チームプレイとしてのM&Aアドバイザリー(FA)の仕事(後編)

M&Aとキャリア
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今回は前回に引き続き、チームプレイとしてのM&Aアドバイザリーの仕事について考えていきましょう。

(前回の記事)

チームプレイとしてのM&Aアドバイザリー(FA)の仕事(前編)
M&Aアドバイザリーのうち、フィナンシャルアドバイザー(FA)の仕事は証券会社の看板を背負ったチームプレイです。 ここでいうチームプレイとは、一般的には「ディレクター、VP、アソシエイト、アナリスト」から構成される複数人で役割分担をして案件...

前回はM&AアドバイザリーのFAの仕事がチームプレイになる理由を探ってみました。

今回は、良いチームと悪いチームについて考えていきたいと思います。

このチームに仕事を任せて良かったと思われるために

1.証券会社の看板への信頼に応える

M&Aアドバイザリー業務というのは依頼すること(対価を払うもの)が見にくい知的業務です。

たとえば、株式や債券を買うのであれば、ネット証券で買っても大手証券で買っても「●●社の株式」という意味では同じものが買えます。なので単純に手数料の差やサポートの良さでどの証券会社を使おうかという比較論になりやすいものだと思います。

一方で、M&Aアドバイザリーの場合、サービス内容が会社ごと(いや、チームごと)に相応に異なります。また、会社として支払う対価(FAにとっての報酬)がどのように算出されるのかを明確に定めた計算式も特にありません(レーマンテーブルなんてのもありますが、あくまでも「ご参考」だと思います)。

そんな中で事業会社が証券会社をFAとして起用するのは、会社として善管注意義務を果たしつつしっかりとM&A案件の検討を進めたという説明責任を果たすためという側面があるのはもちろんですが、やはり餅は餅屋といいますか、FA抜きでM&Aを自前でやりとげるよりは、証券会社に頼んだ方がトータルで良い結果になると思っているからではないでしょうか。

すなわち、「●●社のFAならしっかりと仕事をしてくれるはずだ」という期待に応えるためにも、証券会社側としてはしっかりとしたチームを組成して案件に取り組み、クライアントの期待値を超える成果を上げる必要があります。

2.良いチームであるために

(1)ミスがあってはならないのでチームとしてのチェック体制が重要

FAの仕事はミスが致命傷になる場合があります。法令や規則で定められている手続を漏らしてしまえば、効力が発生しないなどということもあり得ますので、ミス無く着実に手続を進めていく必要があります。

人間ですから、誰でもミスをする可能性はあり、それを防ぐ体制という意味でもチームでチェック体制を取りながら仕事をすることが必要です。

(2)手を動かす人と口を動かす人を分ける

FAの仕事は「作業」も多いので、手を動かすジュニアメンバーと口を動かすシニアメンバーが混在するチームで仕事をするのが原則です。

ときどき、何でもできる優秀なシニアがDDサポートからValuation等を含めて手を動かしてしまうケースもありますが、突発的・緊急的でない限りはそれらはジュニアに任せてシニアはそのチェックをしてクライアント報告のために尽力すべきでしょう(でないと、ミスを防げませんし、ジュニアも育ちません)。

また、優秀な経験知のあるジュニアが居れば、若手だけでもFAのチームになるのかもしれませんが、日本的な企業がクライアントの場合、ある程度の役職・年齢がないと、そもそも話を聞いてもらいにくいという側面があるため、優秀なジュニアが居たとしてもシニアメンバーに口を動かすのを預ける必要があることもままあります(歯がゆいかもしれませんが)。

(3)チーム内の見解を統一化するためのディスカッションを繰り返す

ミスを防ぎ、手と口を分けたチームを有機的に動かすためには、チームとして全てのメンバーが一定のレベルで状況を共有しておく必要があります。

なので、それなりの頻度でチームとしての協議を繰り返して、現状を確認しつつ今後起こり得る論点・争点への対応方針をブレスト的に話し合っておく必要があります。

また、チーム内でしっかりと意見交換をするためには、職位に関係なく

「良い内容を言った者が素晴らしい」

という風土を醸成しておく必要があり、これはシニアメンバーの重要な仕事です。

また、チーム内であれば、どれだけ間違ったことを言っても良いという意識を持たせないと、発言しにくくなるという面もあるので、シニアは敢えて間違ってみるということも必要かもしれません。

3.こんなチームには案件を任せたくない!?

