今週はなぜか気温が戻りジャケットを着ていると暑く感じる日々でした。来週からはまた徐々に寒くなるようなので、体調管理は万全にしていきたいですね。
さて、今週の週刊M&Aバンカー(第17号)は、
です。
【仕事術】ミスにまつわるエトセトラ
M&A案件における、フィナンシャル・アドバイザー(FA)の仕事とは、
- 資料を作成しクライアントへ報告するという作業の繰り返し
とも言えます。クライアントとミーティングする際に手ぶらで行くことは稀であり、何らかの資料を持参することが一般的です。
ところで、以前同じような話を記事にしたことがありましたが、人間誰しもミスはします。
(参考記事)
この記事ではミスをした後の対応をどうすべきかということを主に考えてみました。
今回は、もう少し幅広にミスに関していろいろと考えてみようと思います。
ミスには2種類ある
「ミス」と一言で表していますが、個人的にはミスは大きく2種類に分けられると思います。それは、
- 凡ミス
- 致命的なミス
です。
1. 凡ミス
凡ミスというのは、たとえば資料のタイポとか単位表示の誤りといった感じで本質的ではない部分での誤りのイメージです。
合理的に解釈すればそのミスした要素が正しくても間違っていても判断に影響を与えることはないという場合がこれに該当するでしょうか。
私も含めて、凡ミスは非常によく散見されます。
(たとえば、みなさんが、先日作成・提出した某資料にも気付いていないミスがひとつはあるかもしれません・・・)
2. 致命的なミス
一方の致命的なミスというのは、DCFモデルの算式を大きく誤ってValuationの報告レンジを間違えるとか、プレミアム分析の資料を間違ってクライアントの役員に説明して相手方と交渉を始めてしまったとか、経営統合契約書に必須の要素を抜いて合意してしまうとか、さらに言えばメール誤送信なんかも致命的なミスです。
致命的なミスをするとその挽回は極めて難しく、場合によっては自分たちの会社の経営陣まで巻き込んだ謝罪・対応が必要になるものもあると思います。
凡ミスも極力さけるべき
致命的なミスが避けなければならない事象であることは自明ですが、凡ミスも可能な限りゼロにすべきものです。
なぜ凡ミスをしてはいけないのかといえば、作業品質に疑念を持たれ、またチェック体制の不十分さに起因する不信感が生まれるからです。
作業品質への疑念
たとえば、単純なタイポが散見される資料が提示されたなら、
「そもそも、こんな簡単なことをチェックできないアドバイザーが作る資料には見えないところにもいろいろなミスがあるかもしれない」
と思われてしまう可能性が高いです。ゆえに、
「このValuationのエクセルモデルには実は致命的なミスがあるかもしれない」
という疑念をもたれてしまうかもしれません(本当はそんなミスはしていなくても)。
案件チームへの不信感
また、そういう単純なミスを事前に発見できないような作業体制を組んでいる案件チームに対する不信感も生まれる可能性が高いです。たとえば、
「作業自体はジュニアメンバーがしているとして、上のこの人たちはすぐみればわかるようなミスも指摘しないとはどういうことだ!当社のことをどうでもいいと思っているのか」
と思われてしまうかもしれません。
ミスを避けるためには
ミスを避けるためには、人はミスをするという前提に立ち、いかにしてミスを防ぐ仕組みを構築するかが重要です。個人的には、ミスをしたジュニアを叱責して終わりっていうのは芸がないというか、叱って相手がミスしなくなるんだったら苦労はしないよなと思います。
ミスを防ぐためには、仕組みとして可能な限りミスを発見・是正する体制をもっておくことが重要です。個人的には、以下の点に気を付けています。
基本的に全てダブルチェックをかける
プロマネが全ての作業につきチェックするのは現実的ではないのですが、最重要項目は自分でチェックするとして、他の部分の作業も基本的にはダブルチェックできる体制を構築しておくことが重要です。
たとえば、Valuation作業においてモデル作成者とレビュー者を分けてアサインすることを義務化しているファームも多いと思いますが、そういう仕組み化によってミスを発見するようにすることが大事です。
