週刊M&Aバンカー第14号:株価上昇要因の未公表重要事実を知っている人が当該株式を売ることはインサイダー取引にならない?

週刊M&Aバンカー
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今日は満月です。1ヶ月の間に2回満月となることをブルームーンと言うようですね。

1か月の間に2回、満月を迎える場合、その2回目の満月のことを「ブルームーン」と呼ぶことがあるのです。欧米では「ブルームーンを見ると、幸せになれる」という言い伝えもあるようです。ブルームーンと言っても、実際の月が青く見えるわけではありませんが、幸せになれるよう願いながら、月を愛でてみてはいかがでしょうか。(TENKI JP

さて、今週の週刊M&Aバンカー(第14号)は、

【M&A講座】株価上昇要因の未公表重要事実を知っている人が当該株式を売ることはインサイダー取引にならない?

です。

【M&A講座】株価上昇要因の未公表重要事実を知っている人が当該株式を売ることはインサイダー取引にならない?

今週はとある会社関係者のインサイダー取引規制違反のニュースが報道されました。

こういった報道を見かけるたびに思い出す論点があり、今日はその話をしようと思います。

本記事の論点は弁護士の先生とも一般論で協議し、論点認識の正確性は一定程度あるかとは思いますが、具体的なケースを検討される際には必ず担当の弁護士等にご確認ください。

インサイダー取引規制に係る金融庁の啓蒙活動

金融庁がインサイダー取引規制に関するQ&Aを公表しております。

「インサイダー取引規制に関するQ&A」を分かりやすく改訂しました!(金融庁)

趣旨としては、

株式投資等は資産形成のための有効なツールですが、現在は、インサイダー取引規制の内容を正確に知らないこと等により、必要以上に投資を控えている方も多いのではないかと考えられます。

そこで、投資経験・知識の少ない方にも規制の基本的な内容をご理解いただけるよう、Q&Aに「基礎編(問1~7)」を追加する等の改訂を行いました。
(従前公表していた内容は、応用編としています。)

一般の方々が安心して公正な株式投資等を行うことができるよう、今後とも分かりやすい説明に努めてまいります。

とのことです。

昨年に7問の基礎編のQを追加して、インサイダー取引規制に関する啓蒙活動を続けているようです。

論点は応用編(問3)にあり

今回紹介したい論点は、応用編の問3についてです。ちょっと長いですが、一旦抜粋します。

ポイントの箇所には黄色のアンダーラインを引いています。

【応用編(問3) 】
上場会社の役職員が、自社や取引先の株式を売買する場合、それらの会社に係る未公表の重要事実を職務等に関し知っていれば、取引の経緯等から重要事実を利用する意図がないことが明らかであったとしても、インサイダー取引規制違反として課徴金納付命令等の対象となるのでしょうか。

(答)
金融商品取引法第166 条においては、上場会社の役職員等の「会社関係者」であって、上場会社に係る業務等に関する「重要事実」を知ったものは、その事実が公表された後でなければその会社の有価証券等の売買等をしてはならない旨が規定されています。(インサイダー取引規制)上場会社の内部情報を知り得る特別の立場にある「会社関係者」が、未公表の「重要事実」を知って売買等を行うことは、一般の投資家と比べて著しく有利となって極めて不公平であり、そのような売買等が横行すれば、証券市場の 公正性・健全性に対する投資家の信頼を損なうおそれがあります。インサイダー取引規制は、このような投資家の信頼を確保する観点から、「会社関係者」による一定の売買等を禁止しているものと考えられます。

しかしながら、投資家の信頼の確保という観点からは、「会社関係者」が未公 表の「重要事実」を知った後に売買等を行ったとしても、当該売買等が「重要事実」を知ったことと無関係に行われたことが明らかであれば、それにより証券市場の公正性・健全性に対する投資家の信頼を損なうおそれは乏しく、インサイダー取引規制によって抑止を図ろうとする売買等には該当しないものと考えられます(注1)。

