週刊M&Aバンカー第41号:TSA(Transition Service Agreement)にまつわる留意点

週刊M&Aバンカー
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あっという間にGWも終わってしまいました。かなり気温が上がってきて初夏を感じますね。

さて、今週は、

【M&A講座】TSA(Transition Service Agreement)にまつわる留意点

です。

【M&A講座】TSA(Transition Service Agreement)にまつわる留意点

今回のポイント

株式譲渡や事業譲渡案件では、譲渡対象となった会社・事業がスタンドアローンでは機能として欠けている部分があるケースもあります。

そのような場合、TSA(Transition Service Agreement)という”移行期間中のサービス提供に係る契約”を締結することが一般的です。

今回は、そのあたりにまつわる話とFAとして気をつけておきたいポイントについて考えてみます。

TSAとは何か、なぜ必要なのか → 譲渡対象企業(事業)が単独では機能しないかもしれないから

子会社の譲渡や事業譲渡においては、その子会社なり事業なりが単独で切り離された場合(カーブアウトされた場合)に機能として欠けていることがあります(といいますか、基本的には何らかの機能が欠けていることがほとんどでしょう。ある意味でスタンドアローン問題の一種ともいえます)。

どのような機能が欠けやすいかといえば、

  • バックオフィス業務(総務・経理・人事)
  • ITシステム
  • ロジスティクス(仕入・調達・物流)
  • オフィス・工場(の間借り)

といったあたりがあげられるでしょうか。これらの業務のうちのいくつかは、売主(親会社)と共通化されていて、対象会社(事業)でも単独で機能を有していないことがあります。

そのような場合、譲渡後に買主側がそれらの機能を準備するまでの一定期間、業務が滞りなく進捗するようにTSAを締結しておく必要があるわけです。

FAとしてTSA関連で気をつけておきたいこと

1. デュー・ディリジェンス(DD)フェーズ

まず、DD専門家(弁護士・会計士・税理士、等)がスタンドアローン問題について、網羅的に調査しているかどうかをモニタリングする必要があります。

DDというと、対象会社の問題点として金額的インパクトのある論点を重視しがちですが、スタンドアローン問題も重要な論点の一つです。なので、それらについてもしっかりと調査されているかはチェックしておきましょう。

不慣れなDD専門家だと、スタンドアローン問題の調査がばっさりと抜けることもあるので気をつけたいところです。

2. 最終契約交渉フェーズ

TSAは最終契約締結後に確定することが多い

最終契約(株式譲渡契約・事業譲渡契約)の交渉時に、あわせてTSAの交渉をすることもありますが、どちらかというとTSAはSPA締結後、クロージングまでに締結するという枠組みで整理されるケースの方が多い印象です(要は、クロージングの前提条件としてTSAの締結を入れておく)。

一方、できる限りTSAのドラフトを作成しておき、最終契約の別紙としてそのドラフトを添付するという方法もありますので、案件ごとの性質に応じてどの程度最終契約締結時に並行して決めておくか検討することになります。

TSAは最終契約で大枠を決めておくべきである

仮に、TSAは最終契約の後に締結するとなった場合でも、最終契約そのもので何ら手当をしないとなるとあとから問題が発生することになります。なぜなら、TSAはクロージング後の金銭の授受に直結するからです。

簡単にいえば、株式譲渡代金を合意したとしても、TSAでサービスの対価として授受される金額を白紙にしてした場合、TSAで金額を大きくふっかけられてしまうかもしれません(株式を安く買い叩けたとしてもTSAで大きく取り返されてしまうような「江戸のかたきを長崎で討つ」事態になりかねません)。

したがって、TSAは最終契約締結後に改めて協議・締結する枠組みの案件であっても、TSAに規定する金額の大枠の方針は最終契約そのものにおいて規定しておくべきでしょう。具体的には、

  • オフィス・工場の間借りを継続するなら、その単価の決め方(イメージ)
  • ITシステムにつき、外部ベンダーに払っているものと社内完結しているものの請求方針
  • バックオフィス業務を継続するならば、その料率(例:人件費相当の付け替えのみとか)

といったあたりを大方針として合意しておく必要があるわけです。

この辺りはまっとうな弁護士が関与していれば抜け漏れすることはないのかもしれませんが、不慣れな弁護士が関与した場合等でFAとして積極的にサポートする必要が出てくることもあるかもしれません。

3. TSA交渉フェーズ

最終契約においてTSAの大枠を決めていれば、あとは具体的な実務面を売主・買主の双方で協議していくことになりますので、FAとしての関与は最終契約ほどではないということも考えられます。

ただし、最終契約締結後にそれまでには判明していなかった対象会社(事業)の瑕疵(問題点)が判明することも時折あります。

そのような場合で、本来は譲渡代金を調整すべきところ、TSAの請求額を売主・買主の誠実協議によって調整することで、大事にはしないという進め方もありえます。

(最終契約の修正となると改めて最終契約の修正に係る取締役会決議が必要となり、大事になるため、TSAの締結内容をうまく調整することでことを穏便に済ませたいという意向が働くことがあります)

さいごに

TSAは最終契約(株式譲渡契約・事業譲渡契約)と比べると、ちょっとマイナーに感じられることもあると思いますが、案件の詰めとして重要なパートとなります。

FAとしての関与は最終契約の交渉時ほどは積極関与とならないケースもあるかもしれませんが、聞かれた際にしっかりと対応できるようにしておきたいところです。

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