今週は全国各地で中秋の名月が綺麗に見れたようですね。私も、夜に散歩しながらすこし眺めました。
ちなみに、今週は月の近くに赤く光る星が見えますが、あれは火星のようです(10/1の夜空はこちら)。
火星の見かけの等級は一番明るい時で-3.0らしく(10/1においては-2.5程度)、シリウス(-1.46)よりも明るいようです。夏の夜空で一番明るい恒星はベガ(+0.03)だと思いますが、たしかにそれより明るく見えますね(とはいえ、火星は赤く見えるため、綺麗に見える星かと聞かれると、どうなんでしょうね・・・)。
さて、今週の週刊M&Aバンカー(第10号)は、
の1本立てです。
【M&A講座】日本郵政が保有するゆうちょ銀行株式の減損処理について
今週、当サイトのとある記事のアクセス数が激増しました。
その記事はこちらです。
本当に、一体何事かというくらいアクセス数が増えたんですが、どうやら、日本郵政が保有するゆうちょ銀行株式の減損処理3兆円のニュース(ブルームバーグ)に関連した検索で来訪した方が増えたみたいです。
日本郵政、約3兆円の減損処理へ-ゆうちょ銀株下落で
2020年9月30日 15:54 JST 更新日時 2020年9月30日 17:29 JST
日本郵政は30日、2021年3月期第2四半期累計期間(4-9月)の個別決算で、同社が保有する連結子会社のゆうちょ銀行の株式の時価が著しく下落したため、約3兆円の評価損を計上すると発表した。
株価を反映するため、21年3月通期の特別損失の額は変動する場合があるとしている。ゆうちょ銀の株式評価損は、日本郵政の連結決算上では消去されるため、連結業績に与える影響はなく、5月に発表した通期連結業績予想や配当予想は変更しない。
同日会見した日本郵政の増田寛也社長は、株価下落による減損を受け、「現在のゆうちょ銀の株価については真摯(しんし)に受け止めている」と述べ、減損の通期決算への影響は21年3月末のゆうちょ銀の株価で確定すると説明。
中期経営計画で50円以上としている今期の配当方針を変更する予定はなく、「内部留保は大変多くある」と述べた。
ゆうちょ銀株の簿価は1株当たり1732円とされているが、30日終値は前日比2.8%安の821円。時価が簿価の50%を下回ると減損が必要になる。
日本郵政による公式発表のリンクも貼っておきます。
当社個別決算における関係会社株式評価損の計上に関するお知らせ(日本郵政:2020年9月30日)
日本郵政のケースの特徴について
日本郵政によるゆうちょ銀行株式の減損処理の基本的な考え方は、先に述べた当サイトの記事で説明している事象に近いところではありますが、具体的な判断基準については当該記事で取り上げたものとちょっと異なる観点があります。
端的に言えば、
という論点です。
時価の有無によって回復可能性の判定が異なる
ゆうちょ銀行は日本郵政の上場子会社であり、時価が存在しています。
時価のない有価証券の場合には投資簿価と対象会社の純資産との比較で減損を判定しましたが、時価のある有価証券の場合には投資簿価と時価とを比較することになります。詳細は、いつものEYのサイトをご覧ください。
ゆうちょ銀行は、毎期黒字を計上していますし、純資産が毀損しているわけでもありません。それにもかかわらず、時価があるということで、純資産状況とは関係なく、時価が一定程度(50%以上)下がった場合には減損判定をしなければならなくなるわけです。
ちなみに、時価がある場合、減損処理の基準が50%以上の下落という数値面では同じですが、回復可能性の考え方が異なるようです。
- 時価がある場合:回復可能性を概ね1年以内に取得原価付近まで時価が戻るかどうかで判断する
- 時価がない場合:回復可能性は事業計画によって見立てる(毎期事業計画は見直し)
なお、1年以内に取得原価水準まで時価が戻る見込みがあるという整理をすることは、1年後の株価を予想することに等しいといえそうです。
時価がある場合、50%基準は実質的に「強制」評価減といえそうか
上場株式の時価を合理的に予測するなんてことは普通は困難です(もちろん当該子会社において大きなグッドニュースが秘められているなんていう稀なケースであれば別なのでしょうが)。
すなわち、基本的にはこの会計基準によるならば、「回復可能性あり」といえるケースなんてほとんど無いのだろうなと感じております。
なので、基本的には、どんな上場子会社も基本的には時価が50%以上下落したら、減損処理止む無しとなっているのではないでしょうか。
四半期末の減損処理は洗替法になる
さらに、今回の開示資料には面白い一文が付いていました。
なお、四半期決算期末における有価証券の減損処理につきましては、洗替法を採用しているため、2021年3月期第3四半期及び2021年3月期通期における特別損失の額は変動する場合があります。
端的にいうと、日本郵政の3Qと4Q(本決算)においては、今回の2Qの減損処理が洗替えられて、また判定し直すということだと思います。
これは、仮に2020/12末(または2021/3末)のゆうちょ銀行の株価が50%を割っていなければ、減損されなくなるとも読めますが、どうなんでしょうか(いわゆる「30%〜50%の減損処理基準」は恣意的に当てはめることができません)。
過去(2020/3末株価は997円で約42%下落)にこの水準で減損していないわけですから、時価の下落幅が50%未満に戻れば減損しませんっていう未来があり得るということだと推察しまています(このあたり、私は会計の専門家ではないので確定的にいっているわけではなく、単なる推察です)。
四半期の単体決算のニュースがそんなに重要なのか?
そもそも、以前の記事でも述べましたが、この話は単体決算についてであり、日本郵政の開示資料にも記載されているとおり、連結業績には影響なしなわけです。
おそらくは、金額がセンセーショナルだからニュースになるというところなのでしょうけれども、そんなに重要な話なのかっていうとどうなんでしょうかね。しかも四半期末の処理であり洗替処理されるわけですし。
むしろ、4Qにおいて確定的に(切放法として)関係会社株式評価損が計上されるかどうかの方が、配当可能利益計算上も重要だと思います。でも、おそらくは期末にこのニュース(のアップデート)は今回ほどは大々的に報道されないのではと推察してます(同じような話をニュースにする価値がないと見做されそうですし。・・・本当は”同じ”じゃないんですけどもね)。
日本郵政の取得原価の単価が1,732円というのは高い印象
日本郵政が保有するゆうちょ銀行の取得原価の単価は1,732円らしいです。
ちなみに、公募価格は1,450円で初値が1,680円であったようです、上場来最高値は1,823 (2015/11/05)とのことです。
日本郵政はゆうちょ銀行を買収してきたわけではなく、その取得原価は郵政グループを再編したときにつけられた金額だと思いますが、その金額が高いのだろうなという印象です(恣意的につけたわけじゃないでしょうが、銀行業のPBRの在り方とのバランスからみれば、いつかは減損やむ無しの取得原価の付け方になってしまっていたのではなんていう邪推です)。
さいごに
連結と単体の差は、知っていれば当然ですし、そもそもだいぶインパクトが異なる話だとは思いますが、世の中的には、そもそも連結とか単体とかの違いすら認識していない方が大多数のようです。
もちろん、それは一般的にそれを習う機会がないことに起因しているわけでありますが、よく言われることではありますものの、会社に勤務しながら会社法を知らないとか、税金を取られていながら所得税を知らないとか、ある意味でうまく仕組み化はできているんでしょうね。