このため、自社や取引先の未公表の「重要事実」を知っている上場会社の役 職員(注2)が、それらの会社の株式を売買した場合であったとしても、例えば、『「重要事実」が、その公表により株価の上昇要因となることが一般的に明白なときに、当該株式の売付けを「重要事実」の公表前に行っている場合』や『「重要事実」を知る前に、証券会社に対して当該株式の買付けの注文を行っている場合』など、取引の経緯等から「重要事実」を知ったことと無関係に行われたことが明らかであれば、インサイダー取引規制違反として課徴金納付命令等の対象とされることにはならないものと考えられます
なお、いずれにしても、上場会社においては、役職員がインサイダー取引に関与することのないよう、社内において相応の情報管理態勢の確保に努めることが求められます。

(注1)「重要事実」を知ったことと無関係に行われたことが明らかな場合としては、いわゆる「知る前契約」の履行又は「知る前計画」の実行として売買等を行う場合等が該当します。詳しくは、応用編(問5)をご参照ください。
(注2)「重要事実」を知らない役職員については、単に重要事実を知り得る立場にあることをもって、その売買がインサイダー取引規制違反となることはないものと考えられます。
(注3)日本証券業協会が運営し、上場会社の役員情報を管理・登録する仕組みである Japan-Insider Registration & Identification Support System (J-IRISS)への登録は、上場会社の役職員によるインサイダー取引を防止するためのいわば「アラームシステム」としての機能を有しており、 上場会社における法令遵守態勢の整備に資するものであるため、J-IRISS の登録が促進されることが強く望まれます。

課徴金納付命令の対象外の例示として

インサイダー取引規制違反として課徴金納付命令等の対象とされることにはならないものと考えらるケースとして、

「重要事実」が、その公表により株価の上昇要因となることが一般的に明白なときに、当該株式の売付けを「重要事実」の公表前に行っている場合

が挙げられています。

これを解釈すると、たとえば、

業績予想の上方修正という未公表の重要事実を知っている者が当該株式を売却することは課徴金命令等の対象にはならない

と思えるかもしれません。逆に、下方修正の情報で買付をすることも類推として成り立つかもしれません。

でも、実態としてはそう簡単な議論ではないようです。

ポイントは「一般的に明白」かどうか

ポイントは、「重要事実」が、その公表により株価の上昇要因となることが一般的に明白かどうかという点にあります。

先程の例でいえば、上方修正という重要事実は一般的に株価の上昇要因になり得る情報ですが、必ずしも上方修正が株価上昇要因になるとは限りません。事例としても、上方修正公表後に株価が下落したなんてケースもあります(業績予想の上方修正そのものは見込まれていて、その修正額が試乗コンセンサスには届かなかったと言うケース等が適例でしょうか)。

ゆえに、当該重要事実が形式的に見られるわけではなく実態としてどうなんだということ、すなわち、上方修正だから株価上昇要因だよねと短絡的にはならないというところだと思います。

なお、業績予想修正以外の他の重要事実についても、それが明白に株価を一方的に上に(または下に)変化させる要因であると言い切るというのはかなり困難だと思います。

じゃあどうすれば良いのか

ということで、このQ&Aを知っているとしても、敢えて危険な株式売買するのは止めておくしかないとなります。

さらに、このQ&Aは課徴金命令の対象とはしないと言っているだけであって、インサイダー取引規制違反としての調査をしないとは言っていないのも興味深いところです。

ゆえに、未公表の重要事実を知っている者は売りでも買いでも当該株式をさわるべからずというのが(当たり前ですが)結論となります。

さいごに

個人的には証券取引等監視委員会のインサイダー取引規制違反の調査対象になったことも、参考人として招致されたこともありませんが、聞くところによると、インサイダー取引はほぼ必ず発見されるようです。

当たり前のこととして、インサイダー取引には近づかないようにしましょう。

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