次に、悪いチームとはどんなものかを見ていきましょう。

ただし、良いチームは同じような特徴があるのかもしれませんが、悪いチームにはそれぞれの悪しき原因があるようですので、一例としてお考えいただければと思います。

(1)チームメンバーをディスる

たとえば、ディレクターがクライアントの前で自分の部下のミスや失敗を

  •  こいつはまだ経験が浅くて・・・
  •  彼がタイムリーに反応できなくて・・・
  •  資料のできが悪いので、ポイントをまとめますと・・・

といって、フォローすることがあり、そのフォローの枕詞はない方が・・・と感じたものです。
無意識なのかもしれませんが、ディレクター氏は部下の失敗の言い訳を自身の発言に含めてしまっております。
クライアントからすれば、それは部下の失敗ではなくチームの失敗であり、チームの責任者であるディレクターの落ち度と理解するはずです。

(2)チーム内で見解が割れる

これは、もうちょっと本質的な話なのですが、たとえば、買収ストラクチャーの論点についてクライアントとディスカッションしているときに、進行役のVPの説明が不明瞭・不正確であった場合に、(実質的にそのVPよりも頭の切れる)アソシエイトが

「●●さん、それは違うと思います。正確には、・・・だと思うのですが」

とチーム内の見解を崩すような発言をすることがあります。このような発言もクライアントからしてみたら、

「いったい、どれが本当なんだろうか。おそらく、このアソシエイト氏が言うことの方が正しいのだろうけども。そうだとすると、このチームは事前にチーム内で見解を統一せずに会議に臨んだろうか」

と思うわけです。

上長が部下の発言を訂正するならば、それは好ましくないものの、クライアントとしても、 「まあ、ディレクター・VPさんがいうことの方が正しいよね」
と理解しますが、部下が上長を刺すような発言をすると、チーム全体の信頼性に疑問がつきかねません。

特に頭の切れる若いアナ・アソにありがちが行動で、本人は自分の正しい知見を披露できて満足なのかもしれませんが、チームプレイとしてはよろしくない行動です。

上長が誤った発言をした場合の軌道修正としては、

  • 誤りが致命的な論点であれば、(制度の改正があった等の理由をつけて)持ち帰って確認したいところがあると告げる
  • 致命的な部分でなければ、会議後にチームメンバーのみに要修正の論点があると協議する

として、上長の発言を完全否定しない方が望ましいと思います。

(3)若手が勝手に謝罪する

これは、クライアントが特に歴史の長い日本的な会社の場合にあり得る話ですが、チームとして何らかのミスなどがあって、その説明・謝罪等をする必要がある場合、アソ・アナレベルだけで謝罪をすると、クライアントの怒りを買いかねません。
特にミスの影響がある程度大きい場合には、そのダメージコントロールを含めて、DやVPの判断を踏まえて謝罪方針を考えるべきなので、困ったら上長に相談・確認する方がいいでしょう。
(参考記事)

プロジェクトリーダーの主な仕事は謝罪と立て直し
人間誰でもミスをします。どんなに気をつけていても、ミスがゼロになるということはないのではないでしょうか。 個人的にもジュニアの時代に何度が大きなミスをしてしまった記憶があり、その際に、当時のプロジェクトリーダーが謝っていた場面も併せて覚えて...

さいごに

FAの仕事をしていると、他社のFAチームとのミーティングに参加することもよくあります。
何回かミーティングを繰り返していると、その他社のチームのクセといいますか特徴が見えてきたりします。
どのチームも良い部分もあればよろしくない部分もあります。
個人的には、他社の良い面は積極的に取り入れていき、よろしくない面は他山の石とするという対応がベターかと思っております。

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