10月でも30度近い日々が続いておりますが、朝晩は肌寒いですね。10月は年度の下期のはじまりということで、色々な意味で世の中がまた動き出したような気がします。
さて、今週は、
です。
(いつもの先輩・後輩の対話で進めていきます。文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です。)
【M&A講座】DCFモデルをレビューするときに見るべきポイント
後輩がDCFモデルをレビューしているようですが
◎先輩、こんにちは。いま新人が作ったDCFモデルをレビューしているんですけれども。
◆◆そうなんだ? アソシエイトくらいの年次だと、自分で作ることもあるし、後輩のチェックもすることもあるしでなかなか大変だよね。
◎ええ。今回の案件は私よりもジュニアの新人が居てくれたのでその人にDCFモデルを作ってもらっているんです。
◆◆なるほど、そして君がレビューするわけだね。
モデルのどんな点をチェックすれば良いか
(1)そもそもモデルが壊れていないか
◎それで、モデルをどうやってチェックしていけばいいのか逡巡しているわけなんです。ざっと眺めてできているっぽいという感じで終わってしまうと、後でDやVPがミスを見つけた際にやばいことになりますからね。
◆◆「ざっと見る」ってのはレビューでもなんでも無いからそれはダメだね。もし僕がレビューをするのであれば、とりあえずまずはモデルが壊れていないかどうかをチェックするために、自分が信頼できる別のDCFモデルに今回のFCFを代入して株主価値が整合するかをチェックするかな。
◎そこからチェックするんですね。
◆◆そうだよ、特に新人さん等のある意味で「信頼できない」メンバーの場合は、とりあえず疑ってかかる必要があるから、別のモデルで検証するのは必須とも言えるかな。
(2)割引期間・割引係数
◆◆次のポイントはたぶん30秒位でチェックできるんだけど、割引期間・割引係数を間違えていないかという点をさっとみるよね。特に本決算のタイミングを算定基準日にして”いない”ケースだと、期央主義の観点で割引期間をミスするケースが散見されるから。
◎たしかに、たとえば3月決算の会社において9月末を基準日にする場合、1年目の割引期間は0.25年(期央は12月末)で2年目の割引期間は1年(期央は翌年の9月末)ですからね。
◆◆単純に0.25年に1をプラスして、2年目の割引期間を1.25年としてしまうジュニアを何人見てきたことか。
◎覚えれば当たり前ですけど、意外と何も考えずに「左のセル+1」という式を使ってしまいがちかもです。
◆◆3年目以降は「左のセル+1」でOKなんだけども、1年目と2年目はちゃんと考えて割引期間を設定するように留意したいね。
(3)残存価値を算出するための平準化されたFCFの定義
◆◆さらに、残存価値を算出するための平準化されたFCFの定義(作り方)も確認するよね。
◎それはわかります。横引きモデル(定率成長)とする場合は0%成長をEBITDAが横ばいとすべきで、EBITを横ばいにしてはダメですからね。
◆◆そうなんだよ。EBIT(営業利益)を横ばいにしてしまって、別のロジックで減価償却費(DA)を算出していると、EBITDAは横ばいにならないからね。
◎以前同じような話をしたので覚えていますよ。
(4)キャッシュライクアイテム・デットライクアイテムの網羅性
◆◆そして、キャッシュライクアイテム・デットライクアイテムの網羅性も重要なチェックポイントのひとつだよね。
◎ええ。EV(企業価値)までは正しく算出できていたとしても、Net Debtで差し引く数値がミスしていたら結局株主価値は間違いますからね。
◆◆最近は財務DD専門家の皆様がレポートにおいて、キャッシュライク/デットライクを綺麗に整理してくださることが多いので、その必要な部分を取捨選択して転記すれば済むんだけども。
◎それでも、不慣れだとリース債務を忘れたり、換金可能な資産をキャッシュライクに入れるのを忘れたりもするかもです。取捨選択っていう判断が正しくできるかどうか・・・。
◆◆クライアントもDDレポートとValuationレポートの整合性を確認する際に、まずはキャッシュ・デットの部分をチェックするはずだから(わかりやすいし)、この点をミスると致命傷だよね。
◎言い逃れできませんからね。
(5)計画期間においてFCFが大きくブレていないか(特に巨額のCAPEX)
◆◆他にもチェックポイントはいろいろあると思うけど、あまり長くなってもアレなので5点に絞るとすると、FCFが計画期間において巡航速度で推移しているかどうかは見るよね。
◎それはどういう観点ですか?
◆◆たとえば、計画期間最終年度にそれまでのFCFの20倍くらいのCAPEXを計上したとするよね。そして、それが償却性資産を購入したことによるとしようか。
◎ええ。
◆◆そうすると、本来であれば翌年度以降の減価償却費が増加してタックスシールドによる税務メリットが取れるにもかかわらず、強制的に計画期間を終了させてしまうことで、それを無視してしまうことになるよね。
◎なるほど。
◆◆本来のDCF法はビジネスが安定化して、FCFのブレが少ないタイミングまで計画してから残存価値計算をすべきなんだけども。
◎ご指摘の点はわかります。ただ、実務上は事業計画の期間は3年〜5年程度ですよね。その最終年度に巨額の設備投資があるっていうケースもゼロってわけじゃないような気がしますけども。
◆◆そう。ゆえに、ケースバイケースではあるものの、DCFモデル上の計画期間だけ延ばすという考え方もあるよね。
◎その場合売上・利益はどうするんですか?
◆◆事業計画最終年度に合わせるよ。もちろんEBIT横ばいじゃなくてEBITDA横ばいなんだけども。
◎ただ、それだと0%成長の定率成長モデルとは整合しますが、0%成長じゃ無いケースの場合は結果がぶれますよね。
◆◆するどいね、そのとおりだよ。高成長ビジネスでDCFの計画期間を無理やり横ばいで延ばすことが不合理となる場合には、計画期間を延ばさずに、減価償却費の税務メリット部分だけ別計算してEVにアドオンするという方法も採られることもあるかな。
(6)その他
◆◆あとは、そもそもの事業計画の合理性チェックを除外するとしても、
- 実効税率
- 運転資本計算(特に初年度が過年度と不合理に断絶されて謎のFCFが発生していないか)
- 連結のれんの税効果をみてしまっていないか
- 1株あたり価値算出時の発行済株式総数が潜在株考慮をしているか
- 自己株式として控除する数が連結上の自己株式数になっているか
- 非支配株主持分の計算ロジック(そもそも、EVから非支配株主持分を控除しているかも含めて)
- えとせとら、えとせとら、、、
といった感じでいろいろなチェックポイントがあるんだけどね。
◎こうやってみてみると、レビューするのも大変ですね。
◆◆もちろん大変だよ。むしろ1セルずつでチェックしていると、これは作り手の方が楽なんじゃないかと思う時もあるほどだからね。
◎わかりました。落ち着いて時間を確保してレビューを進めます。