週刊M&Aバンカー第57号:DCF法にて繰越欠損金の価値をどのように織り込みますか?

週刊M&Aバンカー
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日中は猛暑ですが、日の入りはちょっと早くなってきましたね。来週からは9月です。気分的な問題かもしれませんが、毎年、9月になるとちょっと空気がカラッとしてきて涼しくなる印象ですので、はやくそんな感じになるのが待ち遠しいです。

さて、今週は、

【M&A講座】DCF法にて繰越欠損金の価値をどのように織り込みますか?

です。

(いつもの先輩・後輩の対話で進めていきます。文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です。)

【M&A講座】DCF法にて繰越欠損金の価値をどのように織り込みますか?

多額の繰越欠損金が発生した会社のValuation作業をしている後輩です

◎先輩、こんにちは。今回はValuationなのですけれども。

◆◆君もスキーム策定やらスケジュール作成やらで忙しそうだけど、Valuationもまだ主担当でやっているんだっけ?

◎ええ、シニアアソシエイトなんてそんなもんですよ。上からも下からもプレッシャーがきつくて。

◆◆言い方はさておき「使い勝手の良い」世代だから、みんなから重宝されていると思っておいてよ。

◎まあそういうことにしておきます。それで、今回のValuationの対象会社なんですけれども、過去に大きな赤字を計上しておりまして。

◆◆そうなんだ?

◎赤字計上=繰越欠損金ですよね?

◆◆そうとも限らないけれども。

◎あれ?

その赤字は税務上も損金になるか?

◆◆たとえば、巨額の減損損失を計上して大赤字を計上し翌期にV字回復となるケースってしばしばあるじゃなない?

◎ときどき聞きますね。

◆◆ただ、減損損失っていうのは基本的には「会計上の処理」であって、税務上の損金にならないケースがほとんどなんだよね。

◎そういえばそうですね。のれんの減損とかは”連結調整勘定”の減損であって単体(税務)では発生しませんし。

◆◆そうそう。そういう観点では君がいうように「赤字計上」だったら税務上の繰越欠損金が発生するかというと必ずしもそうではないよね。

◎ええ。説明不足でしたが、今回の対象会社は「本業」で大赤字に転落しましたので、幸い?にも税務上の繰越欠損金が多額に存在するケースなんですよ。

◆◆なるほどね。

DCF法にて繰越欠損金の価値をどのように織り込むべきか

◎それで、Valuation、特にDCF法においてその繰越欠損金の価値をどのように織り込むべきかについて悩んでいるわけです。初期的に後輩に簡易的にDCFモデルを作成してもらったところ、繰越欠損金の価値を「繰延税金資産の内数」として勘案してきたんですね。

◆◆ふうむ。

◎しかも、繰延税金資産はいわゆる評価性引当額を控除した後のBS数値をそのまま用いておりまして。

◆◆ああ、それはちょっと危ないね。

◎ここで改めて基本に立ち返りますと、DCF法における繰越欠損金の取り扱いは主に次の2つの方法がありますよね。

  1. ストックとして評価(非事業用資産扱い)
    繰延税金資産の内訳として繰越欠損金の税効果を非事業用資産として加算
  2. フローとして評価(FCFの内数に勘案)
    将来の繰越欠損金の使用予測に基づき節税額をFCFに加算
    (ただし、繰延税金資産の内訳から繰越欠損金による税効果を控除するのを忘れずに)

◆◆そうだね。

◎この2法はどちらの方法が優れているのでしょうかね?直感的には後者のフローで勘案の方だと思うのですが。

ストックとして評価するデメリット

◆◆結論は君が言うようにフローで評価した方がベターだね。

◎ですよね。繰延税金資産の内訳として繰越欠損金の税効果をストック的に評価した場合、繰越欠損金の時間価値を無視しちゃいますし。

◆◆さらに、評価性引当額で繰延税金資産の金額がカットされている場合、過小評価にもなりかねないという点もデメリットだよね。

◎会計士(会計監査人)が認める繰延税金資産の額が必ずしもValuationとして勘案すべき金額と一致するわけではないからですよね。

◆◆そうそう。会計士が認めた事業計画と我々FAのValuationの前提となる事業計画が一致するとは限らないし。

◎逆に、過大評価にもなりかねないとも言えますよね?会計士は全額の繰越欠損金の利用を認めたとしてもValuationの前提とした事業計画では使いきれずに期限切れとなる欠損金が発生するかもしれないというケースあり得ますかね。

◆◆そうだね。まとめると、ストック法のデメリット(留意点)は、

  • 時間価値を無視する
  • 過大評価(期限切れを織り込まない)または過小評価(評価性引当額という会計判断の混入)になり得る

といった感じになるね。

フロー法について

◎FCF的に価値を勘案するフロー法ですけれども、そもそも将来の繰越欠損金の使用スケジュールが開示されるケースってほぼないじゃないですか。

◆◆そうだね。事業計画の開示はなされても、”課税所得”の計画の開示がなされることは普通はないからねえ。

◎本来は将来の税務上の課税所得を予想して欠損金を充てて行くべきなんでしょうけれども、それができないとなると、将来PLの税引前利益を課税所得とみなして簡易的に繰越欠損金の使用スケジュールを想定するしかないですよね。

◆◆もっと簡便にやるならNOPLATに充てていくという方法もあるけれども、おっしゃるとおり、できればPLの税前利益に充てた方が良いかな。営業外損益や特別損益が合理的に予測されていればなんだけども。

まとめ

◎最後にまとめてみますと、繰越欠損金の残高にそこまで重要性がなければストック法でも差し支えなしですが、金額的に重要であればより精度の高いフロー法を採用することも検討するという理解でよろしいですかね?

◆◆それで構わないと思うよ。君の今回の案件のように多額の欠損金があるならば原則としてストック法で勘案した方がいいかな。

◎ええ、そうしてみます。

◆◆ちなみに念の為だけど、フロー法を採る場合、非事業用資産として繰延税金資産の全額を勘案してしまうと、繰延税金資産の内数として繰越欠損金による税効果を含んでしまうため、価値のダブルカウントとなってしまう点に注意してね。

◎ええ、その点は留意しておきます。安直に繰延税金資産全額を非事業用資産扱いにするのもリスキーですから、その辺りも詳細検証しつつ、案件ごとに判断していこうと思います。

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