週刊M&Aバンカー第32号:全員バッドコップ戦術

週刊M&Aバンカー
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さて、3月が始まりました。はるか昔の学生の頃は春休みは宿題もないし、4月からの新しい生活がどんな風になるだろうかとワクワクしていたような気がしますが、社会人になってからは毎年あまり変わり映えがなく、そういったワクワク感はなくなってしまったように感じます。

さて、今週は、

【仕事術】全員バッドコップ戦術

です。

いつもの先輩と後輩の対話記事にしたてております。

(文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です)

【仕事術】全員バッドコップ戦術

◎先輩、こんにちは。先日、株式譲渡契約の交渉に立ち会ったのですが、契約交渉は何回経験しても難しく、そして新しい発見がありますね。

◆◆そうだね。株式譲渡契約の交渉の方がTOB価格や経営統合比率の交渉よりも数段疲れるというか、譲渡金額で折り合えた後も、契約条件の詰めでいくつも論点が残るよね。ゆえに毎度反省点もいろいろあるけども。

◎今回経験した中で興味深かったのは、

全員バッドコップ戦術

とでも呼べるような交渉戦術を使ったことですね。

◆◆なかなかセンセーショナルなネーミングだね。

全員バッドコップ戦術

◎もちろん、こんな名前の交渉戦術があるわけじゃなくて、私が勝手に名付けているだけなんですけど。

◆◆そうだろうね。初めて聞いたもん。

◎そもそも、グッドコップ・バッドコップ戦術というのは、ハイボールを投げつけるバッドコップ役と落とし所と見せかけての当方に有利な選択肢を提示するグッドコップにわかれるじゃないですか。

(参考記事)

M&A交渉術(7) グッドコップ・バッドコップ戦術
M&Aアドバイザリーの仕事で活用できそうな交渉術を説明していこうという企画の第7回目の記事です。 今回は「グッドコップ・バッドコップ戦術」について考えていきます。 グッドコップ・バッドコップ戦術とは、警察に逮捕された者に...

◆◆そうだね。白熱した議論がなされたところで、グッドコップ役が穏やかな口調で落とし所を提示するよね。

◎それが、今回経験した全員バッドコップ戦術というのは、

  • 交渉時にハイボールを投げ続けて、妥協する気配を見せない
  • 弁護士・FA等の代理人にバッドコップを演じさせる
  • プリンシパルの意思決定権者は不在とする

というものだったんです。

◆◆プリンシパル(クライアント)は同席しなかったの?

◎クライアントも同席したのですが、意思決定権限を持った方は不在として、担当者レベルだけが同席した感じです。

◆◆なるほど。感覚的にはそういう交渉方法もあり得るような気がするけど、一切譲らないとなると、相手方が交渉慣れしていないと危ないような気がする。

全員バッドコップ戦術の使い所はとても難しい

◎それなんですよ。我々のクライアントに全員バッドコップ戦術を提案した当方側の弁護士は、

「これは、要は出来レースといいますか、初回は専門家が頑張ってクライアントに良い格好をする場面なので、当方と相手方の双方が全員でバッドコップ的に動けば良いんですよ」

とおっしゃっていたのですが、相手方の弁護士もFAもそこまで交渉に慣れていなかったみたいでして・・・。

◆◆簡単に言うと怒っちゃったわけだね?

◎ええ、そのとおりです。交渉が始まった直後からこちらのハイボールに対応し続けた相手方のFAが途中でキャパシティを超え、テンパっちゃって、もう大変でしたよ。

◆◆なるほど、お察しするよ。

◎交渉の内容という観点では、我々は負けなかったものの、場の雰囲気は最悪でしたね。

◆◆おそらく、全員バッドコップ戦術が有効なのはお互い交渉慣れしていて、セレモニーとしてそういう進め方が双方のクライアント目線で必要なケースだけかな。普通はバッドコップとグッドコップは同時にセットした方が良いのだろうね。

◎それはひしひしと感じました。

もし、相手方が全員バッドコップだったらどうする?

◎ちなみに、今回はこちらが全員バッドコップ戦術を使ったのですが、もし相手方が全員バッドコップ戦術を使ってきた場合はどうやって対処したら良いんですかね?

