来週は祝日が飛び飛びで存在するので、ちょっともったいないですね。
うまく並べば”シルバーウィーク”になるんですが、次回のシルバーウィークは2026年までお預けみたいです。ホワイトな会社であれば、独自に有給休暇を組み合わせれば毎年自前でシルバーウィークが作れるんでしょうけども。
まあ、今年は休みがあっても遠出はし難いのでステイホームなんでしょうけどね。
さて、今週は、
です。
(いつもの先輩・後輩の対話で進めていきます。文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です。)
【M&A講座】株式譲渡契約交渉とパーキンソンの法則 〜FAの腕の見せ所を添えて〜
後輩が株式譲渡案件の大詰め(SPA交渉)を迎えているようです
◎先輩、こんにちは。いま担当している株式譲渡案件が大詰めをむかえておりまして。
◆◆たしか、買手側だったっけ?
◎ええ。買手側でクロージングまで行けそうなのは久しぶりです。
◆◆株式譲渡の買手側は数打ってもなかなか当たらないからねえ。
◎それで、いまは株式譲渡契約書(SPA)案の最終交渉をしているんです。
マークアップ合戦
条件を盛る買手とそれをカットする売手
◎SPA交渉は売手と買手とがそれぞれ修正案(マークアップ)を提示し合うじゃないですか。
◆◆そうだね。交渉の初期は買手はゴリゴリ・盛り盛りに作ったSPAを提示し、売手がそれをバッサリとカットするというある意味「出来レース」みたいなやりとりがなされるよね。
◎ええ。我々のクライアントである買手側はM&A交渉に慣れているので弁護士に「しばらくはうまくやっておいてください、まとめにかかる際には我々も出ますから」という指示を出しているんですが、売手側がM&Aに不慣れみたいで若干怒っているんですよね。
◆◆「こんなにSPAの条件を盛るのであればもう貴社とは交渉しませんよ」的な感じになってしまっているんだね?
◎そんな感じです。
FAが不慣れということは稀であるが
◆◆相手方のFAとLA(弁護士)は慣れている人たちなの?
◎FAは我々と同様に証券会社のFAなのでそこは問題ないですね。相手方FAが「M&Aではこういうこともよくありますから」と売手の溜飲を下げるべく動いてくれてはいます。
◆◆ふむ。
◎他方で、相手方LAはちょっと不慣れといいますか、いわゆる大手弁護士ファームではないんですよね。
◆◆そうなんだ?大手じゃなくても良い先生はそれなりにいるけども。
◎今回の相手方LAはM&Aに不慣れっぽいですね。売手自身も怒っているんですが、どちらかといえば売手LAが一番怒っている感じです。「こんなマークアップはけしからん、まとめる気あるのか?」という具合に。
◆◆クライアントにとってLAの意見は結構重いから、相手方LAが暴走すると本当に交渉が打ち切りになりかねないと思うんだけど、その辺は大丈夫なの?
◎それはちょっと心配なところなんです。FAが売手とLAとをうまく繋ぎ止めてくれてはいますが、そのFAに対しても「あなたたちはどちらのFAなんですか!?」と怒っているみたいでして。
◆◆しばしば見受けられる「お察しします」状態だねえ。でも、まあ頑張ってもらうしかない。
結局はSPA締結当日まで揉めることも
交渉を早めに終えたいと思ってしまうと・・・
◎売手側は、さっさと双方にとって合理的な条件で交渉をまとめたいと思っているみたいなんです。SPA締結予定日はなんとなく両社で見定めつつあるんですが、そのギリギリまで交渉するつもりはないらしく早く終えたいようでして。
◆◆お気持ちはわかるものの、交渉のセオリー的に言えば、期限を区切った方が不利に働くよね。
◎そうなんです。我々のクライアントは「相手が急ぎたいなら、さっさと降りてきて我々の条件に寄ってきてくれればいいんです」と冷静におっしゃっていまして。
◆◆普通はそうなるよね。
◎やっぱり、こういう場合っていうのはSPA交渉は締結予定日まで続く感じになりそうですかね?
◆◆経験則だけど、たぶんSPA締結予定日まで揉め続けるんじゃないかな。
◎ですよね。
パーキンソンの法則
◆◆ちょっと脱線するけど、パーキンソンの法則というのがあってね。
◎何でしたっけ?
◆◆簡単に言うとその第一法則は
というものなんだ。
◎ああ、なんとなく聞いたことがありましたね。
◆◆SPA交渉なんかはまさにパーキンソンの第一法則に従う動き方をするよね。不思議なもので締結期限まで延々と議論が続き、そしてなぜか締結日直前にそれまでの議論は何だったの位にバシバシと条件が決まっていく的な。
◎ある意味で交渉は我慢比べですからね。テンパった方が基本的に負けますし。
◆◆まさに。ゆえにどちらがそのチキンレース的なやりとりに我慢し続けられるかがポイントだよね。
FAの腕の見せ所
成功報酬があるから頑張れる?
◎でも、そうなると結局SPA締結期限まで不毛にやりとりが続くだけですから、FAとしての工夫の余地もあまりないんですかね?
◆◆いいやそんなことはないよ。むしろ水面下でFAが全体を見渡しながらどううまく軟着陸して双方が「まあこれでいいかな」という条件に落とし込むかを模索するわけだよ。
◎我々は成功報酬体系ですからやっぱり案件成立へのインセンティブが違いますからね。
◆◆まあ”それ”もあるけど、綺麗事抜きでもやっぱり大枠としては双方がそのM&Aをやった方がお互いメリットが大きいよねと確信しているからうまく着陸して欲しいという気持ちの方が大きいけどね、個人的には。
FA同士が水面下で協議を進めておく
◎そうなんですね。ちなみに、SPA交渉時のFAの腕の見せ所はどんな感じになるのでしょうか?
◆◆案件ごとの双方のパワーバランスとかFA同士の関係性にも依るので一概には言えないものの、やっぱりある程度FA同士腹を割って「FAトーク」ができる間柄になっておくのが望ましいよね。
◎ジュニアレベルだと相手方FAと腹を割って協議する場面がほとんどないので、それが具体的にどうなされるのかすごく興味があるとともに自分でできるのかっていう不安もありますね。
◆◆こればっかりはFAとしての自分のキャラクターと相手方FAの特性を見定めつつ、お互いやっぱり案件は成立させた方が良いですよねという観点でクライアントを裏切らないラインを守りつつもちょっと攻める発言を引き出しつつ、代わりにこちらも先んじて譲歩をちらつかせるという感じかなあ。
◎そういう場合にクライアントにはダマでやるんですか?
◆◆人によると思うけど、自分の場合は大枠としての方針は事前にクライアントと協議をしておくかな。そしてその協議に基づき、譲歩のカードに見えるんだけど実はあまり重要でない論点から譲っていくのをチラ見せする場合が多い印象だよ。
◎やっぱりダマでやってクライアントに怒られても困りますよね。
◆◆そうだね、FAトークをした結果相手方FAに「やっぱりうちのクライアントは動きませんでした」ってなことばかり返していると「このFAはクライアントを動かせないダメなやつか?」と思われてしまい、その後のFAルートが断絶してしまうリスクもあるからね。
◎FAトークであってもコミットしたならば結果を出さなきゃダメってことですかね。
◆◆少なくとも自分はそう思って協議に臨むようにはしているよ。
◎わかりました。また今の案件が進捗して困ったら相談させてください。
◆◆まあいいけど、その案件のプロマネ含めてチームとしての見解をちゃんと膝詰めでまとめておくのも忘れないでね。