週刊M&Aバンカー第1号:TOB期間と株主総会の関係、他2本

週刊M&Aバンカー
この記事は約9分で読めます。

これからしばらく、その週に実務で触れた論点や仕事を通じて感じたことを簡易的なメモ書き記事として試験的にあげていこうと思います。

これまでアップしてきた記事は、テーマや構成を考えるのに結構時間がかかり、また文字数も多かったり、複数回の連載になったりということで、だいぶ気合を入れて作った記事もそれなりにあったかなと思います。とはいえ、途中からは良い記事をあげようと気合が空回りし、綺麗な記事にするハードルを自ら勝手にあげた結果、更新が億劫になっている側面もありました。

まだ上手くまとまり切れていない論点であったり、仕事上の思いつき程度の話であったとしても、文字として残しておかないと(寄る年波には勝てず)すぐに忘却していってしまいます。

ということで、仕事で思ったこと、感じたことをシンプルに軽い感じで記事にするような連載をしてみようかなと思ったところです。

さっそく、第1号の記事として、今週は、

  1. 【M&A講座】TOB期間と株主総会の関係
  2. 【M&Aとキャリア】当てが外れたオリジネーション
  3. 【M&Aとキャリア】FAの仕事に創造性はあるか

以上、3本立てで話をしてみようと思います。ちなみに、この3つの小話のそれぞれには全く関係性はありません。

【M&A講座】TOB期間と株主総会の関係性

TOB期間と株主総会の関係性について以下の2点につき助言されることが多い。

  • TOB期間中に株主総会が開催されることはなるべく避けるべし
  • 株主総会直後にTOBを公表することは避けるべし

LA(弁護士)からも特段の事情がない限りは、同様のアドバイスがなされることが多い印象(もちろん各案件ごとの事情によりTOB期間中に総会が開催されることもあり得るので、遵守MUSTな助言というわけではなく、あくまでも「傾向」である)。

その主な理由は、以下のとおり。

1つ目の「総会と被せるな」について。

  • 株主総会では総会議案に直接は関係ないはずのTOBについては質問されたくない(が、質問を止めることはできず、聞かれたら答えなければならない)
  • 仮にTOB期間と株主総会が重なり、総会で(議案に関係ないはずの)TOBに関する質問がなされ、それに回答した場合、回答内容次第では公開買付届出書の訂正事由に該当するリスクがある(訂正報告書の届出に伴うTOB期間延長となる可能性も・・・10営業日残せ問題)

2つ目の「総会の直後にTOBをはじめるな」について。

  • 株主総会直後にTOBを公表すると株主の印象として、総会でTOBの予定につき何ら説明がなかったのはなぜかと後から追及される懸念がある
  • 仮に総会において株主から一般論的に「現在、具体的に検討しているM&A的な施策はないか?」という趣旨の質問がなされ、会社側が「ありません」と答えてしまった場合に、そのような回答の妥当性に係る議論が(総会の直後にTOBが公表されることで理論的には)起こり得る

さらに、発展的(?)な論点として、買付者と対象者の決算期にズレがある場合には、双方の株主総会の時期を避けるとTOB開始のウィンドウが相応に狭まるということも挙げられる。

個人的には、いずれかの株主総会が避けられないのであれば、買付者側の総会と被らせる方が、まだマシという印象だ。

将来的にスクイーズアウトされる株主が存在する方の総会は紛糾するかもしれないから、なるべくTOB期間とは被らせたくないよねっていうところ。

【M&Aとキャリア】アドバイザリーチームが出る幕ではないケースであっても・・・

オリジネーションの一環で、M&Aを検討している潜在的なクライアントを往訪することもしばしばある。要は、M&Aを検討するなら是非ウチを起用してくださいねという営業行為なわけだ。

カバレッジチームと一緒にそのようなクライアントへ勇んで提案に行くと、

「まずは数%の持ち合いから始めようかと思います」

と言われ、あっさり撃沈するケースに出会すことも稀にある(特にカバレッジが弱いケースだとそうなる危険度が高い)。

では、そこに付き合うのが完全に無意味なのかというと、そうとも言い切れないのが面白いところ。

ほとんどの確率で直ぐには商売にならないものの、将来的に相応の割合の株式取得を検討するようになった際に呼ばれやすくもなるし、その件とは別の案件への突破口になったりもする。

ということで、キーパーソンに会えるという機会を如何に活かすかという視点で動いてみると、案外全部が無駄になるというわけではない(と思わないと、、、ね)。

キーパーソンの時間を1時間程度頂けることは、それはそれで貴重な機会。

なので、仮にM&Aをするのであればという感じで、仮想イメージをもっていただき、若干勉強会チックにはなるが、M&Aの進め方イメージを持ってもらうためのセッションに急遽切り替えるというやり方もあろうか。

いずれにせよ、その場で臨機応変に最善(だと自分が思う)対応に切り替えられるかが重要か。

【M&Aとキャリア】FAの仕事に創造性はあるか

世の中にまだない商品・サービスを生み出そうの会議に同席

ひょんなことから、全くの無責任ベースでの関与であるが、とある商品開発の一場面に体験的に同席するという機会に恵まれた。

世の中にまだない商品・サービスを生み出すというのはこういうことを繰り返すのかと、ほんの触りの部分だけであるが、普段とは違う頭の使い方を体験できた気がした。

端的に何を感じたのかというと、新商品開発にはあらかじめ正解が定まっているわけではないということ。作り手の全員が「これは上手くいく」と確信してサービス提供しても全く流行らないものもあれば、「まあ、セカンドベスト的だけど、これも売ってみよう」と提供したものがすごく流行ったりもする。

