週刊M&Aバンカー第48号:株式交換における持株会対応

週刊M&Aバンカー
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「M&A案件ありませんか?」

というお買い物系の話はいかにして上手く避けていくかが大事なポイントかなと。

売りの話ならいざ知らず「とりあえず買いたいです」という話に付き合うのは労多くして功少なしになりがちだからです。

他社の話ではありますが、対面に立てるようになったばかりの若手がその手の話で消耗しているのを見ると気の毒だなあと感じる次第です。

さて、今週は、

【M&A講座】株式交換における持株会対応

です。いつもの先輩と後輩の対話を通じて、株式交換において、完全子会社となる側に持株会がある場合の対応方針をみていきましょう。

(文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です)

【M&A講座】株式交換における持株会対応

株式対価の株式交換だからこそ対応が必要となる「持株会」

◎先輩こんにちは。株式交換の案件ってTOBほどじゃないですが、しばしばありますよね。

◆◆そうだね。世間的には現金対価の方が好まれるのだろうけれども、株式対価ならば投資が絶たれず、課税を受けないというメリットもあるからね。

◎ええ。親会社になる会社の株式を持っていてもいいかなと思える案件であれば現金を渡されて退出させられるよりも望ましいかもです。

◆◆株式交付の制度を使って、一段階目のTOBは株式対価で、二段階目を同等の価値の現金を対価とするスクイーズアウトにして、どちらかの対価を選んでもらうっていう案件が出て来たりして。

◎それで、今日はちょっとマイナーといいますか、株式交換における持株会対応について確認したいのですが。

◆◆たしかに持株会対応は主要論点ではないかもだけど、従業員を大切にするという観点で、しっかりと論点整理をしておいた方がいいところだよね。

◎具体的には「持株会は株式交換に伴いどうすれば良いんですか?」っていう質問についてどう回答すべきか逡巡しているところなのです。

持株会の対応方針(例)

◆◆一歩ずつ整理していこうか。まず前提として、持株会対応そのものは法人関係情報取扱い(インサイダー取引規制)の観点で案件の公表後に行うべきってことは覚えておいてね。

◎ええ。案件公表後にスムーズに具体的な検討に移れるように、事前に事務局メンバーの皆様に大枠をインプットしておくための論点整理という理解でおります。

◆◆あと、具体的な持株会の対応方針はあくまでも持株会を管轄している証券会社マターであって、実務という意味ではM&Aのアドバイザー(FA)の業務外だから「あくまでも一般論での例示」というスタンスを崩してはダメだよ。

◎はい、その点も承知しております。

◆◆まず、従業員持株会に特化して考えてみるね。株式交換に際して従業員持株会のとれる選択肢は、概ね次の3つになるイメージかな。

  • 解散&新規加入
  • 残高移行による統合
  • 拡大従業員持株会へ移行

◎なるほど。「拡大従業員持株会」っていう名称はときどき聞きますので、これが一番メジャーな方法なんですかね?

◆◆いや、後で説明するけど、拡大従業員持株会には厳しいデメリットがあるからメジャーとはいえないかな。

◎え、そうなんですか、ちょっと驚きです。

1. 解散&新規加入

◆◆まず、一つ目の選択肢は「解散&新規加入」なんだけど、簡単に言えば、

  • 子会社側の持株会は解散(任意の時点で退会精算)
  • 株式交換後に新規に親会社側の持株会へ加入(持株会の会員権の付与)

という2つの対応をそれぞれ行うんだ。

◎なるほど、単純な手続なのかもしれませんが、わざわざ解散させて、その後新規加入っていうことは煩雑じゃないですか?

◆◆そうだね。どちらかというと持株会会員(従業員)目線では煩雑になる方法かな。ただ、手続は各種規約に定められているから、粛々と対応していけば問題なくできる方法だね。

◎そうなんですね。

◆◆ちなみに、解散に伴って持株会会員に単元株以上が帰属した場合には、証券口座に預け入れる必要がある点には留意してね。

◎要は、単なる自分名義の口座の株式になっちゃうってことですね。

◆◆さらに、持株会会員目線ではこれまで貯めてきた持株会残高がゼロになってしまう点が寂しいと感じられるところとも言えるかな。

2. 残高移行による統合

◆◆次に、二つ目の選択肢は「残高移行による統合」なんだけど、これは次のステップで対応する感じだよ。

  • 持株会会員の同意のもと子会社側の持株会を親会社へ移管する前提で解散
  • 株式交換効力発生日に持株会財産たる子会社株式が親会社株式に交換
  • 親会社側の持株会として残高移転及び統合(加入)

要は、会員個人に持株会の残高を帰属させず、一括して親会社の持株会に残高を移管してしまうんだ。

◎なるほど、こちらの方が手続が少なそうですね。

◆◆それは持株会会員(従業員)目線での話ならね。会社や持株会を運営する証券会社にとってはこちらの手法の方がシビアな対応が求められるから大変なんだよ。

◎ということは、

  • 解散&新規加入 → 従業員が煩雑
  • 残高移行 → 会社・証券会社が煩雑

という特徴があるわけですね。

◆◆ざっくり言えばそのとおり。そして、結果的な違いとしては、持株会会員個人の証券口座に株式が預け入れられるか否かっていうところが変わってくる感じだね。

3. 拡大従業員持株会へ移行

◆◆最後に「拡大従業員持株会へ移行」なんだけど、これは、

  • 子会社側の持株会は存続(解散しない)
  • 持株会の規約を改定して拡大従業員持株会となる
  • 株式交換効力発生日に持株会財産たる子会社株式が親会社株式に交換
  • 株式交換後は親会社の株式を買い付けていく

というものだね。

◎なんか聞く感じ一番シンプルで良さそうに聞こえるんですが。

◆◆と思うでしょ。ただ、この制度には先ほどちょっと頭出しした通り結構なデメリットがあって、

子会社の子会社(親会社から見れば孫会社)の従業員は加入できない

という特徴があるんだ(持株制度に関するガイドライン/第3章-3(日本証券業協会))。

◎え、ということは、もし子会社になる会社の子会社の従業員が持株会員だったらどうなるんですか?

◆◆その従業員の方には一律で退会してもらわなければならないんだ。

◎それは具体的な案件における持株会の運用次第ですが、子会社になる会社の子会社にも会員権がある場合にはデメリットが大きいですね。

◆◆ということで、拡大従業員持株会はなかなか選択し難いケースが多い感じだよ。

◎念のための整理ですが、

  • 従業員持株会:当該会社のみならず子会社や孫会社の従業員も加入可能
    • ただし、子会社側の持株会(ハコ)を処理しなければならない
      (本記事の第1案or第2案に従う)
  • 拡大従業員持株会:当該会社(子会社)の従業員のみ加入可能
    • いまのままの「持株会(ハコ)」を使える(親のハコとは別のハコとして)

ということですよね?

◆◆そのとおりだよ。

さいごに

持株会対応というのは、マイナーと言っては失礼かもしれませんが、FAとしてちょっと疎かにしがちなところである印象です。

ゆえに、「その辺は案件公表後に持株会を担当している証券会社に聞いてください」とさらっと逃げるというやり方もあるかもしれませんが、頭出し的に”どのような選択肢がありそうか”というところは触れておいた方が良いのではないかと感じている次第です。

ただし、本文中でも触れたとおり「一般論での説明」というスタンスで臨み、具体的には親側・子側双方にて持株会対応している証券会社に確認するように補足しておきましょう。

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