秋分の日も過ぎ、だんだんと影は長く日は短くなる今日このごろです。
気温もだいぶ下がってきたとはいえ、まだ寒くもなく気候としては申し分ない感じですね。
さて、今週の週刊M&Aバンカー(第9号)は、
- 【M&A講座】グループ通算制度の投資簿価修正の改正趣旨説明(財務省)について
- 【仕事術】交渉は何度経験しても難しい(だから面白い)
の2本立てです。
【M&A講座】グループ通算制度の投資簿価修正の改正趣旨説明(財務省)について
週刊M&Aバンカー第6回にて、連結納税がグループ通算制度に改正されその中でも投資簿価修正が実質改悪になりそうだという話をしました。
財務省が、
「令和2年度税制改正の解説」(完成版)を掲載しました【財務省】
という新着情報をあげており、その中で投資簿価修正の改正の趣旨も説明されておりました。
税制改正の解説PDFは分量がとても多いので該当のPDFの直接リンクも貼っておきます。
書面のページでP.947に「7 通算子法人株式の取扱い」というセクションがあり、そこで投資簿価修正の改正趣旨につき述べられております。
今回の連結納税制度の見直しの議論においては、組織再編税制との整合性を図ることが一つの柱ですが、通算制度の開始・加入及び離脱は、100%子法人化してその子法人を親法人が吸収合併すること及び分割により法人を切り出すことと同様と考えることが組織再編成との関係で整合することから、株式の帳簿価額に関する処理においても、これと同様にすべきであると考えられます。
正しく、理解できているかは謎ですが、要は、
- グループ通算制度の開始・加入 = 100%子法人との吸収合併の税務
- グループ通算制度からの離脱 = 親法人から一部事業を切り出す分割の税務
という感じに、組織再編税制と整合させたいということのようです。
たしかにそういう整理であれば、ある程度筋は通っているようにも感じますが、改正の結果、現行制度との税負担の差が大きくなることについてはどう考えているのでしょうか・・・(税収が増えるから良いのか)。
財務省としてはこのように整理しているということで、現行の連結納税制度の投資簿価修正のまま維持される可能性は低くなってきているようであるものの、引き続き注視していきたいと思います。
【仕事術】交渉は何度経験しても難しい(だから面白い)
以前、M&A交渉術というテーマで8件ほど記事を上げました。
ものの本で得た知識と実際の交渉現場で得た経験とを交えながら書いた連載ですが、おかげさまで多くの方に読んでいただいております。
M&Aに限らず交渉は難しいです。頭でわかっただけではダメで、交渉現場に身を置き、体験として学ばないとなかなか身につかないと思います(要は、たくさん失敗の経験を積みましょうということ)。だからこそ、面白いなと感じるところでもあります。
あれから3年間、いろいろありました
ところで、これらの連載はもう3年ほど前なので、それからいくつものM&A交渉の現場に立ち合いました(時にはその交渉の筆頭になったり)が、これらの記事で説明したテクニックを私自身も駆使しましたし、相手型からも使われたりしてきました。
たとえば、
- ザイアンスの法則に従って頻繁に有効的にこちらにアプローチしてきて、ここぞという時にBidの情報を抜こうとする相手方FA
- 明らかにグッドコップ・バッドコップ戦術を使ってきていて、恫喝する相手方FAを相手方プリンシパルがなだめるという構図
- 株式譲渡契約書の交渉の中で、複数論点をパッケージ化して交渉を持ちかけてくる弁護士
など、ああ、これはアレだなと気づくことが多々ありました。
「この交渉術はアレだな」と気づくことだけでは有効打にならない
FA業界に属する者であれば、交渉術についてはおおかれすくなかれ知っているわけで、
と気づくことは、効果はありますが、それだけで有効打になるかというと、そんなことはないと思います。
たとえば、明確なグッドコップ・バッドコップを演じている交渉相手方がいるとして、その相手方にうまく対応できずに、相手方の想定通りにことが運んでしまったなら、それを知っていても無意味です。
