週刊M&Aバンカー第47号:FA業務と一括りにいってもファーム・チームによって相応に異なる話

週刊M&Aバンカー
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「やりたいことは選べないかもしれないが、やりたい姿勢ならば選ぶことはできる」

とは、誰の名言であったか。

20代の夢見る若者ならいざ知らず、酸いも甘いも噛み分けたはずの大人ならば現実的な目線で物事を見られるのではと思うところ。同じような意味で「夢」という言葉も大人が使うのには違和感を感じる。それを「夢」扱いしている限りはほとんど何も変わらないはずだから。

さて、今週は、

【M&Aとキャリア】FA業務と一括りにいってもファーム・チームによって相応に異なる話

です。いつもの先輩と後輩の対話を通じて、M&Aアドバイザリーの仕事(FA業務)に対する姿勢の在り方をみていきましょう。

(文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です)

【M&Aとキャリア】FA業務と一括りにいってもファーム・チームによって相応に異なる話

後輩の友人がM&Aアドバイザリーの仕事を辞めようとしているらしく

◎先輩、こんにちは。大学時代の友人が2年くらい前にM&Aアドバイザリーファームに転職したんですよ、うちの会社じゃないんですが。

◆◆そうなんだ?

◎ええ。ただ、いざ仕事をしてみると転職前に思い描いていた「面白そうな仕事」じゃなかったということで、また転職を検討しているらしいんですよね。

◆◆君の大学時代の友人ってことは、まだアソシエイト位かな?

◎アソシエイト1年目として採用されたらしいです。

◆◆それで、M&Aアドバイザリー業務(FA業務)のどんな点が不満だったんだろうね?

◎いくつも愚痴を聞かされたんですが、こんな感じでしたね。

  • 雑用が多すぎる
  • 拘束時間が長い
  • 専門性が身に付かない
  • あまり付加価値のある仕事じゃない

◆◆なるほど、辞めたい人が理由として挙げるような話だ。

◎そうなんですよ。まあ、その友人はジョブホッパーの傾向があるのでどこに行っても不満は持ちそうですけども。友人としては面白くて良い人なんですが。

雑用の多さと拘束時間の長さは否定できない

◆◆ご存知のとおり、僕もアソシエイトからこの仕事を始めたから「雑用の多さと拘束時間の長さ」というところは理解できるけどね。物理的にデータルームに貼り付いてひたすらコピーをとるなんてこともあったっけ。

◎ええ。雑用が多くて忙しいという点は私も否定はできないです。

◆◆でも、「専門性が身に付かない」と「あまり付加価値がある仕事じゃない」というのは、同意はできないなあ。

◎私も気になったので、なんで専門性が身に付かず、付加価値がないと思うのか聞いてみたんです。

◆◆どんな感じだったの?

◎友人曰く、たとえば株式譲渡案件で買手側のFAとして関与する場合、

  • スキームは所与で工夫する余地なし
  • 全体の工程管理(スケジュール調整)もほとんど雑用
  • DDは専門家が実施するのでFAはコーディネートという雑用に終始
  • Valuationは唯一FAの意義ある仕事だが、所詮は数値を合わせに行くことが目的
  • 株式譲渡契約(SPA)については弁護士任せでFAはコーディネートのみで実質関与なし

という具合に、Valuationを除けば何ら専門的ではないということらしいんですよ、ゆえに付加価値もあまりない、と。

M&Aアドバイザリー業務(FA業務)は専門性が身に付かないのか?

◆◆色々ツッコミどころがあるけれども、そのファームなのかそのチームなのかはわからないけれども”不幸な組織”に所属していた感があるよ。いつも言っていることだけど、FAの仕事って簡単にいえば、

  • 何を買うか(これは所与のことも多い)
  • いくらで買うか(Valuation)
  • どうやって買うか(スキーム策定、条件、適法性)

についてアドバイスすることだよね。

◎ええ、それは何度も教えてもらったのでさすがに覚えています。

いくらで買うかについて

◆◆いくらで買うかについて考えてみれば、Valuationは最後は”合わせにいく”という姿勢も必要だけど、複数のシナリオを分析しながらロジカルにいくら位が妥当なのかを検討するじゃん。もちろんお手盛りにならないようにクライアントの意向に基づきという建前は持ちつつも。