時間が経てば事後的に何が正解だったのかはわかるが、商品・サービスを提供する以前には何が良いか・何が流行るか、要は何が正解かはわからないわけだ。

正解がわからないのだから、最後は「これが正解だと思う!」というある意味でエイヤの世界で意思決定をしているように感じた。もちろん社内の偉い人を説得するために様々なデータやロジックは用意するわけなんだが、それは正解だと思う選択肢をサポートするように上手く組み上げただけに過ぎないのは、実はみんなわかっている・・・ようだ。

FA業務は正解(ベターな選択肢)が事前にわかる

M&Aという行為そのものは事前に正解かどうかなんてわからない。ただし、これは実際にM&Aの当事者になる事業会社・PEファンド目線での話であり、M&Aアドバイザリー業務は毛色が異なると思ってる。

M&Aアドバイザリー業務(エグゼキューション業務)は、こうすれば概ね正解となるであろう(少なくともペケがつきにくい)ベターな選択肢があり、それをクライアントに選んでいただけるように助言していく仕事である。

もう少し丁寧にいうと、M&Aアドバイザリーの仕事をシンプルに表せば、

  • [何を買うか(これは所与のことも多い)]
  • どうやって買うか(スキーム、スケジュール、適法性)
  • いくらで買うか(Valuation)

をうまく導くことであり、それなりのレベル以上のFAが着けば、誰であってもアドバイス内容は似通ってくるはずである。そういう意味で”正解がある”と感じた次第だ。

その正解は過去の経験や組織としての知見に基づくわけであるが、エグゼキューション段階では、

  • 法令・事例に上手く当てはめて問題なくプロセスを進めること
  • Valuationモデルで適切に評価分析すること

のどちらかをやってるだけなので、工夫の余地は殆どないし、ゆえに正解はわかるけど、創造性はないといえよう。換言すれば、正解がわからない仕事には創造性があるし、正解が事前にわかる仕事には創造性があまりないとも言えるかもしれない。

創造性という観点で、FAの腕の見せ所はないのか?

では、本当にFA業務には本当に創造性がないのかというと、ある程度ではあるが、存在すると思える。以下でその話を続けてみたい。

税務のはなし

まず、税務を絡めた場合には、FAが税制を適切に承知しているかどうかで、キャッシュインパクトの異なる助言ができることもしばしばある印象だ。もちろん、会計士税理士の助言や税務当局の確認を最終的には要するわけだが、ことの発端は「FAの思いつきのスキーム」となるケースも実例としてある。

なので、FAの腕の見せ所としては、やはりスキーム策定の部分だと思う。スキーム策定はM&Aプロセスの初期であるが、そこでしっかりと良いアイディアを出せるかどうかは、結構ひとによって異なる気がするところだろう。

誰も気付いていなかったスキームを提示し、それが絵餅じゃなくて、ワークすることがわかった際にクライアントからいただける信頼はとても嬉しいものである。

交渉のはなし(要はコミュニケーションの取り方)

助言内容そのものは事前にベターな選択肢がわかるしても、それを如何にしてクライアントに理解し、実行いただくかというのは、意外と創造性が必要である。

また、M&Aには取引の相手方が存在するわけだが、その相手方に当方側の意向(当方にとってのベターな選択肢)どおりに動いてもらうためには交渉が必要であり、その交渉をどのように進めていくか、如何にして負けない交渉を展開するかについては、かなりの創造性が必要であろう。

やや寄り道的なはなしになるが、FA業務に係る「協議や交渉」は次の2つの側面があるだろうか。

  • まず、M&Aの方針をクライアントに理解いただく
  • 次に、その方針を相当程度まで取引相手方に理解・納得・合意いただく

いずれも、如何に上手くコミュニケーションを取り、自分たちがFAとして思う最善の落ち着きどころ(事前に考えたベターな選択肢)に持っていけるかということだ。

1つ目のクライアントとのコミュニケーションについていえば、たとえば取引金額等のM&A取引のキーポイントをクライアントに承諾いただくためには、キーパーソンが誰なのかを把握し、その人に直接または間接的にご納得いただけるような進め方をする必要がある。とはいえ、念には念を入れて作った説明シナリオが簡単に崩れることなんてざらにあるし、意外なところからのサポートで軌道修正できたりもする。この辺りはまさに「事前には正解がわからない世界」だと感じる。

通り一遍の助言をするだけならば、ある程度のシニアバンカーなら誰でもできるかもしれないが、クライアントの社内を適切に”通す”ための助言まで踏み込めるかどうかが本当の意味で価値あるFAとしての腕の見せ所のひとつではないだろうか思うのとできるのが違うのは当然で、自らもまだまだ修行途上なのはご愛敬・・・)。

次に、2つ目の取引相手方とのコミュニケーションについても、たとえば、各契約条件・取引金額の交渉はもちろんであるが、日々のFA間のやりとりですら、交渉の側面があるだろう。なるべく当方側の思う通りに進めつつ、相手方に協力的な気持ちを持ち続けてもらうためには、色々と工夫が必要だ(そして、工夫を凝らしてもなかなか自分たちの思い通りに行かないのが大変でもあり面白さでもある。まさにこれも「事前に正解はわからない世界」。)。

結局のところ、シニアバンカーの存在意義は関係者にどれだけ話を通せるコミュニケーションが取れるかというところだと感じる日々だ。ジュニアが積み上げてくれた分析も、チームヘッドが周りの関係者に伝えて当方側として納得できる水準で合意を取り付けられてこそ生きてくるわけであるし。

さいごに

といった感じで、本当に単なるメモ・散文なのですが、実務上の論点・気付きを文字として残していこうという気持ちが大事かもしれないので、しばらく続けてみます。

今後とも、よろしくお願いします。

error: Content is protected !!