週刊M&Aバンカー第35号:先生のパラドックス

週刊M&Aバンカー
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早いもので3月ももう終わりですね。

例年桜の開花は早まっていますが、今年は殊に早いですね。

一時期、新幹線で遠出をして御室桜→仁和寺を訪問して花見の締めをしていた時期もあったのですが、最近は訪問できていないので寂しい限りです。

(御室桜はそもそも桜の満開が遅い京都の中でも遅咲きの桜なので、東京のお花見シーズンが終わっても京都でまた楽しむという仕掛けでした)

さて、今週は、

【仕事術】先生のパラドックス

です。

軽く読んでいただきたい話題なので、いつもの先輩と後輩の対話記事にしたてております。

(文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です)

【仕事術】先生のパラドックス

先生のパラドックスという言葉をご存知ですか?

◎先輩、こんにちは。いきなりですが、「先生のパラドックス」っていう言葉を知っていますか?

◆◆え、突然だね。うーん、聞いたことないかも。

◎ですよね、いま私が考えた言葉ですから。

◆◆なんだい、そりゃあ。

◎すみません、言いたかった内容としては、こんな感じです

  1. 世の中の先生と呼ばれるひとたちは、誰もが「その知識を何も知らない」というはじまりの前の時代があった
  2. 先生は勉強し、(多くの場合)国家資格としてお墨付きを得られる程に成長した
    (それを教える対象(学び手・生徒)より、その知識についてとても詳しくなった)
  3. しかしながら、先生はその知識を詳しく知り慣れ過ぎたため、「それを知らなかった状態」を忘れてしまう結果、上手い説明ができなくなる

◆◆なるほどね、専門家、つまり先生と呼ばれるひとたちが

「”わからないという状態”がわからず、難しいことを難しく説明する傾向にある」

ということを言いたかったのね。

◎はい、簡単にいうとそんな感じです。パラドックスというのは、

正しそうに見える前提と、妥当に見える推論から、受け入れがたい結論が得られる事

らしいですね。詳しくなるために勉強したはずなのに、結果的にわからない状態を忘れてしまい、難しいことを簡単に説明するのができなくなるというのは不合理ですから。もちろん、そんな頭でっかちの先生ばかりじゃないのはわかってますけども。

先生(専門家)の説明はわかりにくいことも・・・

◆◆ところでなんでそんなことを思ったの?

◎M&A案件で様々な専門家、すなわち弁護士、会計士、税理士等の先生方と協働するようになって、正直言って”先生方の説明ってわかりにくいなあ”と思ったからなんです。

◆◆わかりにくい?

◎ええ。もちろん、私どもFAにとってわかりにくいということじゃなくて、クライアントである事業会社の皆様にとってわかりにくいっていう意味なんですけどね。難しい専門用語や略号を説明抜きで使ったり、前提知識を確認せずに詳細なパートに入ったりと。

◆◆まあ、そういう先生がそれなりにいることは否めないね。

◎ええ、それでなんでそうなっちゃうんだろうなと思ったときに、専門家として詳しくなりすぎたので、わからない時の気持ちを忘れちゃったんだろうなと考えたわけです。

それはFAにも言えることかもしれない

◆◆でもさ、それって別に専門家の方々に限らず、FAにも言えることじゃない? もちろん、我々は先生じゃないけども。たとえば、Valuationの報告ひとつとっても、わかりにくい説明をする担当者も結構いるよね。

◎それは耳が痛い話です。

◆◆たとえば、DCF法の説明ひとつとってみても、クライアントのメンバーの前提知識を確認せずにいきなり詳細に語り出す人がいるよね。

◎ありますね。そういうときにクライアントのメンバーの顔を見ると、”ポカーン”としてたりしますからね。

◆◆そうなんだよ。相手が「難しくて理解できないな」と思って呆然としてしまっているならば、それはさながら”眠くなる校長先生”の話と大差なくなっちゃうよね。

◎校長先生の話よりもまずいですよ、だって我々は対価をいただいて仕事をしているわけですから。

◆◆もちろん、そうだね。

◎どうすれば、先生のパラドックスに陥らずにいられるのでしょうかね?