◆◆個人的には全員がバッドコップでグッドコップ役がおらず、落とし所が全く示されない交渉をしたことがないから確実なことは言えないものの、

  1. 相手と同じことをする(こちらが譲るのは相手が何かを譲った時だけにする)
  2. 全員バッドコップ戦術みたいですねと感想を述べる
  3. プリンシパル同士で話をしてもらう
  4. その日は何ら進捗がなくてもよしとする(持ち帰る)

という感じでかなあ。

◎なるほど、基本的にグッドコップ・バッドコップ戦術の対応策に似てますね。

◆◆まあ、そうなるだろうね。

1. 相手と同じことをする(こちらが譲るのは相手が何かを譲った時だけにする)

◆◆まず、基本戦術は相手と同じように行動することだよね。交渉開始後ある程度会話すれば相手のスタンスはなんとなくみえてくるので、バッドコップ的な戦術をとっているようであれば、こちらも同じようにハイボールを投げてみるってところかな。

◎そもそも、全員バッドコップじゃなくて、普通のグッドコップ・バッドコップ戦術かもしれませんよね。交渉の序盤では、グッドコップがいるのかいないのかはわかりませんから。

◆◆それはたしかにそうだね。いずれであっても対処できるように、こちらもバッドコップ的に動いておき、何かを譲るときには相手方が譲る姿勢を見せた時だけにすることが大事だよね。

2. 全員バッドコップ戦術みたいですねと感想を述べる

◆◆次は、「グッドコップ・バッドコップ戦術みたいですね」と述べることになるね。

◎さらに、「今回はグッドコップさんが不在なんですかね?」と追い討ちをかける感じですか?

◆◆そんな感じかな。要は、戦術は見抜いているから、もう”化かし合い”はやめて、真摯に交渉しませんか?っていう提案をすることが大事だよ。

3. プリンシパル同士で話をしてもらう

◆◆これは使えるかどうかは状況次第なんだけども、「全員バッドコップ」というのは双方のプリンシパルまでが演じるってことは、事業会社同士のM&Aの場合はあまり多くないと思うんだよね。

◎それはそうかもしれませんね。ある意味で”性格の悪い”ひとを演じなきゃなりませんから、事業会社の方がそれをすることは負担がありそうですし。

◆◆そうそう、化かし合いはFA・弁護士のようなそれを生業としている人たちだけがすることが多いから、敢えてそのレイヤーをすっ飛ばして、プリンシパル同士の会話に持ち込むという対応策が効くケースもあると思うんだ。

◎たしかに、片方のプリンシパルが話し出したら、相手方のプリンシパルも会話に参加しなければならないような雰囲気になりやすいですし。

◆◆そういう意味では、交渉の参加者を確認した際に、相手方のプリンシパルが明らかに役職の低めの人しか出てこない場合には、ちょっと気をつけた方がいいかな。

◎なるほど、それは次からチェックしていこうと思います。

4. その日は何ら進捗がなくてもよしとする(持ち帰る)

◆◆最後に、こちらがどう対応しても、相手が全員バッドコップであることをやめないなら、さっさと交渉を打ち切るとか、最後まで付き合うにしても何ら進捗がなくて、物別れに終わってもいいかくらいに思っておくことが大事だよね。

◎要は、双方歩み寄らず決まらないなら、持ち帰って冷静に考えましょうってかんじですよね。

◆◆そのとおりだよ。持ち帰る際には、

「今回はほとんど進捗がなく、お互い時間がもったいなかったという側面もあるので、次回は同じことを繰り返すことのないように、それぞれ歩み寄れるところをしっかりと持ち合いましょう」

という感じに、苦言のひとつでも述べておくのが良いかな。

さいごに

グッドコップ・バッドコップ戦術は古典的な方法ですが、M&Aの交渉時にはしばしば見られる交渉スタイルです。そして、今回紹介したような、交渉の序盤ではグッドコップが不在の「全員バッドコップ」なる戦術をとってくる相手がいるかもしれません。そのような場合であっても、基本的にはこちらの対応策は、

  • それに慌てず、冷静に”いなす”こと

だと思います。バッドコップ役に対して激昂したりして冷静さを失うことは相手方の思う壺ですから、淡々と対応していきたいところです。

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