
これはつまり、M&Aに関する法規制や、会計・税務を知ってるかどうかという次元ではなく、もっと別の資質になってきます。
自分で判断して案件をコントロールできるか
M&Aの案件は、売手と売手のFA、買手と買手のFA、さらにその専門家等も含めるとたくさんのチームが関与します。
そして、それぞれのチームは自社の思惑で動くので、誰かが適正にコントロールしていかないと無法地帯になりかねません。しかも、普通はコントロールしようとするFAが売手と買手の双方で起用されるので、コントロールしようと思う主体も複数いるような状況です。
そのような中であっても、FAはクライアントの利益を最大化するように動く必要があります。
すなわち、FAは、どうすれば各当事者が納得して案件を進められるのかを考えて、それを各当事者へ提示・協議・交渉し、各当事者の合意を得て案件をすすめることになるわけです。
実際のところ、各当事者がワイワイ・ガヤガヤと言ってくる漠然とした不満や疑問を整理して明確化して、それに対して、全ての当事者が「一応は承諾する」レベルの解決案を提示し、それを実行していくのはかなり骨が折れます(適時に適切な判断を下し、それを適正なコミュニケーションで各人の合意を取り付ける必要があります)。
ここで下手を打つと、案件がブレークしたり、そうでなくても案件の遅延や各当事者間で軋轢が生じたりしますので、そうならないように、いかに案件をドライブしていくのかというのがシニアバンカーの腕の見せ所です。
では面接官はどうやってジャッジするの?
FAとして重視される4要素は後付け!?
中途採用で、決め手となる要素は分かったとしても、その「この人は大丈夫か?」というものは定量的にといいますか、客観的に判断する軸というのがあるわけではありません。
おそらくは面接官の直感といいますか、これまで見てきた人材タイプのうち、どのタイプに分けられるのかを判断し、質問をしてコミュニケーションを取る中でFA業務の適正のありやなしやを決めているのだと思います。
もちろん、採用の判断を「私の直感です」とは書けないので面接記録にはもっともらしく
「経験がある・知識がある・資格がある」
といった客観的にも分かりやすいことで説明を付けますが、その背景には、
「この人は大丈夫そうだから推したい」
という潜在的な気持ちがあると感じています(採用時に重視される4要素は後付けとして機能している面もあると思います)。
それって結局、運じゃないですか! → そんなことはない
これでは、その面接官との相性で決まってしまう部分があり、かなり運に左右される側面が大きいと思われるかもしれません。
でも、運だけでは、おそらくは突破できません。
なぜならば、面接官は複数存在しており、何度も面接を繰り返すことになりますので、色々なタイプの面接官からOKをもらう必要があります。
たまたま得意なタイプの面接官とは上手く面接できたとしても、別のタイプの面接官にもOKをもらわなければならないので、やっぱりそこは
「運や相性を超えた何か」
がないと乗り越えられません。
結局、判断力やコミュニケーション能力はどうやって確認しているの?
普通面接では、
「あなたには判断力はありますか?」
とか
「あなたはコミュニケーション能力が高いですか?」
という単純な質問をされることはないと思います。
その代わりに、たとえば
「現在の仕事での成功体験と失敗体験を説明して下さい」
といった質問であれば、その回答を聞きながら、
(それぞれのイベントでこの人はどのように判断し、どのように周りに働きかけていたのか?)
ということを類推しながら話を聞いているのだと思います。
なので、応募者側ができることと言えば、
- 面接でのコミュニケーションそのもので自分のコミュニケーション能力の高さをアピールする
- 質問への回答内容で自分の判断力やその他のFA業務の適性を「適正に(過度になったりわざとらしくならずに)」アピールする
といったことになろうかと思います。
さいごに
判断力があるかとかコミュニケーション能力があるのかというのは、TOEIC900点みたいなスコア化されるものではなく、判断軸はとてもわかりにくいです。
それでも、複数の面接官が見て、
「あの人良いね」
というのは大体似通ってくるので、FA業務に適性がある人とない人をジャッジする基準は見にくいですが何かあるのだと思います。
また、別の機会に判断力とコミュニケーション能力の具体的なところをいろいろと考えてみたいと思います。