先生のパラドックスを避けるために

◆◆先生的なひとによる説明の問題点を洗い出すと、

  • わからない状態を忘れているがゆえに
    1. 相手の前提知識を確認しない
    2. 難しいことを難しくしか説明できない

っていう感じだったかな。

◎はい。

ひとは”わからない状態を忘れる”ということを大前提として捉える

◎まず一つ目はわからな状態を忘れてしまうという点ですが。

◆◆たしかに、我々もValuation実務を知らなかった時代の感覚をもう取り戻すことは難しそうだよね。他にも、決算書をみたときに最初に感じた、

「この文字と数値がある意味で”綺麗に並んでいる”表はなんだろう!」

という感じも、あまり覚えていないはずだよね。

◎その”綺麗に並んでいる表”ってのは、バンランスシートのことですかね(笑)。たしかにそれらの知識を持っていなかった時代の感覚は、私も具体的には思い出せないですね。

◆◆そうそう、BSのこと。ひとは自分は変わらないと信じ込んでいるのかもしれないけれども、実は時の経過とともに相当に変わっているんだろうね。1年前の自分と今の自分とでは別人の部分の方が多いのかもしれない。でも、それを別人と捉えちゃうと人格が破綻しそうじゃない?

◎そうかもですね。なので、自分は変わっていないと”錯覚”しておいた方が都合が良いのでしょうね。

◆◆前提として自分も含めてひとは変わるし、そして忘れるということを肝に銘じておく必要があるよね。何かに詳しくなってしまえば、それを知らない状態には戻れないわけだ。いまの自分が知っていることは万人の当たり前なんかじゃなくて、それをわからない人の方が多いのだということで謙虚さを忘れてはいけないかな。

◎わからないひとの気持ちに寄り添う気持ちが大切ですかね。

説明の前に相手の前提知識を確認する

◎次に、相手の前提知識を確認しないで話を進めてしまうという傾向についてですが。

◆◆それはある意味でシンプルに解決できるよね。人に何かを説明する際には多少煩雑であっても相手の前提知識を確認することを習慣化すべきってことだろうから。

◎「こんなのは知っていて当たり前だ」っていう自分の尺度で相手を決めつけないようにしたいってことですよね。

◆◆うん。ちなみに、説明の会議のその場で前提をああだこうだと確認するというよりも、事前にクライアントの窓口の方に「当日どの程度のレベル感で説明するのが望ましいか」をヒアリングしておく方がスマートではあるかな。

◎いずれせよ、丁寧に相手方の状態を探っておくことが重要ですよね。

◆◆そのとおりだよね。我々の目的は「何かをいうこと」じゃなくて「相手に理解していただくこと」だからね。

難しいことを簡単に説明するために

◎最後に、難しいことを難しくしか説明できないという点についてはどうでしょうかね。

◆◆言葉を選ばずにいえば、難しいことを難しくしか説明できない人っていうのは、専門家としてまだまだ発展途上だと思うんだよね。経験則からも、本当にすごい先生というのは難しいことの本質をシンプルにわかりやすく伝えるのが本当に上手いから。

◎そうなんですね。

◆◆ポイントのひとつは、”たとえ話”を上手く使うことだと思うんだよね。たとえば、会計士の田中先生が決算書超入門の本で図示しながらおっしゃっていた、

BSは点、PLは線だから、●(BS)ーーー(PL)ーーー●(次のBS)

という比喩としてのたとえは、「BSはストックでPLはフローです」って文字の説明よりも、その関連性をイメージを持ってとらえやすくなるわけですごく上手いなと感じるところだよね。

◎なるほど。

◆◆ちなみに、たとえ話っていうのは具体例をあげる方法と何かに喩えてイメージを掴みやすくする方法の2つがあると思うんだよね。いずれも、説明したいことの本質が何かを考えて、それをできるだけ伝わりやすくするために”たとえ”を駆使するという感じかな。

◎となりますと、

  • 本質を捉える力
  • その本質をたとえ話を使って相手に伝える力

の2つを磨いていくのが良さそうですね。

◆◆そうだね。

さいごに

本文中でも触れたように、難しいことをいかにわかりやすく相手に伝えるのかというのは難儀な作業ではあります。

たとえば、当ブログではM&A専門知識をわかりやすく伝えるために、無知な後輩とモノシリな先輩の対話を通じて知見を共有する試みもしていたりするのですが、それが本当にわかりやすいのかどうかというのは書いている当人だとよくわからないという側面もあったりします。

いずれにせよ、わかりやすく説明するにはどうすれば良いかということをいろいろと模索していきたいと思います。

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