今回はいつもの先輩と後輩に登場していただき、FAを起用する側の事業会社の皆様にとって良いFAの条件について考えてみます。
文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です。
どんなFAなら良いだろうか
◎ここのところ、毎年M&Aの件数が多い状況が続いていますよね。
◆◆そうだね。
◎それと同時に、M&Aアドバイザリー業務の中の、FAの仕事をやる会社も増えてきていますよね。
◆◆うん。
◎私たちのような証券会社をはじめとして、銀行、会計事務所、独立系ファーム等、いろんなプレイヤーが増えてきていると感じます。
◆◆これだけM&Aアドバイザリーファームが増えてくると、雇う側の事業会社も、どうしたら良いFAを起用できるかということを考えるよね。
◎良いFAの条件ってどんな点なのか考えてみたいですね。
専門知識が十分か?
◆◆それじゃ、考えてみようか。まずはM&Aに関して網羅的に知識を持っていることだね。
◎法規制や会計・税務を暗記しているということですか?
◆◆全てを暗記しておく必要はないものの、案件のタイプごとに、どこに主要論点があるのかは即答できる必要があるよね。
◎たとえば、税務の適格・非適格の話なんかは基本でしょうかね。
◆◆そうだね。クライアントの方々は税務のキャッシュアウトがあるかはかなり気にするから、そのあたりは基本だよね。
◎ところで、アドバイザーを起用する側の事業会社として、どうやったらそのFA候補の知識が十分かどうかを判断できるのでしょうか。
◆◆まずは、質問をしてみることだね。特定の案件について起用を検討しているのならば、その案件に関する法規制・会計・税務において留意しておくべきことは何かの概要をざっくり聞いてみるのも悪くないね。
◎まあ、まずは質問してみるってことですよね。
◆◆特に複数のFA候補を呼んで、各社にプレゼンさせる、いわゆるビューティーコンテストのようなものをする場合、ある候補が指摘してきた論点を別の候補が指摘しなかったりということもあるらしいからね。
◎なるほど、FA候補間の知識の比較でもって判断するのですね。
◆◆そういうことだね。
類似案件の経験は十分にあるか?
◎他には、良いFAとしての資質にはどういうものがあるのでしょうか。
◆◆知識と同程度に重要なのが経験だよね。
◎なるほど。
◆◆M&A案件は全く同じ物はひとつとしてないのだけれども、そうは言っても類似する案件ってあるよね。
◎業界、規模、そしてスキームだったりが類似するということですね?
◆◆そういうこと。M&Aを進めていくと、あらゆるところに「落とし穴(見逃しがちな重要論点)」があるんだけど、類似案件を経験していると前もってその落とし穴にはまらないように気をつけられるからね。
◎そういう意味では、やっぱり大手の会社の方がいいのでしょうか。
◆◆うーん、それはコメントが難しいね。大手でも実は類似案件の経験がない担当者に当たることもあるし、中小規模のアドバイザーファームでも経験豊富な方もいるからね。
◎アドバイザリーファームの看板第一主義というよりは、実際の担当者の資質を確認することが大事だってことですね。
良いチーム組成ができるか?
◆◆そういう意味では、次の資質として必要なチームが組成ができるかということも重要な資質だね。
◎チーム組成ですか?
FAの内部チームの観点
◆◆まず、M&Aアドバイザリーの案件は個人で担当するわけじゃなくて、チームで担当するよね。
◎ディレクターからはじまり、VP、アソシエイト、アナリストという感じで複数人で担当しますね。
◆◆その際に、アドバイザーの社内チームが上手く機能するようにコーディネートしているのかっていうのも重要な判断ポイントだよね。
外部専門家との協働の観点
◎なるほど、チーム組成っていう意味では、どんな外部専門家を紹介できるかというのもありそうですね。
◆◆確かにそうかもね。証券会社は法規制・会計・税務の最終ジャッジに関するアドバイスは、業法上できないから、その点は外部専門家の助言を求めるからね。
◎そのときに適切な外部専門家を紹介できるかどうかっていうのも大事だと思うんです。
◆◆FA自身の手に負えない専門的な部分になった際に、勝手判断で適当な回答をせず、良い専門家につなげられるかということは重要ポイントだよね。
◎その案件タイプに対して、経験豊富な専門家とチームが組めるかってことですよね。私の目から見ても、できる専門家の先生とそうではない先生とでは、かなりの差があるのがわかりますから。
◆◆M&Aに不慣れな弁護士先生がついて契約交渉で参ってしまうということもあり得るからねえ。
専門家との通訳ができるか?
◆◆さらに言うと、専門家との通訳ができるかというのも大事な資質だね。
◎それはどういう意味ですか?
◆◆専門家の先生は、どうしても難しく話しがちなんだよね、専門用語を駆使したり早口だったり。また、クライアントの皆様も専門家の先生が言うことが十分理解できなくても、そのままで質問をしないこともあるんだ。
◎ふむ。
◆◆そして、その後なぜか僕らに「専門家の先生方が言っていたことが実はわからないんですけど」という話をしてきたりするんだよね。
◎たしかにそんなときってありますね。クライアントの方が思う純粋な疑問を専門家に効率よく確認し、また簡単な言葉でクライアントに戻せるかというのも大事ですね。
◆◆要は、専門家を含むチームを組成するだけではなく、その潤滑油として動けるかということだね。
良いネットワークがあるか
◆◆そういうことだね。そして、最後に良いネットワークを持っているかということも重要だね。
◎その観点だと証券会社のFAの方が有利ですかね。
◆◆基本的にはそうかもね。たとえば、売手のアドバイザーについたとして、限定的な入札案件をするという前提で買手候補を募る時にどうやって買手候補を見つける?
◎まずは、売り主が希望する相手をリスト化して、その候補先にアプローチしますよね。
◆◆そのときに、候補先の適切な役職者へダイレクトに繋げられるかというのはとても大事なんだ。
◎「M&A案件がありますよ」といって、候補先の代表電話にかけるわけにはいかないですからね。
◆◆そういう時に、証券会社の組織の力はかなり役立つよね。
◎カバレッジを抱えていますからね。
◆◆とはいえ、大手でも担当者によっては自社のネットワークを生かし切れないこともあったりするし、独立系のファームでも、良質なネットワーク構築に努めているところもあるから、あくまでも傾向でしかないけどね。
◎その点でも、実際のFA候補に色々と質問して行くことが重要ですかね。たとえば「この具体的な候補先ですが、どのようにアプローチする予定ですか?」と確認してみるとかですね。
◆◆そうだね。
さいごに
FAの成功報酬体系の手数料は起用する側の事業会社にとっては大きな金額になります。なので、できる限り良いFAを起用したいと考えるのは当然のことだと思います。
そのためには、とにかく色々な観点で質問をして、各候補先を比較するのが大事だと思います。