◎すくなくとも我々の会社はそういう姿勢ですね。

◆◆さらに、売手FAやそれ以外の様々な情報ソースから売主の考える”売っても良い金額”や、入札案件であれば他の候補者の出しそうな金額を推察して、合理的な範囲内で勝てる金額を検討していくよね。

◎ええ。

◆◆それって、結構付加価値のある仕事だと思うんだけどなあ。

◎ファームのポリシーなのかもしれませんが、友人のところは、入札戦略を考えるとかそういうことはしなかったみたいですね。単に計算屋さんとして金額を出すだけという具合に。

◆◆確かにそれじゃあつまらないな。

どうやって買うかについて

SPA交渉への積極関与

◆◆次に、どうやって買うかという点について、ちょっとびっくりしたんだけど、SPA交渉にFAは実質的に関与しないって、そんなファームあるんだ???

◎ええ。それは私も驚いたのですが、論点整理から交渉方針策定、そして実際の交渉まで弁護士に丸投げだったらしいです。

◆◆それでよく案件がまとまったね。

◎相対だったかららしいです。

◆◆なるほど。感覚的にはSPA交渉で弁護士同士を話し合わせて”まあるく収めまっせ”になることってほとんどないんだけどなあ。

◎ええ。双方プライドがあって譲りませんから。

◆◆そういうときに、FAが下ネゴを繰り返してなんとか軟着陸するように調整していくわけじゃん。

◎SPA交渉の佳境になると、うちのプロマネは相手方FAのプロマネと日々頻繁に電話してたりします。

◆◆相手方との関係性でいえば相手方FAとの密なやり取りが必須だし、クライアントとの関係性でいえば落とし所を見据えた論点整理をしていく必要があって、SPA交渉フェーズは毎回かなりしんどいよ。

◎それが、友人のファームでは日程調整をしてあとは何もしないって感じで「SPA交渉への関与は楽な作業」だっていう印象らしいのです。

◆◆それで報酬がいただけるなら、すごいところだな。

スキームは所与に見えても工夫の余地はいろいろある

◆◆あとさ、スキームが所与で工夫する余地がないっていうのも驚いたんだけど。

◎といいますと?

◆◆売主が株式譲渡を希望していても、双方での交渉の結果、事業譲渡や会社分割にできることもあるし、株式譲渡のままであっても親子ローンがついていた場合の処理方法とか工夫すべき点はたくさんあると思うんだよね。

◎たしかに、売手FAとして起用される場合で相手方からスキーム変更の注文がきて、それに合意することもありますね。

◆◆そうなんだよね。M&Aは案件ごとのテーラーメードだから、一見所与に見えることでも、その条件を動かすこともできるかもしれないんだ。

◎要はなんでも交渉可能だと思って扱えってことですよね。

◆◆個人的には「スキームは所与だから・・・」といって何もしないのはFAとして受け身な姿勢すぎじゃないかと思ってしまうところだよ。

結論:ファームやチームによるけれども専門性が身に付く働き方もある

◎それで、結局FA業務って専門性が身につく付加価値のある仕事なんですかね?

◆◆個人的には専門性は間違いなく身につくと思うよ。ただし、それは自分自身として、身につくような働き方をする場合に限るけれども。君自身はどう思うの?

◎個人的には、ジュニア層なので雑用も多いですし相手方FAと最前線で交渉・調整するわけではないので、Valuation以外の専門性が身についているかというとちょっと疑問は残りますね。

◆◆なるほど。同じファームに所属していても、職位やチームによって認識に差はありそうってわけだ。

◎ええ。でも、同期入社で先輩のチームにいるメンバーに聞くと日々法律の条文やら法大全やらで調べまくっているらしく、かなりスキーム策定に詳しくなったみたいでうらやましいですね。

◆◆うちのチームはそういう姿勢を求めているからね。「まわりに許容される範囲内で」という条件付きではあるけれども、積極的に仕事を作っていく姿勢があるかどうかで成長速度は変わってくるし、その結果、その仕事を面白いと思えるかどうかもだいぶ違ってくると思うところだよ。

◎なるほど。

◆◆そして、自分が意義があるはずの仕事をしていく結果としてクライアントが「貴社をFAとして起用して良かった」と思ってくれたのなら、それが付加価値のある仕事をした証左でもあるんだろうね。

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