むしろ知っていたからこそ、結果的に相手方にしてやられてしまったことに気づき、忸怩たる思いをいただくことになるでしょう。
冷静さを保つことが、最大の武器(かもしれない)
そんな中で、個人的に感じたのは、冷静さを保つことが大事だなというところです。
冷静な猛獣使い(という設定)になってみる
交渉場面では、たいていの場合、熱くなりがちです。まさに文字通り「白熱した交渉」現場では当方も相手方も言葉が荒くなる人もいれば、身振り手振りが大きくなる人、相手の話を遮る人、いろんな人がいろんな傾向を示します。
そのような中で、大事だなと痛感していることは、いかに冷静さを保てるかということです。
とくに、相手方から攻められている場面では、遮って言い返したくなったり、すぐに反論したくなったり、また相手方が恫喝してきたらこちらも大声を上げたくなりますが、それはあまり効果的ではないなというのが経験から得た実感です。
言い方は悪いですが、白熱していろいろやってくるひとは”猛獣みたいなもの”ですから、それなら自分は猛獣使いになったつもりで、その人たちよりもひとつ上の視点から交渉現場を眺めるという視座にいるべきだと思います。
冷静であることは黙ることでもビビることでもない
ただし、冷静であることは決して黙ることではありません。猛獣使いなのですから、猛獣を使役するために、必要な仕掛けはしていく必要があります。すなわち、冷静に発言を組み合わせて、交渉の場を動かしていくことが猛獣使いの責務なわけです。
また、冷静であることはいわゆる”ビビること”の対極にあることだと思います。
ビビっている状態というのはその現実に単に恐怖・驚き・困惑で反応している状態であり、他方で冷静であるとは現実を読み解き、次の一手を繰り出す立場として現場に働きかけていく、現場を動かしていこうとする在り方・気持ちなわけです。
言い尽くされた言葉ですが、交渉でビビったら負けです。
そして、相手方の思惑通りペースを乱されても負けです。
ゆえに冷静に自分であり続けることが一番の有効打だと思っている次第です。
実際の交渉場面で使えそうなTIPS
たとえば・・・まずは相手方からひとつYesを引き出す
人間誰でも否定されれば防衛しようとするのが普通ですし、認められれば嬉しくなるのが普通です。なので、交渉の相手方が何を言ってきても、まずは相手方の言っていること自体は認識していますよということで、
「要するに・・・、、、ということですね?」
という感じに相手方の言いたいことの骨子を同じように述べてみるのも結構効果があると思います。少なくとも、その要約自体は(それがきちんと要約できていればですが)相手が言っていることそのものであり、Yesとしか返せないわけです。
まずは小さなYesを引き出すことに成功すると、これもなぜだかはよくわかりませんが、相手方がちょっとだけ冷静に、そしてちょっとだけですが友好的になってくれることが多いです。
たとえば・・・共通の目標を思い出す
交渉の目的は相手方を論破すること、じゃなくて、当方と相手方とがこれならYesといえる範囲のところで取り決めを交わすことです。相手方の要求が100%とおることはないとすると、逆に当方側の要求が100%通ることもほとんどないわけです。
お互い、シナジー効果の期待できるM&Aを検討しているわけですから、合理的な範囲内の条件であれば、ベストの条件でなくとも合意した方が企業価値向上に資するという観点・言葉は、相手方のみならず、当方のクライアントにご納得いただくためにも必要な場合は申し出るべきときがあるところだと思います。
さいごに
個人的には、M&A案件で交渉する癖が日常生活(特に家庭生活)にも波及し、普段から(無意識的にですが)交渉的な発言をするようになり、家族関係の不和を招くことがままあるのがこの癖の悪いところです。
どんな内容であれ交渉すればある程度は疲れるものですから、日常生活の話で「どっちでも良いかな」というものについては、交渉を持ちかけずに、負けるが勝ちの姿勢でありたいものです。