パワポ作業、ワード作業も案件メンバー間でチェックし合うことが重要です。
Valutionは信頼できる別のエクセルモデルで検証する
FAの仕事でよくありがちなのが、Valuationモデル、特にDCFの計算をミスっているということです。ファームとしてダブルチェック体制を強制されるような案件であれば良いのですが、初期段階とか状況によってファームとしてのダブルチェック体制が確立されていない案件の場合、案件メンバー内でしっかりとチェックする必要があります。
そのような場合、個人的には、モデルとしては確実に正しいはずというDCFモデルのハコを使ってチェックしています。要は、後輩メンバーが提出してきたモデルからその前提・計数を取り出して元データとてらしあわせながら信頼している別のDCFモデルに値を貼り付けて1株当たり価値まで導出することで、その正確さをチェックするようにしているというわけです。
こうすることで、たとえば、割引年数の間違い(特に基準日が四半期末とした場合の2年目以降の経過年数は間違いが多い)とか、税率を無意味に東京都のものにしているとか、Net Debtに何を入れるのかとか、ゼロベースで見直すと間違いを見つけることができたりします。作成されたモデルを順繰りに見ていくとスルーしてしまう要素も、自ら値の意味を考えながら別モデルにペーストしていくことでミスに気づきやすくなると感じています。
作業がおおむね正しいかどうかを判断するならばそんなに時間を要さずにチェックできるのでオススメです。
印刷して紙面としてチェックする
ジュニアによっては刷り出さずに画面でパワポやワードの資料をチェックしているケースを見かけます。
理由は定かではありませんが、紙でチェックした方がタイポやフォントの設定ミスを見つけやすいので、一定レベルにドラフトが仕上がってきたら、紙に印刷してチェックするようにしています。
無意味にひたすら紙に印刷するのは資源の無駄ですが、おそらくはドラフトが一定レベルになったら紙でチェックした方がいいと思います。
急ぐ場面こそ5分でもいいからチェックする
早急に資料を作成して、クライアントにメールしなければならないケースというのもよく見かける光景です。
そんな場面で、後輩が仕上げてきた資料をロクに確認せずに送ったことは一度もない、とは言えません・・・。
幸いにもそのチェックをスルーした資料が正しかったことがほとんどなわけですが、実はその資料が間違っていたなんてことも経験したことがあります。
そうなると、チェックを惜しんで短縮できたわずかな時間の何倍もの時間とさらに追加で投入する必要がなかったはずの労力を要することになってしまったわけです。
それらの痛い経験から得た教訓としては、どんなに急いでいてもチェックをスルーしてそのまま資料を送ってはいけないということです(当たり前ですね)。
全然時間がない場合でも5分遅れたら切腹しなければならないなんて場面はないはずですから、とにかく落ち着いてチェックすることが大事です。プロマネとして発見できなかったミスは、そのまま自社としてのミスになるという自覚が必要です。
信頼できる後輩であっても、その作業が常に万全とは限らない
仮に、いつも万全に資料を整えてくる後輩であっても、その作業を信じてはいけないという教訓もあります。
要は、昨日まで万全に資料を作っていたメンバーが今日も万全であるとは限らないというわけです。もしかしたら今日は体調がすぐれず、頭が働いていないかもしれません。
プロマネとしては人(後輩)を信じても良いですが、その作業内容を信じて何も疑わないというのは、いつか自分を苦しめる態度なのではないかと思うわけです。
さいごに
急がば回れとは本当によくいったもので、急いでいる時こそ浮ついてもいるため、ミスを起こしがちです。
5分でもいいから落ち着いてチェックすることの重要さは本当に身に染みて感じます(その5分チェックでミスを発見して訂正できたことは、もう本当に何度もありますので、この習慣を身に着けることは最重要と思います)。